その407

キルトログ、トゥー・リアに潜入する(1)

 私は光に触れていた。

 その輝きは崇高で、とても気高いものだった。嗚呼、かくも完全な美というものが、この世に存在していようとは! 私の人生はわずか数十年に過ぎないが、おそらく前世でも、これほど美しい光に出会ったことはないだろう。来世を通じても、決して出会うことはないだろう。
 私は強く感動した。しかし、ビジョンに魅入られはしなかった――かつて、ジラートの王子が陥った夢のようには。

 女神よ。神の国は美しい。比して我らがヴァナ・ディールは、残酷なユーモアに彩られた世界だ。そこにはいっぱいの憎悪と、悲しみと、一握りの優しさがある。そのいびつさは、神の扉の向こう――クリスタルの楽園の輝きには、到底およぶことがない。

 だが女神よ。ここが我々の世界だ。私の愛するふるさとだ。

 私は貴女の息子を斬って、貴女のところへ辿りつく。
 

 奇妙な感触だった。身体は宙に浮いているのだが、足元に確かな、固い地面が感じられた。足の下にミルク色の渦が見える。気のせいではなかった。私は透明な床を踏みしめて、いま雲の上に立っているのである。
 
 私がいるのは、薄紫の光に満ちた小部屋だった。四方にゲートのようなものが見えるが、すべて閉まっている。どこから出られるのだろう? そう思って一歩を踏み出したら、床がぱりんと音を立てて、光の波紋が広がり、散った。氷を踏み抜いたときの感触に似ている。この床が破れるのではないか、と一瞬不安を覚えたが、足裏の感触は確かで、私の体重に耐えられぬ様子はまるでない。

 きらきらと光の粒を弾かせながら、私はゲートに駆け寄った。それが扉なのか、それとも壁の一部なのかを調べようとして、アッと声をあげた。ゲートの壁は近寄るとすうっと消え、通路が伸びているのが見えた。他に出口は見当たらない。仲間たちの呼ぶ声が聞こえる。私は意を決してゲートに飛び込み、彼らの後を追いかける。



 通路の天井はドーム状をしていたが、透明な床を通して見える下部も、天井をひっくり返したような半円形であるため、筒の中を走り抜けている感じがする。道はほどなく終わり、先刻と同じかたちの“扉”に突き当たった。近寄るとやはりすうっと消えた。開いた扉から、まぶしい日の光が差し込んで来た。私は外へ出た。

 正面に、奇岩がそびえ立っていた。

 私は圧倒された。三奇岩を見つけたときにも感動を覚えたものだが、それ以前に、なぜそれがそこに存在しているのか、という興味の方が強かった。だが、今は……。

 美しいフォルムだった。威風堂々とした体格に、蔦状の植物が壁面にからまり、みずみずしい印象を与えている。この美しさは三奇岩にはない。ヴァナ・ディールの奇岩はもっと薄枯れている。雲の下の世界における、ジラートの存在感と歩調を合わせるかのように。

 奇岩――ル・アビタウ神殿は、雲もなく、雨を知らぬ世界を過ごしてきた。そして今、一万年ぶりに人の足音を聞く。その壁が最後に耳にするのは、果たしてジラートの高笑いだろうか。それとも現世種の、我々の勝利の凱歌なのだろうか。


「一万年前のミイラどもに、好きにされてたまるもんかってんだ」

 ぷりぷりと肩をいからせながら、アルドがゲートから出てきた。傍らにはザイドが並び、むっすり顔で聞き役に徹している。私は振り返って彼らを迎えたが、アルドの方は、眼前の宮殿を見とめると、ひゅうと口笛を吹いた。その音は、吹き抜けていく強い風にかき消された。

「すげえな」
「ああ、すごい」
 ザイドが頷いたが、ちっとも感動しているようには見えなかった。

「“祝福されしヴァナ・ディールの地に、 おおいなる災いが満ちる。
何万年の長きにわたり、 暗黒を退けていた古の封印がやぶれ、終わりなき悪夢が目覚めようとしている。罪なきものの血が大地を流れ、世界は恐怖と哀しみ、絶望におおわれるであろう”」

「何だい、そりゃ」
「古い言い伝えだ」
「そりゃ、どっち側のことを言ってると思うかい? あんたは?」
「例えそれが、古の種族側の伝承であろうが」
 ザイドは両手剣を引き抜いた。刀身が、烏の濡れ羽のようにあやしい光を放っている。
「俺たちの手で、書き換えてやればよいだけのこと」

 アルドがけらけらと、楽しそうに笑った。
「それじゃ、先に行くぜ。Kiltrog」
 私の肩をぽんと叩く。
「俺たちは、敵の喉下に潜伏する。エルドナーシュと、アーク・ガーディアンどもを先に斬っても、悪く思うなよ。早いもん勝ちだ。少なくとも、相手は全部で6人以上いるんだから」
「お前は頼りない、アルド」
「は! 腹はくくって来たぜ。もう誰にも負けやしねえよ」

 小づきあいながら、彼らは宮殿の方へ去ってしまった。私も一呼吸ついて、彼らの後を追いかけることにした。


(05.11.01)
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