その383

キルトログ、世紀の大作を飾る

 こうして私は、アンジェリカ畢生の大作『最後の幻想』を、ウガレピ寺院へ飾ってくることになった。
 だが丁度よかったのだ。老人の亡霊を探しにいったとき、私は絵の部屋を見ずにしまった。作者がジラートであれ、クリューであれ、そのなれの果てのトンベリであれ、資料性の高い絵画を見ないという手はあるまい。どうせ一度は戻らねばならなかったのだ。だとしたら、それが早いか遅いかの違いだけである。

 一度訪ねたところへ行くのに、そう大勢の人間はいらぬ。そこでLeeshaとSteelbearを誘い、3人だけで出かけることにした。

 忌み寺の地図はまだ持っていないが、絵画の部屋の大体の位置は覚えている。確かだいぶ奥であるはずと、自然と駆け足になったが、広間を抜けていこうとしたところで、Steelbearに止められた。彼曰く、私は勘違いをしているという。

 私は広間を見回した。四角い石の机が並び、太い柱が天井を支えている。壁も柱もすっかり苔むしていて、全体がくすんだ土色をしている。Steelbearは壁を指差した。その指の先には、一見何もないようだったが、よく見れば石造りの、方形の額縁のようなものが伺えるのだった。どうやら広間の四方の壁についているようである。

石の額縁(左奥)

 この額縁に絵を飾ってよいものか、私は少し躊躇した。こんなかび臭く、陰気な部屋に、一体誰が絵を観にくるというのだ? しかしながら、これこそがアンジェリカ自身の望みなのである。もし彼女に配慮して、もう少し良い展示場所を探してやるとしても、たぶん無駄足に終わるだろう。ウガレピ寺院にしてからが、致命的に個展会場には向かないのだ。だとしたら、額縁があるだけここはまだましと言えるのかもしれぬ。

 画布を広げて、額縁に差し込んだ。少し距離を取り、腕を組んで絵を眺めた。アンジェリカが描くのは抽象画である(注1)。『最後の幻想』とやらも、一瞥しただけでは何が何だかわからぬ。理解しようと努めていたら、異変が起こった。地面の底から、ごーーっという、何だか水が抜けるような低い音がして、呪詛の塊のような声が、耳に響いてきたのだった。

「このような堕画……」

 声ははっきり言った。『最後の幻想』は堕画であると。

「我らが館に、ふさわしくはないわ!」

 絵の表面から、何かが勢いよく飛び出してきた。私は反射的に跳びすさった。斧を構えて驚くことに、それは巨大な拳だった。手は絵を貫くように奥から出てきた。そして拳の持ち主が、絵を無残にも引き裂きながら、徐々に姿を現した。額縁に穴でも開いているかのようだ――もちろんそんなものは、私が絵を飾るときにはなかったはずだ。

 巨人が私を見下ろしていた。水晶から成る痩身。ひょろひょろしてそうに見えるが、ゴーレムは怪力の持ち主である。両目の奥に燃える炎からして、私たちを簡単には帰らせてくれそうにない。


現れた巨人

 私たちは、ゴーレムを打ち倒した。人造巨人の身体が大きく傾ぎ、ゆっくり背中から倒れていって、派手に砕け散った。

 身体に降りかかった破片を手ではらい、私は絵を検分した。駄目だった。『最後の幻想』は、ゴーレムに引き裂かれてしまった。奴はここを守る守護者のような存在なのだろう。地の声の意味はわからないが、奴らがアンジェリカの絵を気に入らなかったことは確かだ。彼女に何と言って報告すればいいだろうか。


 だが、ともあれ、任務のひとつは果たした。今度は私の用事にかかることにしよう……。


絵画の部屋

 Steelbearが案内してくれたので、画廊へは楽に到着することが出来た。

 南北に細長い部屋である。東西の壁に、さっき見たのと同じタイプの、石の額縁が並んでいる。先刻と違うのは、ちゃんと絵が飾られている点だ。額縁の両脇に蝋燭が立てられ、絵が黄色く輝いている。一体いつから飾られているのか? トンベリたちにとって、この画廊は何を意味するのだろうか?

 トンベリが数匹、部屋の中をうろついている。絵を守ってでもいるのだろうか、まったく邪魔だ。戦闘になるとめんどくさいので、姿を消しておくことにする。透明でも閲覧だけなら可能だ。私たちは、第一の絵に近づいていった。

注1
「本人に確かめたわけではないが、『太古の血潮』を人物画とは考えたくない」
(Kiltrog談)

(05.08.10)
Copyright (C) 2002-2005 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送