その384

キルトログ、トンベリの絵を鑑賞する

 画廊がこの状態で、何年くらい保たれているのか知らぬけれども、相当古い建物だから、絵も劣化していておかしくないと思っていた。だが、想像以上に保存状態はよいようである。黴に侵食されていることもないし、湿気で色が飛んでいるということもない。描かれている内容物ははっきり見ることができる。さて、額縁に魔法が込められてでもいるのだろうか?


 第一の絵には、3人の人物が描かれている。中央の人物が椅子に腰をかけ、左側の立った人物と向かい合っている。3人目は椅子の後ろに立っている。さながら、座った人物を補佐してでもいるかのようだ。

 椅子は玉座に違いない、と私は思った。こういう古代の絵においては、椅子はしばしば為政者を象徴する。座っているのが王なのだろう。後ろに立っているのは執権か宰相、左の人物は王の家臣というところか。

 ここで私は、興味深いことに気がついた。

「……エルドナーシュ?」

 三人とも横を向いており、顔の面積が小さいので、誰が誰やら判別はつかないが、着ている服装から判断するに、座っているのはエルドナーシュに思える。耳の下までの短髪、ラインの入った黒いチュニック。顔を影が横切っているように見えるが、あれは眼帯なのだろうか。

 そういえば、左の人物はカムラナートのようだ。弟ほどの決め手はないけれども、黒いシャツに長髪、それを束ねて背中に垂らしている点が似ている。この人物単体の絵ならわからないが、玉座に座っているのがエルドナーシュなら、彼がカムラナートである可能性は高い。

 だがそうだとしたら、なぜ立場が逆なのか。本来ならカムラナートが座り、エルドナーシュが立っていなくてはならない。また、体格にもおかしなところがある。エルドナーシュはまだ子供なのだが、玉座についている人物は、左の人物と肩を並べるくらいの身長がある。座っている方がこころもち小柄かな、という程度にしか、体格面での差はないように描かれてある。これはいったい何を意味するのだろう。

 椅子の後ろに立っている人物を考えていて、私ははたと思い至った。鳥のくちばしのような頭に見覚えがある。プロミヴォン・デムの白昼夢に出てきた巫女のひとりが、そのような帽子を身に着けていた(その348参照)。だとしたら、彼女は「暁の巫女」なのだろうか? この謎は、私が七つの祈りを集めたときに解けるだろう。グラビトン・ベリサーチによれば、巫女たちが道を指し示してくれるらしいのだから。



 第二の絵には、杖を持った人物が描かれている。彼はゆったりしたローブを着ている、杖の先からは八方に稲妻がほとばしっている。
 これはグラビトン・ベリサーチだろうか。彼女は杖を持っていた。たとえグラビトンでないとしても、彼女に匹敵するくらいの地位の持ち主だろう。おそらくはクリュー族の……と思うが、ジラートの誰かである可能性も捨てきれない。



 両手を広げた人物がうつっている。背中に翼が生えているように見えるが、気のせいかもしれない。背後には金の後光が差している。青い六角形の物体が、人物を取り囲んでいる。全部で8つあるところを見ると、クリスタルだろう。ということは、これは女神アルタナの肖像なのだろうか? 
 

 最後の絵には、不思議なものが描かれている。山に囲まれた湖、その中央に、デム・メア・ホラ岩のような尖塔が立ち、放射状に遺跡が広がっている。これはロ・メーヴなのか。それとも、既に滅んでしまったジラートの、あるいはクリューの都なのだろうか。


 なるほど、画廊にはこういう絵が飾られていたのだ。明らかにアンジェリカのそれとは路線が違う。ゴーレムが駄画といって破り捨てたのも無理はない。彼女の芸術は、クリューにとって新しすぎたのだろうか? もしそうであれば、いくらか彼女の慰めにはなるだろうが。

 絵を鑑賞しているうち、何度かトンベリに見つかり、戦闘になった。敵の強さは苦にならないがうっとおしい。我々は退却することにした。とりあえずジャコ・ワーコンダロにことの次第を伝えて、彼女の判断を仰ぐことにしよう。


「得体の知れないやつに、絵を破かれたって?」
 エテ・スラエジが頓狂な声を挙げると、部屋の奥からジャコ・ワーコンダロが出てきた。
「そりゃどういうことだい。詳しく話しな」

 絵を飾ったときに聞こえた声と、襲ってきたゴーレムの話を聞くと、族長はウウム、ウウムと唸った。
「あすこには、ずうっと前に滅んだ種族が住んでいたんだ……」
 彼女は爪を噛みながら、
「そのでっかいやつの正体はわからないけど、画廊の声っていうのは、その種族の怨念か何かなんだろうね。忌み寺って呼ばれるわけさ。
 まあ、画家さんには酷な結果になったね。彼女には、私から手紙を書いておくよ。ちょうどウィンダスに用事があって、つかいをやるところだからね。
 報酬をやらなきゃいけないな。無駄足だったとはいえ、頼んだのは私なんだから……」

 そう言って、彼女はエテ・スラエジに合図をした。私は彼女から3000ギルを貰った。なかなかの大金だ。

「何かあったときは、またお願いすることもあるかもしれない。そのときは頼むよ。忌み寺の奥まで行って、無事で帰ってこれるなんて、そういう無茶をやれる人間は、私の回りにはいないからねえ」


(05.08.10)
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