その386

キルトログ、宣託の間に到着する


 宣託の間を守っている、3匹のアンティカたちについては、実際に戦ったことのある冒険者たちから、既に情報を得ていた。我々のジョブでいうところの、黒魔道士タイプ、ナイトタイプ、狩人タイプがいるという。

 狩人タイプのプリンケプス5−11に関しては、Ragnarokが立候補をし、どうかそいつとサシでやらせて頂きたい、と言った。Ragnarokが狩人とやりあっている間に、我々がナイトと黒魔道士を片付けるのである。集団戦は数のバランスが崩れた時点で、勝敗の大勢が決まるものだ。古強者のケントゥリオ5−3トライアリウス5−8を倒して、Ragnarokの応援に回ったときには、既に我々の勝利は見えていた。

 結局のところ、Ragnarokに加勢はいらなかった。彼は見事にアンティカと渡り合った。プリンケプス5−11は、アンティカ帝国軍の精鋭第5軍に属し、弓の達人として知られていた。本来なら違法であるが、死んだ味方の感覚器を自らに取りつけ、命中率を上げていたらしい。そういう狡猾な敵も、Ragnarokの相手ではなかったようだ。彼が溜めに溜めた力を込めて、「死ぬがいい!」とランページを放ったとき、アンティカは全身でその衝撃を受け、ぼろぼろになって床に崩れ落ちた。

「いやあ楽しかった。やはり、一対一の勝負はいい」
 Ragnarokは笑っていたが、私は内心彼の豪胆さに舌を巻いていた。
「それでは、行きましょうか」
 アンティカたちと戦った空間は、ク・ピアの闘技場を思わせる小広い部屋で、奥に続く扉があった。我々はそこを潜った。

 今度はドーム状の広間に出た。突き当たりの壁に、巨大な碑が見えた。ゆうにダルメル2頭ぶんの高さはある。形は墳墓のようなもので、ジラートの石碑によく似ていた。宝石が埋まっていた場所――石碑の前面には、8つの穴が開いている。穴の縁にはかすかに色がついている。おそらくは各種のクリスタルに対応するのだろう。

宣託の間の石碑

 グラビトン・ベリサーチは、ここで光のかけらを一つにしろ、と言っていた(その379参照)。きっとあの穴が関係しているのだ。さて、光のかけらを押し込むには、石碑をよじ登らねばならない。ずいぶん高い位置にあるのだが、私にそれは可能だろうか?

 石碑を見上げて思案している私を見て、Steelbearが「何か宣託を受けましたかな」と尋ねた。
「今日の運勢〜」
 Leeshaがだしぬけに言った。
「恋愛運×、金運×、ラッキーカラーは群青色デショ〜」

 ずいぶん酷な宣託だ。SifとUrizaneがげえと唸って、どうせなら恋愛運は◎でお願いします、と頭を下げた。そのとき私の注意は、宣託を受けた妻から、石碑の周辺にうつっていた。立像の台座のような立方体が、壁にそって並んでいる。石碑の右に4つ、左に4つあった。台座には穴が開いている。石碑を見上げて確かめてみたら、穴の大きさは、石碑にある色つきのそれとたいして違いはないのだった。

 私はためしに、土の祈りを取り出して、台座の穴に押し込んでみた。宝石が、吸い込まれるかのようにすぽっと入った。 
「上の穴じゃない、こっちだ」

 私は夢中で、宝石を嵌めて回った。鍵が鍵穴に出会うように、祈りは穴に取り込まれ、台座の一部と化していった。8つめの宝石を入れるときには、思わず手が震えた。闇の祈りが床に転がった。

 黒色の宝石は、かちん、かちんと神経質な音を立てて、台座の裏側へ逃げていった。私はその後を追った。四つんばいになり床を探した。誰かの足が見えた。くろがねの具足――Ragnarokではない。Sifでも、Urizaneでもない。これは、ガルカの足だ。

「ごきげんよう」

 私は顔を上げた。暗黒騎士のザイドが、闇の祈りを差し出していた。


 ザイドはわざとらしく、へえ、ほおと嘆息しながら、宝石の嵌った台座群を見回した。
「こんな仕組みになっていたのか」
 なぜここにいるのだ、と私は尋ねたが、彼は取り合わなかった。最後の台座を指差して、「さあ」と言うだけだった。彼に催促されるまでもない。私は宝石を指で拭いて、埃を拭い取った後、穴にぐいと押し込んだ。かちり、と小気味のよい音がした。

「何だ……」
 ザイドが私の顔を見た。両足の裏に、軽い地鳴りを感じたように思った。途端、8つの台座が光を放ち始めた。あまりの眩しさに、ザイドが「おお!」と言って顔を覆った。

 光は徐々に一つとなって、石碑の方に流れ込んでいった。エネルギーが集まっているようだった。石碑の穴から、七色の光がほとばしり始めた。私も正視していられなくなって、遂に顔をそむけた。台座の上に人影が見えた。「何奴!」とザイドが声をあげて、はすに背負った両手剣の柄に手をかけた。だが人影は動く様子がない。魔道士然とした灰色のローブを着ている。フードを深く下ろしているため、顔はまったく見えない。

 いつの間にか、人影の隣に、もうひとり人がいた。同じように、その隣に人が増えた。私は背後を確認した。そこにもいた。どうやら、台座の上に一人ずつ立っているのだ。私はザイドと背中を合わせて、万一の事態に備えたが、灰ローブどもは微動だにしない。だんだん気味が悪くなってきたときである。

「おいあれ……」
 ザイドが私の腕を叩いた。私は振り返り、あっと声をあげた。彼の肩ごしに見える石碑に、女が立っているのを見とめたからである。

(05.08.10)
Copyright (C) 2002-2005 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送