その391

キルトログ、カムラナートと戦う(1)

 我々が出たのは、一階のホールだった。カムラナートが言うところの、装置クリサリスを、真横から見ることが出来た(もっともその名を知ったのは、後になってからだったが)。

 二階の廊下が繋がる足場には、三叉の筒が下りてきているわけだが、足場の床も同じ構造をしていて、その中央には、白色のクリスタルがきらきらと輝いていた。おそらくこのクリスタルが、巨大な装置のエネルギー源なのだろう。

 二階の通路の上で、人が数人、もみ合っているのが見えた。「Kiltrog!」という声が聞こえた。ライオンだった。彼女はクリスタルの戦士の、ミスラとタルタルの相手をしてたが、さすがに多勢に無勢、通路を後退しつつあった。ガルカとエルヴァーンの相手をする、ザイドも同じような状況だった。彼女たちにとって幸いだったのは、通路が狭いため、さすがのクリスタルの戦士も、一度に一人ずつの攻撃を強いられているところだった。とはいえ、ライオンとザイドにとっては、2人を相手しなくてはならないことに変わりない。今は何とか持ちこたえているが、じきに手詰まりになるだろうことは明らかだった。

 私は、彼らに助太刀しようと考えたのだが、叶わなかった。「死にぞこないめ!」と言いながら、羽根のように漂い下りて来たのは、おお、憎き大公カムラナートその人ではないか。

「よい、私がじきじきに相手をしてやる」

 それこそ望むところだった。思えば我々は、奴をこの世から葬り去るために、今まで鍛錬を重ねてきたのではなかったか。

 カムラナートが、我々6人を一瞥して言った。
「愚か者どもが。クリスタルのために死ね」
「それは、こちらの台詞だ」
 私は斧を抜き放った。
「我々は、人類のためにお前を殺す。ジラートの王子カムラナートよ、いざ現世種の挑戦を受けよ」

天輪の場

 カムラナートが嘲笑した。途端、彼の身体が輝き始め、一個の光球となって、我々にぶつかってきた。「危ない!」と私は身を屈めて避け、片手斧を両腕に身構えた。カムラナートの輝きがおさまっていくにつれて、彼の身体の変化があらわになった。

 カムラナートは、白銀の鎧に身を包んでいた。左手に丸盾、右手に長剣を握っていた。マントに隠れていた長髪が解き放たれ、川のように波うち、クリスタルの輝きを受けて、きらきらと黄金色に輝いていた。それは荘厳な美しさだった。この男が人類の敵でさえなかったら、私は彼を賞賛していたことだろう。

 彼は空中に浮遊していた。「逃がすな!」と私は言った。6人でカムラナートを取り囲んだ。どうやら彼は飛ぶことが出来るようだ。高い位置に浮かんでいられたら厄介だが、彼の得物は剣である。だとしたら、それが届く場所にいなければならないはずだ。案の定、彼は我々を見下ろす位置に、ふわふわと浮いているばかりである。我々の包囲網の中にあって、彼は余裕の笑みを続けている……その小馬鹿にしたような態度が、我々の闘争本能に火をつけた。

 カムラナートが突然、サイレガを唱えてきた。

 まず我々を沈黙させて、魔法を封じようというつもりらしかった。だが我々は、アンティカとの戦いを経て、やまびこ薬を大量に常備していた。それをすばやく飲み下して、のどの痺れを取った。カムラナートの眉が、かすかに曇った。我々の対応を予想していなかったのだろう。

 盾役は、ナイトのUrizaneが担当した。彼は挑発でカムラナートを引きつけた。カムラナートは「光輪剣!」と高らかに叫び、目の眩むような剣技で、Urizaneを急襲した。私とRagnarokとは、空蝉の術をかけた。Urizaneにはこの術が使えない。挑発の技術を得るために、戦士をサポートジョブにつけなければならないせいだが、その代わりに高い防御力を誇っていた。一方で、カムラナートの攻撃は強力である。Urizaneがどれだけ持ちこたえることが出来るか? その成果如何によって、この戦いの行方が決まるのだ。

 我々にとって幸いなことに、カムラナートは、一点突破を試みてはこなかった。彼はUrizaneを集中的に攻撃するのではなく、土神剣風神剣といった技をつかって、まず自分の武器に魔力を吹き込むことを優先した。我々に対しては、スロウガで出足を鈍らせ、ディスペガで特殊効果を取り払うという作戦に出た。Steelbearの歌の効果、Leeshaの強化魔法の数々が、ディスペガによって剥がされてしまうのである。

 そして、強力な技が襲ってきた。

大風車!」 
 
 長剣が一閃し、我々は吹き飛ばされた。床でしたたかに身体を打った。ダメージを引きずっていたが、執念ですぐさま起き上がって、カムラナートを再び取り囲んだ。「うぬっ」とカムラナートが唸った。
 カムラナートの攻撃を、Urizaneがうまく剣で受け流した。逆上したカムラナートは、再び光輪剣を放とうとした。だがその構えを見てとったUrizaneが、すばやく盾を相手にぶつけて、攻撃を封じた。ナイトの奥義の一つ、シールドバッシュである。

 Leeshaは回復魔法に立ち回っていたが、Urizaneの盾役の働きで、少し余裕が生まれていた。Steelbearが激しく弦をかき鳴らして、彼女を補佐した。Landsendがガルーダを呼び出した。半人半鳥の妖怪であるが、甲高い叫び声をあげて、我々にヘイストの効果をもたらした。

 カムラナートが、苛々しているのがわかった。おそらく彼の計算では、もっとあっさりと決着がつくはずだったのだろう。だが我々は、大風車に耐え、光輪剣をやり過ごした。カムラナートの体力は、目に見えて落ちてきている。一方我々は全滅するどころか、今ふたたび勢いを取り戻しつつある。
 ここで、獅子のように眠っていた男が目を覚ました。私と一緒に二枚攻撃を担う、バストゥークのRagnarokである。


 冒険者は数々の強敵と戦う。そのときは往々にして、まず耐えに耐え、戦いの成り行きを見守っていて、ここぞというタイミングで一気に攻勢に出る、という作戦を用いる。カムラナート戦も同じだった。我々は彼の疲れを見て取り、ここが総攻撃のしどころだと判断したのである。

 Ragnarokが私に囁いた。「殺します」 そしてありったけの力を込めて、カムラナートの肩口を切りつけた。思わずひるむ大公! 彼はこちらに向き直り、今度はRagnarokに攻撃を集中し始めた。Urizaneが挑発を試みるが、カムラナートはもう彼に背中を向けている。


 カムラナートが光輪剣を放った。Ragnarokが正面からそれを受けた――ように見えた。紙の分身がぱらりと散った。空蝉の術が彼を救ったのだが、分身は今ので斬り剥がされた。剣がまともにRagnarokに突き刺さった。Ragnarokが痛恨の一撃を受けたことは、傍から見ていてわかったが、彼はひるみもせず、カムラナートに向けてランページをうち放った。


 片手斧の奥義の一つ、ランページ。
 私にそれを最初に見せてくれたのは、他ならぬRagnarokだった。瞬時に5発の攻撃を叩き込む荒技! 右に左に獲物を切り裂き、最後に脳天を叩き割って完了する。当時生き方に迷っていた私に、彼はこういった。
「戦士を続けていれば、この技が使えるようになります。Kiltrogにはそのときまで、片手斧を鍛えて欲しい」


 Ragnarokの斧が、あやまたずカムラナートを捉えた。脳天への一撃をかろうじてかわしたものの、彼が重傷を負っており、瀕死の状態にあることは明らかだった。もう一息だ。そのときSteelbearの、栄光の凱旋マーチが高らかに鳴り響いた。「全軍進撃!」

 Landsendが、氷の女王シヴァを呼び出した。彼はアストラル・フロウを使って、シヴァの真の力を引き出しにかかった。ダイヤモンドダスト! カムラナートはのけぞった。彼の髪は乱れ、息は荒げ、足はがくがくと震えていた。だが恐ろしいことに、剣技の勢いは一向に衰えなかった。Ragnarokとカムラナートは、壮絶な斬り合いを続けていた。二度立て続けに食らったら、タフなRagnarokもおしまいだったろうが、Leeshaのケアル5がそれを助けた。私も彼の脇について、カムラナートのわき腹にランページを叩き込んだ。

「なぜだ!」
 カムラナートは叫んだ。
「なぜ負ける! 私が――」
「お前が、仲間を持たぬからだ」
 私は言った。
「お前には盾がない。剣がない。鼓舞する歌も、身を癒す魔法も、神聖な獣の加護もない。ジラートの王子カムラナートよ、お前は冒険者の、新しい時代の絆に敗れるのだ」

 カムラナートが渾身の力を込めて、Ragnarokに剣を見舞った。彼はひるまなかった。「なめるな」と言って、冷静に斧を打ち下ろした。それがとどめとなった。カムラナートは後方に吹き飛ばされ、翼をもがれた鳥のように、無残に地面へと転がり落ちた。


(05.08.28)
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