その353 キルトログ、ルフェーゼ野を歩く 「ここはどこだ……なぜ私は、こんなところにいる?」 ナグモラーダの声がする。 「見たところ、随分と西のようだが……」 轟音。 「今のは?」 彼が立ち去ると同時に、草を踏みしめる足音が近づいてきた。単体ではない。2人、いや、3人といったところだろう。 「でかい彗星だ! すげえ!」 子供の声だ。 「空が割れたぞ!」 もう一人。 「あっ、どざえもんだ!」 甲高くて細い声……こっちは女の子か。 「どざえもんって、何だ?」 「おぼれ死んだ人だよ」 「いやいや、息してるぜ、見ろ!」 彼らは私を見つけたようだ。わらわらと周囲に群がってきて、身体をぺたぺたと触り始める。 この感触には覚えがある。紅葉のように小さな手。 「これは……あいつのだろ」 アミュレットの紐が引っ張られた。 「どうしてこいつがつけてるんだ」 「きっと盗んだんだよ!」 「悪いやつだな。持っていって、プリッシュに返そうぜ!」 こうして彼らは、アミュレットを持ち去ってしまった。3人は少年の知り合いなのだろう。彼はどうやら、プリッシュという名前であるらしい。 私は記憶を取り戻した。しかし、部分的な欠落がある。どうやってホラから去ったのか、どうしても思い出すことが出来ない。気づいたら草原に倒れており、何者かにアミュレットを奪われてしまった。どうやらナグモラーダも同様の目に合い、この地へ流されてきたらしいが、彼は遠くへ去ったらしく、周囲にそれらしい人影は伺えなかった。 南風が、かすかに潮の香りを運んでくる。海が近いようだ。仲間はどこへ行ったのだろう。不可解な白昼夢ののち、一人はぐれてこんなところへ着いてしまった。私は無事、ジュノまで戻ることが出来るのだろうか? とぼとぼと草原を歩いていると、Leeshaに出会った。彼女も何らかの力により、ここまで飛ばされてしまったらしい。 彼女と一緒に、南まで歩いた。崖にぶつかり、緑の野が一望できた。針葉樹の林の中を、澄んだ川の水が蛇行している。美しい光景に声をあげていたら、仲間から連絡が入った。こうして私は、自分たちの居場所を知ったのである。クォン大陸の西に浮かぶ島。かつてのタブナジア侯国の本拠地、タブナジア群島に迷い込んでいることに。 今からそっちに行くから、という連絡を受けた。プロミヴォン・ホラを戦ったのは、以下のメンバーである。戦士/忍者のRagnarok、狩人/忍者のUrizane、召喚士/白魔道士のLandsend、召喚士/白魔道士のSteelbear。 仲間たちはこちらへ向かっている。しかし離島のタブナジアに、どうやって到着するつもりだろう。私の知る限りでは、船は出ていないし、飛空挺が飛んでもいない。それでも彼らが来るというからには、何か方法があるのだろう、と漠然と考えていたが……。 崖から森林を眺め下ろす私の後ろから、声をかけてきた者があった。 「ようこそタブナジアへ!」 振り返ると、ヒュームの男が一人、私に向かって拍手をしていた。Illvestであった。 Illvestが教えてくれた。ここは旧タブナジア領内、ルフェーゼ野というエリアである。西にはミザレオ海岸があって、さらに素晴らしい風景が広がっているという。 仲間が集まるのを待ってから、私はルフェーゼ野を歩いた。勝手知ったる彼らは、いろいろと案内をしてくれる。見るもの見るものが珍しいから、私とLeeshaは声をあげて驚嘆した。特にエリアの北側にある、エメラルド色の池は素晴らしい。タブナジアは「ザフムルグの真珠」と呼ばれる。世界有数の景勝地と認められた理由が、これだけでもわかろうものではないか。
水面の色の深みに魅入られているところに、先ほどのトカゲが再び通りかかった。 Leeshaは悪戯っ気を出して、トカゲの顎下に潜り込み、「がおー」と声を出している。しかるのち、のそのそとそこから這い出てきて、トカゲの正面に向き直ると、奴の不細工な顔を見つめながら「なかなか可愛いかも」と言ってみせる。「可愛い!?」とLandsendが絶句していたが、私は何と言っていいかわからない。妻の美的感覚に問題がある場合は、夫としてどう反応すればいいのだろう?
仲間が私たちを呼んだ。私は駆け出した。これからミザレオ海岸を歩き、周囲を散策してから、旧タブナジアの候都まで行ってみるつもりである。 注1 「<ヴァナ・ディール・トリビューン>紙によると、ブガードは旧来生息していたスカベンジャー(清掃動物、腐肉食動物)の生き残りではないか、ということである。タブナジアは大陸から隔離されて久しいため、独自の生態系が残っているようだ。これは大陸からの主観的な意見であり、実際には、大陸側では変質してしまったが、タブナジアには大戦以前の生態系が残っている、といった方が正しいように思う」 (Kiltrog談) (05.05.13)
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