その376

キルトログ、ウガレピ寺院へ行く(1)
ウガレピ寺院(Temple of Uggalepih)
 エルシモ島東部の密林の中にひっそりと建つ、邪神ウガレピを祀った古い寺院。
 既に無数の木々の根が壁に食い込み、建物自体、緩やかに崩壊しつつある。
 「トンベリ」と呼ばれる、小柄だが残忍な獣人が住み着いているため、現地の人々は、この場所を「忌み寺」と呼んで恐れ、決して足を踏み入れようとはしない。
 迷い込んで、命からがら脱出した人々の話によると、地の底から呪詛の大合唱が聞こえてきたらしいが……。
(注1)
 カザムの入り口でチョコボを借りて、3人でウガレピへ駆けた。メンバーは私と、Leeshaと、Ragnarokである。Ragnarokは戦士75レベルの装備をしている。
 道中で、Urizaneから連絡があった。「トンベリにやられた」という。狩人75レベルの彼が? 私は恐ろしさにうち震えながら、彼をはやく助けるために、寺院の前へと急ぐのだった。


 以前、ユタンガ大森林を散策したとき、ちらりとウガレピを目撃したことがある。だが何ぶん、恐ろしい場所と聞いていたから、じっくり観察することがなかった。

 私は今、改めて寺院を見上げている。全体に石で出来ているが、年月を経て風化しており、表面が岩塩のように黒く、ごつごつしている。全体に苔むしており、建築物として寿命を迎えているのは明らかである。壁のところどころから、蔦状の植物が垂れ下がり、ピンク色の花が咲いている。しかしそれらは、地元のミスラが“忌み寺”と呼ぶ、立ち寄りがたい雰囲気を何ら和らげてはいない。

 四本の円柱に支えられた、ドーム状の入り口の脇に、Urizaneが倒れていた。私たちは急いで駆け寄った。彼はLeeshaのレイズで息を吹き返し、蘇ったあとしばらく続く、虚弱状態の回復に努めていた。彼は言った。油断していたら「急所突き」を食らったのだと。おお、彼のような手練でも、気を抜いているとやられるのだ。寺院に踏み込もうとしている今、私は改めて気を引き締めるのだった。

ウガレピ寺院

 正面の入り口から中に踏み込むと、中央に大木がそびえており、天井をぶち抜いて天に伸びていた。もっとも大木といっても、星の大樹や、聖地ジ・タの針葉樹の比ではない。せいぜいジャグナーをうろついている、樹霊程度の幹の太さしかないのだった。
「トンベリたちの星の大樹かな」
 私は冗談を言って、寺院へ踏み込んだ。緊張をやわらげたかったのかもしれない。
 黒い石作りの廊下が伸びていた。
 廊下を辿っていくと、広間に出た。5,6匹のトンベリがいた。広間の奥で、小さな炎が燃えていた。移動しているところを見ると、篝火ではなく、呼び出された火の精のようだ。トンベリには召喚士もいるのである。
「さあ、片付けてしまいましょう」
 と、Ragnarokが言った。Urizaneが弓を取り出して、手近なトンベリを撃ち抜いた。トンベリ・カッターが背中を丸めたまま、ささささと近づいてきて、左手の刃物をしゅん、しゅんと振り回す。剥き出しの殺意にもかかわらず、表情は石のようにかたい。私は寒気を覚えながら斧を抜いた。さあ、獣人トンベリとの初対戦だ。


寺院の通路

 私の斧は、あっけなくトンベリを打ち倒した。楽な相手だったことにほっとしたが、すぐに、いかんいかんと首を振った。油断禁物と心がけたばかりではないか。

 Urizaneは急所突きによって葬られたというが、戦いぶりを傍らから見ていたら、「みんなの恨み」という一撃でもっても、大きな衝撃を受けているのだった。私はハッとした。そういえば、ノーグの男がこう言っていたではないか。
「殺されたトンベリの怨念は、必ずあんたに帰ってくる。言葉通りの意味さ。みんなの恨みには注意することだ……」

いったい「みんなの恨み」とは、どういう攻撃なのであろうか。

 暫くして、身をもって体験することになった。包丁の素早い突きが来て、胸に強靭な一撃を食らった。足が思わずふらついたが、そうした衝撃にもかかわらず、実質的なダメージはそれほどでもなかった。誤解を恐れずに言えば、とるに足らないとさえ述べていい程度だ。
 仲間に「みんなの恨み」の説明を聞いた。攻撃の正体とは、トンベリたちの怨念の塊である。いかにしてか知らないが、トンベリは、種族の殺された数だけの恨みを、相手にぶつけることが出来るらしい。威力の度合いは、相手がどれだけトンベリを殺しているかに比例する。私にほとんどダメージが来なかったのは当然である。逆を言えば、Urizaneが瀕死に陥ったのは、彼がトンベリたちにとって、賞金首に値するほどの憎悪の対象だったからだ。

 しかし、根本的な問題がある。奴らと戦闘を続ける限り、恨みは蓄積し続けることになる。これではどれだけ体力があっても足りぬ。いつかはトンベリとの戦いを放棄しなければならない。カザムのミスラがウガレピ寺院に近づかないのは、こうした事情もあるのかもしれない。


 トンベリ・カッターが、ウガレピのカギを落とした。それだ、奥の部屋の鍵です、とRagnarokは言った。奥の部屋? Urizaneの説明によれば、この寺院には、書斎のような部屋があるという。私はさっそく彼らについていった。

 それは、短い廊下の突き当たりにあった。一見普通の壁に見えるが、縦にまっすぐ切れ目が走っていた。横滑りする両扉なのだ。私はごつごつした壁をさぐって、何とか鍵穴を見つけ出した。扉はするすると開いた。私とLeeshaは身体を滑り込ませ、中の光景に「あっ」と声を上げた。


書斎?

 なるほど、そこは書斎に見えた。壁に本棚が並び、古い書物がたくさん押し込められていた。石の文机が並び、書箱が無造作に放り出してあった。書斎を使っている――あるいは、使っていた――というのは、トンベリの印象にはそぐわない気がする。奴らはウガレピを信仰しているわけだから、教義の類が文書化されていても不思議ではないのだが、本棚のサイズは、私やLeeshaが使うに丁度よい高さだ。小躯のトンベリにはいささか大きすぎるだろう。本当に彼らはここを使っているのだろうか?

 本棚に手を伸ばし、適当に本を引き抜いてみた。触ったとたんにぼろぼろ崩れるかと心配したが、書物の丈夫さはかろうじて残っていた。だがこのまま放置すれば、どの本も早晩失われてしまうだろう。
 さぞかし、変わった文字が使われているだろうと思いきや、共通語で書かれていた。あれ、と私は思った。ということは、トンベリは共通語を読み書きするのだろうか。それとも書物だけを、人間社会から奪ってきたものか。あるいは持ち主がいたのは、トンベリたちが住み着く以前のことであって、奴らとは何の関係もないものか。
 そうだ。ウガレピはかなり古い建物なのだ。もしかしたら、その人物はジラートかもしれぬ。ギルガメッシュが会った老人の可能性はある。だが、そうだとしたら、何でトンベリが鍵を持っているのだろう? わざわざ携帯しているということは、ときどきここに出入りしている可能性が高いことを示している。やはり、トンベリの書斎なのだろうか?
 頭がこんがらがってきた。私はとりあえず、書物に目を通してみることにした。内容から何かが掴めるかもしれない。読みにくくなっているが、表紙には『調理の心得』とある。

「食材を刻むときは、まな板に向かい平行に立ち、真剣に取り組むべし」

 私は首をひねった。どうも、実用書の類のようだ。書斎にあるには似つかわしくない。もっとも、何も知らないトンベリが、見かけは同じ本だからといって、ここの棚に押し込めた可能性はあるけれど。
 私は別の本を手に取った。『続・調理の心得』とある。

「包丁を研ぐときは、砥石に向かい平行に立ち、じっくり真剣に取り組むべし」

 こんなのばっかりなのか。私は本を戻し、今度はいかにも小難しいことが書いてそうな、表紙の固い本を選んだ。

『美術の心得』

「絵を描くときは、画布に向かい平行に立ち、じっくり真剣に取り組むべし」
 
 この本には収穫があった――そう書いてあるページの間に、紙で包まれた小さな鍵が挟まってあったからである。


 さてこの鍵は、どこの箇所のものだろう。大きさからして、どこかの扉のものとは思えぬ。せいぜい小型の隠し戸棚か、机の引き出しクラスである。本棚の後ろに何かあるか、と一瞬考えたが、貴重な書物が崩れる危険を冒してまですることではない。必ずしも隠し戸棚があるとは限らないではないか。
 辺りを見回していると、机の上の小さな木箱が目に入った。下に紙が敷いてあって、何か文字が書いてある。

「……布は、いにしえの都と女神のはざまに……」

 小箱に鍵穴が見つかった。慎重に差してみるとぴったり合った。かちりと音がして箱が開いた。中に入っていたのは、何だか毛先のぼさぼさとした、筆のようなものだった。
 簡単な説明書きが添えられている。

「決して目に見えぬ虚空の画布が、その魂の絵筆による心の絵で満たされたとき、汝は怨念の渦へと誘われるだろう」


 何のこっちゃ。


「魂の絵筆は手に入りましたか?」
 表からUrizaneの声がする。私はうん、と言った。彼によれば、寺院の奥へ行くためには、誰かがこれを持っていなければならないそうである。
 さあ、生贄の間のカギ、魂の絵筆が手に入った。これで十分だろう、と思ったが、まだ足りないと言われた。消えたランタンがいるという。ランタンは、ここからさらに先にいるトンベリが、ごくまれに落とすのである。

 我々は奥へ向かった。ここまでは比較的スムーズにいった。だがランタンは4つ必要というから、しばらくは頑張って戦わねばならないだろう。

注1
 公式サイトにある、『ジラートの幻影』特設ページの説明文を引用しましたが、コンテンツ「その、美しき世界」の中の文章は、若干異なっています。こちらに従うと、以下のようになります。
ウガレピ寺院(Temple of Uggalepih)
 エルシモ島東部の鬱蒼とした密林の中に、何者かが巨石を用いて建立した古い寺院。
 トンベリがここに邪神ウガレピを祭っているため、カザムのミスラは、ここを「忌み寺」と呼んで怖れ、決して足を踏み入れようとはしない。
 石組みには高度な技が用いられていたようだが、今では無数の木の根が壁に食い込み、建物自体を緩やかに崩壊させつつある。
(050703)
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