その397

キルトログ、ガルカの秘宝を探す

「この山の絵は」
 Ragnarokが、壁画を指差して言った。
「ガルカの転生の姿を描いているのです。転生を理解するための大きなポイントですね」



 私はふむと言って、改めて壁画を眺めた。流砂洞の例の部屋である。ガルカの人生を表現しているらしい一連の壁画、惜しむらくは部屋を横断するクレバスで、裂け目の向こうに渡ることは出来そうにない。果たして転生の先に何が待っているのか、転生にどんな意味があるのか、重要なヒントを与えてくれそうな気がするだけに、全容が見られないのはあまりに口惜しい。

 我々はマリーのいう秘宝を探しに来ていた。彼女は重量扉の奥にひどく執着していた。ということは、その手前まではきっと調べ尽くしたのだろう。そのうえで、私に最後の場所を探索しろと言ったのだ。

 マリーに約束した以上、少なくとも私は何かを持ち帰らねばならない。だが、本当に何もないときはどうすればいいだろう? この部屋に来るまで、目ぼしいものはひとつもなかった。このあいだ探索した感触からしても、これから秘宝が見つかる可能性は随分と低いだろう。
 マリーは秘宝の存在を確信しているようである。だからたちが悪い。ああいう頑固そうな人間を説得するのは難しい。「お前の探し方が悪いからだ」と一蹴され、クリスタルを渡してくれなかったらどうするのか? 彼女はロ・メーヴの奥に行く方法を知っていた。今その情報が手に入らなければ、我々はお手上げになってしまうのだ。せっかくギルガメッシュのカンが当たり、マリー・マレーにもすんなり会えたというのに、私は、最後の最後で余計なつまづきを見せてしまっている。

 ここまで来たら仕方ないものだから、私はクレバスを下りた。仲間も後に続いた。底はすりばち状になっていて、通路が一本伸びているだけである。そちらが宣託の間に続いているのは、前回来たときにわかっている。ついでに、あの広間に秘宝などはないということも。

 私は何気なく、辺りを見回してみた。

 砂の間から、茸のようなものが生えていた。

 私は首を傾げた。流砂洞に茸? 何だろうと思って近づいてみた。それは植物ではなく、陶製の筒だった。壷の口のようだ。おそらくクレバスが出来たときに、土砂が大量に崩れ落ちて、陶器の壷を埋めてしまったものとみえる。

 壷は宝になるだろうか、と仲間に聞いてみたが、みんな苦笑いをするばかりだった。私も本気で尋ねたわけではないのだ。だが万が一、骨董的価値を持っているかもしれない。壷そのものががらくたに過ぎなくとも、マリーが気に入ってさえくれれば、それでいいのだ。

 私は両手を使って、壷を掘り出すことにした。ずいぶん骨が折れた。土砂は長い年月を経て、表面がかちかちに固まってしまっていたから。土砂を崩す作業に熱中するうち、私は大事なことを失念していた。例えば、デルクフの塔で何と戦ったのかを。ロ・メーヴの遺跡で、機械人形やボムとともに、一体何がうろついていたのかを。

 底まで掘る必要はなかった。胴体が見え始めると、壷はぶるぶると身を震わせて、砂を弾き散らかしながら、突然真上に浮かびあがった。マジック・ポットの一種! 要するにこれは、骨董品の壷などではなくて、モンスターなんである。私は土砂に埋まっていた、眠れる敵を堀り起こしてしまったのだ。

 悪いことに土砂の一撃で、自分が攻撃されたと判断しているらしい。壷は最初から攻撃的だった。ぐるぐると旋回しながら、力任せに私に突っ込んできた。私はすんでのところでそれをかわし、斧を取った。骨董価値がないのなら容赦はしない。こちとらありもしない宝を探して、いいかげん苛々が頂点に達しかけていたところである。


 エインシェント・ヴェッセルは、呆気なく倒れた。壷は粉々になった。口惜しさのあまり破片を拾っていたときである。容器の底の部分に、何か紙切れが張り付いているのを発見した。壷の中にずっと閉じ込められていたものと見える。

 私はそれを手に取った。ずいぶんごわごわした紙である。エルディーム古墳で入手した、古代魔法のパピルスに似ていた(その286参照)。羊皮紙と違い、植物の繊維を編んで作られている。手触りはよいとは言えないが、丈夫だ。現にこの紙も、ひどく変色こそしているものの、書いてある古代文字ははっきり見える。傍らには地図のような絵も描かれているのがわかる。私は思わず呟いた。

「宝の地図?」

 パピルスが本当に、宝の地図かどうかわかりはしない。古代文字だから、一文字も理解できないからである。しかし、マリー・コミュージャの好奇心をくすぐることは出来るかもしれない。さて、トレジャー・ハンターのミスラは一体、このパピルスの切れ端にどんな価値を見出すのだろうか?


(05.09.14)
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