その408

キルトログ、トゥー・リアに潜入する(2)

 天空にそびえ立つ奇岩、ル・アビタウ宮殿。私はそこへ近づこうとしたが、唐突に道が途絶えた。数ヤルム先に向こうの岸が見える。縁に立って下を覗き込むと、雲の層が白渦を巻いている。間を繋ぐ橋はない。トゥー・リアはひとつの巨大島というわけではなく、いわば群島のように、小さな浮石が随所に存在していると見える。私が立っているのはその浮石のひとつなのである。


 傍らに、紫色に輝く魔法陣があった。向こう岸にも、光こそ放っていないものの、同じような装置が見える。私はためらいなく魔法陣に足を進め、対岸へジャンプした。デルクフの塔でも、ズヴァール城でも同種のものを見かけた。どうやらワープ装置は、古代ジラートの施設において日常的に存在したのだろう。これもクリスタル・パワーで動いているのだろうか。一万年も太古の昔から。


 対岸に仲間たちが待っており、私は彼らと合流した。あらためて周囲を見渡すと、ぐううと喉の奥から声が漏れた。Ragnarokが髭面ににやにや笑いを浮かべ、「どうです、感想は?」と聞く。天空にそびえ立つ宮殿の上に、蔦状の植物がからみつき、クリーム色のサーメットを濃緑で彩っている。その背後には、雲際で陽光に溶ける藍色の空。空気のつめたさ、すがすがしさと相まって、嗚呼ここは別世界だ、雲の上の世界へ来たのだという実感が、私の胸に迫った。それは奇妙な感動だった。

「何か叫ばれてみては?」

 そうRagnarokは言うのだが、この光景を前にして、容易に言葉が出てこようはずもない。私は黙って宮殿の方へ足を進めた。



 ル・アビタウ宮殿へ向かう道は、ゆるやかな上り坂になっている。そこには草木が生えていた。やわらかそうな芝生と、坂の左右に続く植え込みは、ヴァナ・ディールの庭園で日常的に見られる光景である。ただひとつ違うのは、地面がサーメットで出来ていることだ。

 こうした造園のセンスが、ジラートの古代から伝統的に存在したらしいということは、ちょっとした驚きである。そして次には、当然の疑問が浮かんできた。雲の上で雨は降らぬはずなのに、どうして植物が育っているのか? 木も草も伸びっぱなしではなく、適度に刈り込まれ、かたちが整えられてるように見えるのはなぜなのか? 

 もしかして、古代人が今も生きており、庭いじりを欠かさないのかしらん、と私は考えた。予想は半分当たっており、半分は外れていた。坂道をふよふよと下ってきた物体がある。それは見慣れた壷のかたちをしており、周囲の植え込みに、小気味よく水をしゅ、しゅと噴射していた。スプリンクラーである。マジック・ポットの眷属が、天空で緑を育てているのだ。彼らはあるじを失っても、1万年もの間、水やりを忘れなかったものと見える。


 宮殿に近づいていくと、もうひとつの疑問が解消された。いったい何者が庭園の美観を管理しているかわかったのである。

 いかり肩の機械人形が闊歩をしていた。ロ・メーヴで見たやつである。名前をグラウンズキーパーという。すなわち天空では、マジックポットが水を撒き、マジックドールが草を刈っているというわけだ。奴らを狩りに来た冒険者や、どこかに潜伏しているだろうザイドやアルドを除けば、トゥー・リアには人がいないようだ。おそらく唯一の生物と言ってよいと思うのが、木陰で羽ばたいているフラミンゴである。こいつは低空を舞う小型の鳥であって、私自身が知っている長足のフラミンゴとはまったく似ても似つかない。それにしても、いったい誰がこの鳥を、そんな奇妙な名前で呼んだのであろう?


(05.11.15)
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