その402

キルトログ、アルドを再び訪ねる(4)

 1時間後、私はアルドの部屋にいた。彼と私は、しばらく無言で座っていた。

 今のフェレーナにとっては、やはり上層へあがるのは酷だったようだ。アルドは彼女を苦労して寝かせた。ただ、体力的にはつらそうだったが、とてもやすらかな顔をしていた。彼女は「ありがとう」と言った。「ありがとう、Kiltrog。ありがとう、兄さん」 あまりに何度も礼を言うので、苦々しく思っていたアルドも、さすがに露骨に文句を言えないような様子だった。

 彼女が寝息を立て始めると、私たちは隣室へ移動し、向かい合って席についた。

 フェレーナの件が片付くと、あらためて上層での出来事が思い出された。アルドも同じことを考えていたのだろうと思ったが、違っていた。沈黙が数十分も続いたあと、彼はわざとらしい、大きなため息をひとつついて、おもむろに口を開いた。

「Kiltrog……あんた、本気なのかい。エルドナーシュを追って、空へ行って……あいつを倒すって。クリスタルの戦士をあやつる、あのジラートの王子を……」


「当然」 
 その件については、考え直すまでもなかった。
「おそらくは、ザイドもライオンもそのつもりだろう」
 彼らの意志に関しては確信があった。闇の王と戦う時から一緒だったのだ。
 苛立たしそうにアルドは舌打ちをした。
「俺の実力は、クリスタルの戦士に全く及ばなかった。あいつらだって歯が立たなかった。なのに戦いを挑むのか? だとしたら、みすみす死にに行くようなもんじゃないか」
「彼らの目的は知らない。たぶん私とは違う。それに私だって、奴らに勝てるかどうかはわからない」

「ならば、どうして戦うんだ!」
 アルドの口調が苛立っていた。
「あんたたちは、カムラナートを倒した。俺はこの目で見たぜ。それだけでも、十分な成果じゃないか。これ以上は誰か、もっと強い奴に任せられるんじゃないか? なぜそう、自分が自分がって前に出ようとするんだ? あんたが自惚れ屋――それも、救いようのないクラスの――なら別だが、聞けばそうでもなく、自分の実力に自信がないようなことを言う。
 敵の強さは次元が違う。俺だってそんなことはわかる。それとも何か、ザイドもライオンも、あんたたちの仲間も、みんな揃って死にたがりなのか? よりによって雲の上まで、死に場所を探しにいくとでも?」


「アルド」
 私は冷静に言った。
「女神アルタナの、蝋燭の話を知っているだろうか」
「あいにくと俺は、女神さまとは縁が薄くてね」
「こういう話がある。アルタナは人を導くのではない。ただ人が持っている蝋燭に、そっと火を灯してくれるだけだと。自分の道を見つけ出すのは人であり、彼は彼自身の炎だけを頼りに、風の吹きすさぶ闇の底を、ひとり歩いていかなくてはならない。
 そして闇の果てに、女神アルタナを見出すのだという。
 この逸話の意味がわかるだろうか?」
 
 アルドは答えなかった。右手の爪をかりかりと噛みながら、上目づかいに、私に湿っぽい視線を投げているだけだった。

「ことジラートの件に関する限り、私には……何者かに守られているかのような、運の強さがあった」
「……」
「それは、奇跡と呼んでいいたぐいのものだ、と思う。あの兄弟の陰謀を知ったとき、私たちには何の手がかりもなかった。もしそこにライオンが居合わせなければ……彼女が私を、父のギルガメッシュに引き合わせなければ……神の扉はすんなりと開き、今ごろ君と、こうして話していることもなかっただろう。
 ギルガメッシュのおぼろげな記憶が、暁の巫女への道を開いた。ロ・メーヴもそうだ。彼がミスラのトレジャー・ハンターのことを思い出さなければ、トゥー・リアへ行く手段はなかった。その手がかりは、わずか数日で、向こうから飛び込んで来たのだ。見つけるのが絶望的な状況だったのに。しかも、手がかり自身確実性に乏しい――ギルガメッシュは自信ありげだったが――聞くからに頼りないものだったのにもかかわらず。
 だから、私は思うのだ……私は、しかるべき答えに向かっているのではないか。何らかの意志が、私をトゥー・リアへ導き、ジラートの兄弟たちと対決させたがっているのでは? 彼らの陰謀を阻止させるために?
 もしそれが、私の考える存在だとしたら……」

 アルドがゆっくりと手を上げて、私の言葉を遮った。
「だが、あんたであるはずはないんだ、Kiltrog」
 淡々と言った。
「忘れるな、クリスタルの戦士の存在を。伝説がどちらの味方をしているのかを。女神アルタナは、あんたでなく、エルドナーシュを……ジラートの王子の方を選んでいるんだよ。そうだろう?」


(05.09.27)
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