その349

キルトログ、バストゥークからの客人たちに会う

 ハリスのもとに、記憶の一塊を持ち込んだ。彼は鷹揚に受け取ると、しばらく待つように言う。彼いわく、昔はアニマの精製に1日を有したのだが、近頃では腕を上げて、即時に作れるようになったそうだ。クリスタルの合成術のようなものだろう(注1)

「さあ、これだ」と彼は塊を戻す。特別、外見が変わったようには見えない。

驚のアニマは、虚ろなるものをひるませる。あらゆる行動を封じることが出来るが、特殊攻撃はこの限りではない。
 特殊攻撃を止めさせたいなら、迷のアニマだ。こちらは敵を躊躇させる。ただし反対に、通常攻撃を抑えることはできない。
 恐怖心を与えることも可能だ。脅のアニマを使いたまえ。虚ろなるものはきみたちを恐れ、逃げ回る。もし形勢が不利であったら、その間に立て直すことが出来るだろう。
 問題は、いずれのアニマも時間がもたないことだ……せいぜい30秒。ただ、熟練の冒険者なら、戦闘中30秒時間が稼げれば十分じゃないかな。使い方さえ間違わなければ、大きな助けになると思うよ。
 アニマは一度使用するとなくなってしまうから、くれぐれも慎重に扱うことだ。何せ貴重なものだから……」

 言い終わると彼は右手を出し、アニマの精製代を要求する。ひとつ2000ギルが3つ、6000ギル! ぶつぶつと言いながら私は金を払う。3つの秘密兵器を持参し、今度はプロミヴォン・メアへと立ち向かう。
 

 メア岩までは、Leeshaに送ってもらった。早速テレポイントを確認にいく。
 クリスタルはやはり無残に砕けており、デムと同じように、小さな渦巻きを伴っている。おそらくここに触れると、プロミヴォン・メアの内部に飛ばされてしまうに違いない。

 次元転移の理屈について考えていたら、階段下で足音がした。ざく、ざく、ざくと、大足で何かが駆け抜けていく。誰かがチョコボに乗り、ここで下りたようだ。身を隠そうかどうしようか、少し迷った。足音は階段を上ってくる。こころなしか、それはふたつあるように聞こえる。

「あら」
 女の声がした。
「あなた、一体ここに、何のよう?」
 私は振り返った。立っていたのは、アヤメだった。


 アヤメは腕を組んで、私を見つめている。私がこの場に居合わせたことに、どうやら不信感を抱いている様子である。

 アヤメの後ろから、ヒュームの男が姿を現した。背はさほど高くないが、がっちりした体格で、熊のような髭を生やしている。若々しい感じはしない。おそらくアヤメより10歳、その倍くらいは年長であろう。

 不信感を持たれても、と私は思った。彼女たちが国を離れて、わざわざタロンギくんだりまで来る方が、よっぽど怪しい行為ではないか。

「そこ! 何をしている!」

 下から声が響いた。3体のチョコボが見える。2名の部下を引き連れて、我々を見上げ、恫喝しているのは――純白の鎧を身に纏った、大公親衛隊のウォルフガングだ。


砕け散ったテレポイント

 私はくすくすと笑った。役者が揃いつつある。次に来るのはアジド・マルジドか、はてまたトリオン王子か、ハルヴァー宰相か?
 ところがアヤメは、私の笑いを不謹慎と受け取ったのだろう、余計に眉間の皺を深くしたのである。
「ごきげんよう、隊長」
 ヒュームの男が、階段の下へ手を振った。
 ウォルフガングが、鎧をかちゃかちゃ言わせながら上がってくる。
「あなた方は……いったい、何をしておられるので」
 彼は小声で言った。言葉に勢いがない。ここにいたのが私だけだったなら、叱り飛ばされていたに違いない。

「テレポイントの調査でしてな」
 ヒュームの男が、髭をかきながら言った。
「あんたも承知してると思うが、近頃デム岩周辺のクリスタルが、不規則な反応を見せておる。不安定になっているんだが、その触れ幅が、どうにも尋常じゃないのでな。いろいろ調べておったわけだ。
 話によると、クフィムの北の海原に、巨大な怪物が現れたそうじゃないか。ことを同じくして、デムのテレポイントは砕け散ってしまった。ではメアはどうだろうと、駆けつけてみたわけだよ。そしたら、ほれ」
 男は、床に散乱した破片を指差した。
「この調子じゃ、ホラの岩もどうなっているかわからない。
 冒険者の噂では、中は空洞だそうじゃないかね。プロミボンとか言ったかな」

 男はテレポイントに近づこうとした。ウォルフガングが後ろから手を伸ばし、彼の肩をぐいと掴んだ。
 ウォルフガングの手には、見かけ以上の力が篭っているようだ。アヤメがハッと息を飲んだ。男がゆっくりと、ウォルフガングの方を振り返った。
「どうしたね、隊長……」
 彼は落ち着いて尋ねた。
「テレポイントの調査は、我々に任せていただけませんか」
 ウォルフガングの声は低かった。
「もちろん、親衛隊ではなく、我々の機関が、ということですが」

「あんたは、いつからアルマターの人間になったんだね」
「いえ……」
「それとも何かね。それは大公の命令なのかね」
「ナグモラーダ閣下のご命令は、大公陛下のご意志と考えられてよろしいかと思います」
「何だと?」
 男は血色を変えた。
「我々バストゥークの人間が、なぜジュノの、しかも大公顧問に従わないといけないのかね? もっとも、アルマター機関が掴んでいる情報を、大工房に流してくれるというなら、考えないではないがね」

 ウォルフガングの顔色が白くなった……しかし彼は、驚異的な忍耐力で、この侮辱を乗り切り、何とか冷静に言葉を搾り出した。
「デム、メア、ホラの岩では、我々による調査作業が進んでおります」
「そうだろうね」
「幾人もの行方不明者が出ているのです」
「ほう」
「我々は、これ以上の被害者を出すわけには行かないのです。特にあなたのように、ヴァナ・ディールにかけがえのない人物は。ご理解いただきたい……シド大工房長殿」

 私は驚いて、男の顔を見つめた。シド! 高名な技術者で、世界で最も有名な発明家だ。技術畑で政治権力は持たないようだが、存在の大きさは無視できない。カルストが現大統領に当選したのも、彼の推薦によるところが大きかったという。

 私は改めて、この生きた伝説を見つめた。とはいえ、彼の正体を知らなければ、腹の出たおやじ以外の何者にも見えないのだが。

「これらの現象は、何かの予兆に思えてならん」
 シドがうっそりと言った。
「テレポイント事故の原因を、機関は掴んでいるのかね? ことによれば、一国の機密事項で済む話ではない。今回の騒動がもし世界的なものなら、国益という部分を越えて、我々はもう一度共闘しなければ……そう、23年前のように……」

 そのとき、地面がぐらぐらと揺れた。「あぶない!」とアヤメが叫んだ。途端に襲う強い衝撃。メアの岩が爆発したか、と思った瞬間、私は異空間へ、プロミヴォン・メアの中へと吸い込まれていた。


注1
 Anima【アニマ】=ユング心理学では、男性の深層心理にある女性的なものを意味しますが、ここではラテン語の本来の意味“魂”で使われています。
 アニマの精製クエストには、昔1日(ヴァナ・ディール時間で。日付をまたぐ)を要していたのですが、バージョンアップで短縮されました。現在、アニマはすぐに受け取ることが出来ます。


(05.05.08)
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