その395

キルトログ、ギルガメッシュに知恵を借りる(2)

「は・は・は!」

 突然に、ギルガメッシュが笑い出した。私は驚いた。彼はすぐに、げほげほと苦しそうなせきを始めたが、何だか楽しそうだった。私の絶望的な話を聞いて、気でもおかしくなってしまったのだろうか。

「旦那、そりゃおかしい! おかしい!」
 あんたの方がよほどおかしい、と思ったが黙っていた。

「その格子の先には、階段があるんだろ? ということは、そこは使われているんだ。通れねえというわけがないんだ。なぜなら階段っていうのは、そこから上ったり、下ったりするのに使うものだからよ。そうじゃないかい?」

 そんなことはわかっているのだが、一応喋らせておいた。ギルガメッシュはひとしきり笑っていたが、私がきりりと口を結んでいるのを見ると、徐々にその笑顔も凍りついて、当惑した表情に移り変わっていった。

「本当か?」彼は言った。「旦那、本当に通れないのか?」
「残念だが、あそこは通れない」
「何か仕掛けがあるんじゃないか。鍵を使うとか……」
「その鍵穴がない。鍵穴にあたる位置に、小さなくぼみはあるのだが」
 親指と人差し指で、丸を作ってみせた。
「このくらいの、鳥の卵くらいの大きさだ。くぼみの意味はわからない」
「何かそこへはめ込めってことかね?」
「そうかもしれない。しかし、何が鍵代わりになるのか? 今から鍵の正体を突き止めるには、時間が足りなさ過ぎる。格子の手前で立ち往生をしているうちに、エルドナーシュの奴は、ゆうゆうと神の扉を開いてみせるだろう」


 ギルガメッシュは腕組みをして唸っていた。ライオンが心配そうに父の顔を見つめた。カムイは完全につまはじきにされている。やがてギルガメッシュは、いきなり机をどん、と叩いたかと思うと、私たちに手招きをして、私とライオンに顔を寄せるように言った。
「奴らの文明は、クリスタルが生んだもの……そうだな」
「そうよ」とライオン。
「だとしたら、そのくぼみにはクリスタルが入るのだ。そうは考えられないか? 無理のない推論だと思うが、旦那、どうだろう」

 結局は蓋然性の高低に帰するだろうが、考え方は悪くはなかった。
「だったら、俺にひとつ心当たりがある……」

 彼は声を落とした。興奮している。目がぎらぎらと輝いている。「おばけ」の話をしたときと同じだ、と私は思った。ギルガメッシュは確かに、手がかりと確信するような何かを思い出したのだ。

「旦那、マリーだか、マルーだか、マレーだかっていうミスラを探すんだ。そいつが、鳥の卵くらいの大きさのクリスタルを持っている。確か、聖地ジ・タで見つけた、と言っていた。運がよければ、その壁を開けることが出来るんじゃねえかな」


「マリー・マルー・マレー?」
 ライオンが、ころころと笑いながら繰り返した。
「面白いわね。いっそのこと、そういう名前のトリオでも探しましょうか?」 
「半年も前のことだから、思い出せんのだ。そうでなくても、ここに来る人間は多いんだからな」
 ギルガメッシュは小声で娘を叱った。
「とにかく、こういうことなんだ、旦那。知っての通り、うちはヴァナ・ディールの外……東方や南方に繋がるマーケットだ。珍品を持ち込んで、売ろうとする奴らもいるのさ。マリー・マルーもその一人で、たまたまちょっとだけ話したことがあった。
 マリー・マルーの持っているクリスタルは、ちょうど旦那が言ったくらいのサイズで、輝きに海の色の深みを持った、それはそれは綺麗な代物だった。マリー・マルーは最初、俺に買い取ってほしいと交渉に来たのだが、ここは天晶堂じゃない、売りたいなら自分で自由に売るがいいと言ってやった。だからしばらくノーグにはいたようだがな、それ以後は彼女の姿を見ていない。
 クリスタルは売れたのかもしれないし、売れなかったのかもしれない。
 マリーがまだ持っているのかもしれないし、もう持っていないのかもしれない。
 そいつはロ・メーヴの鍵かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
 もし鍵だったとして、その壁を開けるものじゃないかもしれない。
 まあ、いろいろあるが……」 

 ギルガメッシュは顎ひげをさすった。
「とにかく、旦那、そのマリーのクリスタルを探してくれないかね?」


 ライオンの顔が曇っていた。父親の言う可能性を、彼女が信じていないのは明らかだった。確かに、手がかりとしては非常にこころもとない。
「父さんの直感は信用するわ、でも……それだけじゃ、いくら何でも……ねえ、Kiltrog?」
「旦那、あんたには運がある」
 ギルガメッシュはちっちっと舌を鳴らした。
「そして、俺にはカンがある。このカンが、今まで何度も俺を助けてくれた。人類まで救ってくれるかどうかわからないが、2つが合わされば、奇跡も可能なんじゃないかな。少なくともウガレピではそうだったし……今度も、奇妙な確信があるんだ。どのみち他にすることはねえんだ。旦那、もう一度だけ、俺のカンに賭けてみちゃあくれないかね?」


(05.09.04)
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