その410

キルトログ、最後の試練を受ける(1)

 かくして私は天へ昇り、魔王子エルドナーシュを討つことを誓ったわけだが、すんなりジラート一派の殲滅となったわけではない。地上にいくつかやり残したことがあったのである。

 限られた日々の中で鍛錬を極めんと張り切っていたころである。69レベルになっていた私は、Leeshaに呼び出されて、ジュノ上層の木箱が積まれた小広場へ寄った。そこにはSteelbearとRagnarokがいた。Leeshaが私を中央に立たせ、祝詞を読むように声をあらため、人類の仇敵に立ち向かう我らが友人Kiltrogに対し、謹んで品物を贈呈するという意味あいのことを言った。

 Leeshaが差し出したのは、立派な全身鎧であった。着てみるとずしりと重い。肩から肘にかけてくろがねの板が重ねられ、鎧の前面には、茶に白のラインが入った直垂が下がっている。
 この鎧はホーバージョンという。現在の最高ランクの鎧のひとつであり、たいへん高価なものだ。私の知るかぎり数百万ギルで取引されている。性能は高いが贅沢品であり、友達の遺産で食いつないでいる私に手の出るような品物ではない。

 私は驚いて、このような高いものをどうしたのかと尋ねた。彼らはこれを買ったのではない、何と作ったのである。めいめいが世界中から材料を集めてきて、鍛冶師であるRagnarokが取りまとめたのだ。世にプレゼントは多くあれど、これほど心のこもった贈り物が果たして他にあるものだろうか。



 今ここには3人しかいないが、その他にも、Libross、Ruell、Sif、Landsend、Urizaneらが協力してくれたのだった。Ragnarokは「おまけですが」と言いながら、兜や具足の一式を取り出してみせた。これらも彼が作ったものですべてに銘が入っている。私は戦士の赤い鎧を脱ぎ、彼がくれた装備一式に着替えた。Ragnarokには以前、片手斧ダークアクスや、盾ダークバックラーも作ってもらったことがある(注1)

 すべてを身につけると私は鋼鉄の塊と化した。これからジラートを討とうとしている者にふさわしい、堂々とした容姿になった。私の士気は改めて高揚し、友人たちへの感謝の念も相まって、胸の奥に熱い鼓動が沸いてくるのだった。この応援を無駄にはしない。必ずエルドナーシュを倒して、私は再び――闇の王と決着をつけたように――ヴァナ・ディールを混沌の魔手から救うのだ。


 翌日、私はマートのところへ行った。70レベルの壁を破る、新たな成長を望んでいたからである。
 マート翁は大公邸の中庭で朝日を浴びていた。木漏れ日がきらきらとステンドグラスのように美しかった。彼は落ち着いた様子でモーグリと談笑していたが、ホーバージョンを身につけて近づく私を見ると、「ふむ」と言ってあごひげをしごいた。
「どうやら、成長の最終段階に来ておるようだの」

 師の言葉はちょっとした驚きだった。というのは、熟達の冒険者になったというような自覚は一切なかったからである。
「しかし、モグハウスを出たばかりの頃に比べるとどうじゃな。今の高みに来れると想像できたかね。当時からしてみれば、高い山を越えて、雲の上にのぼったのにも等しいわけじゃぞ」
 雲の上にのぼる……。

「上を上をと目指してこそ人よ。だがそこには自ずと限界がある。わしはお前さんに手ほどきをして、壁を一枚一枚破るためのヒントを与え、お前さんは見事それをものにしてきた。ただいかなわしでも、わしの実力を越えた領域に導くことは出来ん。わしは15のジョブのあらゆる奥義を身につけたが、経験から言えるのは、人の成長の限界はまず75レベル。それ以上は期待せぬ方がよいだろう。
 人間以外の生き物はこの限りではないがな。ヤグード教の長ヅェー・シシュ、クゥダフの金剛王ザ・ダ、オーク軍のバック・ゴデック大将、少なくとも奴らは我々をかるく凌駕している。口惜しいが獣人の強さは認めざるを得ん。もっともこいつらは、獣人の中でも群を抜いた、百年に一匹というような特別の存在だがの。あるいは人類の歴史の中にも、75レベルを軽々と越えるほどの実力の持ち主がおったかもしれん。今となってはもはや知ることはむつかしいが……」

「例えば、古代ジラートとか?」

 マートは「もしかしたらの」と首を傾げた。私はそれ以上余計なことは言わなかった。


「お前さんは、戦士としてここまで成長してきた」
 マートはかるく私の肩を叩いた。
「はい」
「なら、偉大なる戦士の証を手に入れて、わしのところへ持って来い。お前さんの実力ならたやすいことじゃろう。それが出来たら、最後の修行の内容を教えよう」
「戦士の証、それは何ですか?」

 マート翁が口を開こうとしたとき、大公宮の方から、白い鎧の騎士が近づいて来るのが見えた。その人物の顔を見て、私はどきりと心臓を震わせた。
「マート様、お探し申しましたぞ」

 衛兵隊長のウォルフガングだった。私は慌てて隠れようとしたが、彼は私を無感動に見つめたきりで、別段さわぐ様子もない。これには拍子抜けした。プロミヴォンの一件によって、てっきりお尋ね者になっているとばかり思っていたのだが(その351参照)。

 そういえば、と合点がいった。私は、自分が被っているかぶとが、頭をすっぽり覆うチェラータだったことを思い出した。つい昨日もらったばかりの品物だ。もしこれがファイターマスクのままだったら、たちどころに面が割れてしまって、捕縛されてしまったかもしれぬ。
 私は幸運に胸を撫で下ろした。友人たちにはまた一つ借りを作ってしまったことになる。

「そろそろ時間ですので、ご準備をお願い致します」
 ウォルフガングはいんぎんに頭を下げた。マートがおもむろに大きな咳をした。
「うむ」
 私はふと、なぜこの爺さんが大公邸にいるのか、わかったような気がした。これほどの武道の達人が無名で、市井に埋もれているとは考えられぬ。おおかた大公家の食客といった身分で、衛兵の武術指南でも担当しているのではないか。

「冒険者を相手になさるのは、もう少しお控えいただいた方が……」
 
 ウォルフガングは私をじろりとねめつけた。あいかわらずいやらしいことを言う男である。彼は私の正体に気づいていない。言うまでもなくガルカの戦士はありふれた存在だ――特にジュノにおいては。

 マートは喝と大声をあげた。

「彼らとの交わりはわしの道楽よ。ぬしにとやかく言われるようなことではないわ」
「それはそうですが……」
「冒険者の手ほどきをするのが問題かね? 彼らが限界を破って、さらなる高みにのぼるのが気にくわないと?」
「いえ……」
「彼なぞ、もうおぬしは足元にも及ばんかもしれんぞ。ウォルフガング」

 翁はにやりと笑って私を指さした。衛兵隊長の眼光が鋭くなった。私はヒヤリとした。彼に決闘を申し込まれでもしたら、正体を明かさないでは済まされない。
 だがウォルフガングは、小さく肩をすくめ、「ふん」と言ったきりで、この話題を終わらせてしまった。
「とにかくお急ぎ下さい。私は先に武闘場でお待ちしています」
 そう言い残し、足早に去って行った。

「とんだ邪魔が入ってしまったの」
 マートは振り返って言った。
「とにかく、品物を手に入れたら、わしに見せに来ることだ。わしはこれから、あの小僧の相手をせねばならん。悪いの……」

 従者のモーグリを連れて、彼は行ってしまった。私はひとり中庭に取り残された。結局、戦士の証とやらの詳細はわからない。鍛錬を続けるうち、手に入るということはあり得るのだろうか?

注1
「近ごろではアタッカーとして働くことが多くなって、二刀流を生かすために、サポートジョブに忍者の業を選ぶことが常となった。したがって盾を使うことは久しくない。Ragnarokもまた、あまり出番はないでしょうがと言って盾をくれたのだが、彼のダークバックラーは、思わぬところで私を救ってくれたのだった。その辺りの詳しい事情はまた後述する」
(Kiltrog談)


(05.11.26)
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