その398

キルトログ、ガルカの秘宝を渡す

「すごいじゃないか!」

 思いもよらぬ反応というものがある。マリー・コミュージャのがそうだった。彼女は尻尾をぱたぱたさせて喜びを表現した……狂喜乱舞といった態だ。こちとら、こんなぼろっちい紙切れを持っていって、突っ返されたらどうしよう、とばかり考えていたというのに。

「これは、正真正銘の宝の地図だよ」
 興奮を抑えきれぬのだろう、マリーの息はあがっていた。
「あたいはね、こういうのに接してきたからわかる。何が見つかるかは問題じゃないんだよ。何を見つけられそうか、というのが大事なんだよ。その意味じゃこれは、あんた、最高の宝物だね。だってわくわくするもの」

 ともあれ、喜んでくれて幸いだった。骨董品の壷を持ってきていた場合、これほどの激賞を得られたかどうかはわからない。

「約束どおり、遺跡の抜け方を教えてあげるよ」

 本題だ。私は居住まいを正して、彼女の声に耳をすませた。

「あたいがリ・テロアを探索していたときのことだよ。綺麗な満月の夜だったのに、突然ふかい霧に包まれてね。恥ずかしい話、道に迷っちまった。そこであの遺跡に迷いこんじまったんだ。
 ロ・メーヴっていうところなんだそうだね? そのときはそんなこと知らなくて、いかつい機械の巨人とか、空とぶ壷とかに襲われてさ、一目散で逃げた。遺跡の中へ中へ進んじまったんだけど、屋根の下に入ったら追って来なくなって、危険かもしれないとは思いつつも、興味本位で奥を探索してみたんだよ。
 そしたら、でかい神像が立ち並んでいるじゃないか。あんたも見たのかい。あたいは信心の薄い方だけど、あれきっと女神さまだね。通り越していったら、壁にぶち当たった。向こうに階段があるのに、格子が邪魔してるじゃないか。嫌になったろ? そっから先へ行けないんじゃね。でもそこで、冒険家マリー・コミュージャの血が燃え上がったのさ。
 遺跡を調べに調べて、ようやく見つけ出した。大広間の池の中に、こいつが……(と、腰の袋を指差して)沈んでたんだ。月の光に呼応するように輝いてた。何で池に沈んでたのかわからないけど、一応は試してみたわけさ。あの格子の鍵に使えないかって。
 あたいのカンは当たった。やってみるもんだね。格子のくぼみに水晶をかざしたら……通れたよ。かざすだけでね。奥に何があったのかは、言わないことにしよう。あんたの楽しみを奪っちまうことになるから。まあ、あたいが満足するような場所じゃないことは確かさ。お宝が見つからないもんで、代わりに水晶が売れないかと、持って来ちまった。
 でも、不思議なもんだねえ。こんなにきれいなのに、買い手が全然つかなかったよ。理由は全然わからないね。かえって神秘的すぎると、財布を開けるのに躊躇するもんかね? それとも何かが邪魔していたかね。女神さまだか、男神さまだか……。まあ、だとしたらさ……」

 ミスラは腰の布をほどき、青水晶が入っているのを確認させると、布ごと私の手のひらに押し込んで、そっと包み込ませた。

「あんたがこれを手に入れたってことは、神様に認められたってことなのかもしれないね、Kiltrog」

「あなたも、そうではないのか?」
 私は彼女に尋ねた。
「だとしたら、あなたもまた……。池で水晶を見つけたときに、クリスタルに選ばれたのではないか。マリー・コミュージャ」

 マリーは悪戯っぽく笑った。そして、腰の袋にしまいこんだ、汚いパピルスを取り出すと、ぽんぽんと指で軽く叩いてみせた。

「だからね、あたいの報酬は、多分これなんだよ。粋な解釈をするなら、神様がお互いに、本当に欲しいものをくれたってことなのさ。そう思わないか?」


(05.09.14)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送