その366

キルトログ、練武祭に参加する

 近ごろジュノの街に、子供のガルカが姿を現す。私のところへ寄って来て、「とーちゃーん!」と呼ぶのである。むろん私が父ちゃんのはずがない。しかし彼は私に付きまとい、やれ「コルセアナイフ買って」だの、「スコピオハーネス買って」だの、無茶を言うのである。これらの品物は希少性が高く、競売でも何十万ギル、何百万ギルとする。むろん知ってて言ってやがるのだ。それでも子供が可愛ければ、多少のわがままを聞いてやってもいいのだが……。


 あまりにも微妙だ。可愛いようでもあるし、可愛くないようでもある。

 近ごろ改めて思うのだが、どうやら私は、子供が苦手なのである。ひとつには慣れの問題かもしれぬ。タルタルとの付き合い方は徐々にわかってきたものの、ガルカの子供と接する機会は少ない。いっぱしのガルカ社会の大人であれば、ウェライがグンパを育てていたように、私も弟子を取り、扶養していておかしくないのだが、何しろウィンダスに籍を置く身、妻帯しているという特殊な状況もあり、子供とは縁遠いまんまである。目下のところ、その不慣れが解消されそうな見通しもない。

 果たしてこれから先、私は子供好きになれるのか。私自身にも興味深い命題だが――それはさておき、なぜ子供ガルカにつきまとわれているか、その詳細について話さねばなるまい。


 ことの始まりは、先月初めに遡る。またぞろモーグリたちが共同して、祭の企画を立てた。男子の健やかな成長を願った、練武祭(れんぶさい)というフェスティバルで、もともとは東洋で伝統的に行われているものらしい。
 「巨大魚の旗幟を空に掲げたり、男の子に甲冑を着せて戦わせたり」するのだという。話を聞く限りでは、戦士階級の色濃い行事のようだ。モーグリたちは模擬的なイベントと捉えていたが、折りしも東洋からひとり、侍がヴァナ・ディールを訪れていて、練武祭の企画をいずこからか聞きつけてきた。「われらが国の文化を紹介するよき機会でござれば」と、国許に交渉し、本格的な甲冑を借り出してきた。その名をゲンジ八甲という。話に聞くところ、相当高価な業物の品らしいのである。
 だが、そのゲンジ八甲が、何者かに盗まれてしまった! モーグリの決断は早かった。冒険者に通達し、ただちに賊を討ってほしいというのである。
 

 練武祭のアクシデントが報じられたとき、私とLeeshaはバストゥークにいた。甲冑を着た人間が、南グスタベルグを走っている、という噂を聞き、ことの真偽を確かめるつもりだった。
 ふたつの事実の関係性は明らかである。賊の行動は奇妙ではあるが。なぜ彼はゲンジ八甲を持ち帰らないのだろう? 私はノーグの海賊に疑いを抱いていたが、どうも彼らの仕業ではなさそうだ。賊の意図はよくわからない。しかし甲冑が目の前にあるのだから、これを襲って奪い返さない手はない。

 私とLeeshaは、武装してモグハウスから出てきた。着のみ着のままウィンダスを訪れたころの、レベル1の装備である。
 このような格好なのにはわけがある。ゲンジ八甲を着ている敵を攻撃するには、特殊な魔法を身に浴びている必要がある。その副作用として、レベル1までの制限を受けてしまうのだ。正直これでは、グスタベルグに出るのすら危険であるが、特殊魔法はよく出来たもので、身体にかかっているあいだ、他のモンスターに察知されない――反面、攻撃もできない――ようになるという。これは私の想像に過ぎないが、甲冑を着ている賊は別の次元におり、魔法をかけることで同じ領域にいけるのではないか。ゲンジの魔力か、奴らの魔法かはわからないが、通常の物理的な世界とは切り離されているのだろう。

 それを証明するように、賊を討つには、特殊な武器が必要だった。木刀である。木刀は直接敵にダメージを与えることがなく、振り下ろしたときに生じる魔法の追加効果で攻撃できるという。物理的な衝撃は無効ということで、これなんぞは私の説の裏づけになり得るだろう。まあ私としては、ランページを使えるほうが、手っ取り早く片付けられていいとは思うのだが(注1)

 モーグリから木刀を預かり、魔法をかけてもらって、表に出る。サポートジョブは狩人にしてある。これによって索敵が可能となり、一定範囲の中に目指す敵がいるかどうか判別できる。Leeshaが突然「いた!」と声をあげる。こういうときの彼女の反応は素早い。木刀を構えて南へ――モルフェン灯台の方へ走り出す。私も文字通り、おっとり刀で彼女の後を追う。



 私は目を疑った。なるほど、甲冑を全身にまとった人物が――ヒュームのように見えるが――走り回っている。甲冑を着ているくせに恐ろしく足がはやい。後ろから追いかけていこうとしても、瞬く間に距離を離されてしまう。
 ただし賊は、ときどき立ち止まることがある。逡巡か休息でもしているのだろう。その隙にえいやと木刀で殴りつける。奴は私の挑戦を受けて立ち、同じような得物を取り出すと、ゆっくりと身構える。前面に私が、後面にLeeshaが立ち、木刀勝負が始まる。
 勢いに任せてぼかぼかと殴りつけれればよいのだが、あいにくと刀はそういう武器ではない。立てて構え、右胸の前で両手を絞るように持つ。構えが万全であると、隙が生まれない。かといって構えたままでは相手は倒せない。打ち込むのは同時に、打ち込ませる隙を作ることである。にらみ合いが続く。時おり私たちの攻撃が当たり、少しずつ――1ダメージ程度――敵の体力を削っていくが、同時に奴も、私たちに木刀の一撃を加えていく。根気の勝負だ。

 やがて賊は木刀をしまい、逃走する。追いかけるがもう遅い。奴の逃げ足には到底かなわない。Leeshaのケアルで体力を回復し、次の機会を待つ。奴はこの近くをうろついているはずなので、再び捕まえることが出来るだろう。そのときこそきっちりとどめをさしてくれよう。

 再び灯台の近くで、賊と相まみえる。私の一撃が奴の背中に入り、賊は断末魔の声もなく、地面に崩れ落ちる。終わった、と思いきや、何ということか、奴の死体は鎧ごとすうっと消えてしまう。索敵で調べてみたら、驚くべきことがわかる。賊は今のタテナシ・アーマーだけではなく、ハチリュー・アーマーというのも徘徊している!

 ハチリュー・アーマーと対峙して驚いた。こいつはガルカ型の敵である。ということは、タルタルやエルヴァーンもいるかもしれない。予想は当たった。それぞれウブギヌ・アーマーツキカズ・アーマーといって、体型からはっきりと正体がわかる。3種の敵のいずれとも打ち合ったが、倒すまでには到らず、タテナシのように消えてしまうのかどうかわからなかった。南グスタベルグをさんざん走り回ったので、私たちは疲れてしまった。そういえばモーグリは、必ずしも倒さなくてよい、という意味のことを言っていた。そこで一回バストゥークに帰ることにする。帰路中、私は考えていた――ここでは出会わなかったが、ミスラ型の敵というのはいないのだろうか?(注2)


ウブギヌ・アーマー

 モーグリは私たちの健闘を褒め称える。タテナシを倒した報酬として、鉄刀木刀を一振りくれる。例の木刀を強化したもので、1レベルの両手刀として使えるだろう。
 だが木刀は、おまけに過ぎなかったようだ。モーグリは柏餅をどっさりくれた。柏餅というのは、東洋のお菓子の一種である。固めたライスの下にあんこ(小豆などを煮つぶし、砂糖を加えて甘くしたもの)が詰まっている。ウィンダスで作られたものだが、調理ギルドでなく鼻の院開発というのがあやしい。案の定柏餅には魔法がかかっている。男の子に変身できるというのである。

 飛勇夢柏餅は、ヒュームの男の子に。
 衛瑠刃鞍柏餅は、エルヴァーンの男の子に。
 汰琉汰琉柏餅は、タルタルの男の子に。
 雅留家柏餅は、ガルカの男の子に。

 雅留家柏餅を食べて、私は童心に帰った。鏡を覗いて見るが、果たしてこんな顔だったか思い出せない。何しろ何十年も昔のことである。街へ出ると、同じような格好をしたガルカっ子をたくさん見かける。バストゥークの人口が急に増えるわけはない。みんな餅を食べて魔法を楽しんでいるのだろう。

 ところで、私が餅をどっさり貰ったからには、同じくらいの報酬を得た者が、少なくとも1人いるはずである。そして悪いことに、私が最も張り切って戦ったのは、ハチリュー・アーマーなのだった。おかげで雅留家柏餅だけは、他よりずっと多めに貰っている。

 私がガルカっ子につきまとわれ出したのは、翌日からだった。正体はわからない。わからないのだが、コルセアナイフやスコピオハーネスを欲しがるところからして、中身はきっとシーフなのではないか、と勝手に想像している。


注1
 ランページは片手斧のウェポンスキルで、一度に5回攻撃できるという、片手斧最強の必殺技のひとつです。戦士は55レベルでこれを覚えられます(片手斧スキルが175を越えることが必要)。


注2
 練武祭は5月の節句にちなんだイベントです。後述されているように、男の子キャラに一定時間変身できる魔法の柏餅を入手できます。柏餅は、アーマーをそれぞれ殴った数だけ貰えます。すなわち、ガルカ型のハチリュー・アーマーを10回殴れば、報酬は雅留家柏餅10個となります。
 女の子に変身できるアイテムには、ヒシモチがあります(ヒュームヒシモチエルヴァーンヒシモチタルタルヒシモチミスラヒシモチ)。キルトログ記では言及しませんでしたが、これらはひな祭りのイベントで貰えるものです。ガルカヒシモチというアイテムは存在しません。ガルカに女の子はいないからです。“美須裸柏餅”が存在しない(ミスラ型のアーマーがいない)のも、同様の理由だと思われます(一部「いる」という情報も聞きましたが、確認できてません)。


(05.06.05)
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