その412

キルトログ、最後の試練を受ける(3)

 私は岩場に立っていた。目の前に上り坂が続いていた。私は両手斧の柄を取り、鬨の声をあげながら坂道を駆け上がった。

 岩は牙のようにとがり始め、徐々に黒さを増し、しまいには暗黒のクリスタル同然の色になった。小さな広場に出た。中央に小柄な影があった――青い服に身を包んだ彼は、まぎれもなくマート翁である。彼は地面をとんとんと踏み、小刻みに身体を左右へ揺らしていた。
「ほほ、来おったの」
 マートはあごをしゃくった。
「さあ、お前さんの本気を見せてもらおう」


 私は斧をかざしたまま、彼に駆け寄った。そのとき、ほんの一瞬だけ、無防備な老人――マートは鎧を着てなかった――を、得物で打ち据えることにためらいを覚えた。彼の拳が胸に当たった。鎧を貫き通すような衝撃! 私は即座に考えを改め、反射的に、両手斧を思い切り振り下ろした。刃の先に確かな手ごたえを感じた。が、老人がひるんだ様子はない。

「ほほ、なかなかやるの」

 私はディフェンダーで身をかためた(注1)。TPを貯めて一人連携を決めるのである。その際には、バーサク、アグレッサー、ウォークライ、マイティストライク、アタックに関するありとあらゆるアビリティを使うのだ。私はいつものボス戦のように、耐えて耐えて一息にマートをしとめようと思ったのである。

 ところがそううまくはいかなかった。一撃目のレイジングラッシュが決まったとき、マートが一瞬ひるんで「やるの」と言った。
「では、ちぃとばかり本気でいくぞ」
 彼の身体が光を発した。マイティストライク! 私は呆然とした。だが、15のジョブを極めた彼であれば、このアビリティが使えても不思議はないのだ。見かけは拳法家のようであっても、彼は私よりよほど優れた戦士なのだ。そんなことは、最初からわかっていたはずではないか?

 幸いなことに、マイティストライクの効力は長くない。せいぜい30秒である。だがそれをいかに耐えるか。彼の拳は鉄球のようであったが、次第に破城槌なみの勢いを持ち始めた。一人連携のタイミングは失われてしまった。私は防衛に専心する。ハイポーションをがぶ飲みするが、何とか死なないように耐えるのが精一杯である。反撃の糸口はない。
 やがてハイポーションが尽き、エクスポーションを口にせざるを得なくなった。2杯目を飲もうとしたら、嘔吐感がこみ上げた。何と。どうしても飲むことが出来ない。その間にも敵の攻撃は続き、千の拳が私の身体を襲い……

夢想阿修羅拳!」
 
 パンチとキックが私を打ちのめした。私はぼろぼろになって、地面へ無残に転倒した。


 モグハウスに戻ってから、私は敗因を分析した。
 エクスポーションを買ったのは失敗だった。強い薬には副作用がある。その影響を引きずる間は、続けて服用することが出来ない。一方、ハイポーションは一口の効き目が弱いが、かわりに副作用がない。多くの冒険者が後者を好む理由がわかった。薬を大量に揃えたとしても、立て続けに使えなかったら何の役にも立たぬ。
 副作用はイカロスウィングにもある。こちらも一度使うと、肩の筋肉がこわばって、再使用にはだいぶ間をおかねばならない。つまり、金にものをいわせてこの薬を買占め、ばんばんウェポンスキルを撃つ、という使い方は出来ないのだ。なるほど世の中よく出来ているものである。
 私はひとまずマートのところへ出かけた。
 彼はいつもの中庭にいたのだが、再戦を願い出ると、「戦士の証を持って来さえすれば、いつでも」と言う。頑固で知られる師匠である。その条件以外では首を縦に振りそうにない。
 そこで私は、LeeshaとSteelbearの協力を得、テリガン岬でまたゴブリンどもと格闘した。聞けばLeeshaも白魔道士として、マート翁に挑戦しているという。彼の洗礼を受けた冒険者は数多い。私たちも最終試験に受かり、星の輝きを手にすることが出来るだろうか?


 数日後、身支度をすっかり整えて、モグハウスを出た。身体を包むのはホーバージョンではなく、使い慣れた戦士のアーティファクト一式である。
 ホーバージョンは攻撃力と命中率を大幅に上げる効果があるが、大変に重いので、回避率が減少してしまう。パーティ戦でアタッカーに専心するならともかく、マートの鉄の拳を避けるには分が悪い。一方、アーティファクトは体力増強の効果が高いし、使い慣れていて安心感もある。ガルカの勇者ラオグリムの矜持も詰まっている。

 作戦も改めた。マートの攻撃をまずしのいで、などと、悠長に構えていては駄目だ。戦士は守備が得手でない。ならば先手必勝、序盤から猛攻を仕掛けて相手を粉砕するのだ。そのために何が出来るかをまず考えるべきだろう。
 
 先日同様、マートは私をホルレーへ送った。私は深呼吸をひとつし、意を決して魔法陣の中に足を進める。
 
 私の首には、オポオポネックレスが下げられていた。奇妙なアイテムで、装着して眠るとTPがあがるという。そのためにいくつかの睡眠薬も用意した。この薬の効果は弱く、一口飲めば1分程度の眠気を誘う。だがそれがいい。戦いを前にぐっすり眠ってしまったのでは意味がない。私の目的はひとつ。マートに対峙したそのとき、100まで貯めたTPをもって、すかさずウェポンスキルを打ち込むことである。



 ミスラ風山の幸串焼きを噛みちぎりながら、坂を駆け上がった。武闘場の中央にターゲットを見つけた。私は一礼だけすると、スパイクネックレスにつけかえ、問答無用で獲物に向かって襲いかかった。

マイティストライク!

 まずは脳天へ一撃。「やるの」と敵がひるむ。だがこれは社交辞令だ。両手斧の一撃程度でひるむ相手ではない。

 バーサクをかけ、雄たけびをあげる。「ウォークライ!」 湧き上がる高揚感。その瞬間、私は無敵の戦士になる。これは武器だ。老人なんぞに遅れを取りはせぬ。30秒で決めてみせる。

レイジングラッシュ!

 十字に斬り、斜めに斬りおろす。腰の袋からイカロスウィングを取り出し、一息にあおる。素早い動作を行う先で、冷静に時間をかぞえる私がいる。連携のタイミングをのがしてはならぬ。待つのは3秒。早くても遅くてもならぬ。3秒……2秒……1秒……。

 ゼロ。

 薬は回り、両肩に稲妻が走り、斧を持つ手に力が篭る。柄をぐいと引き絞り、私は渾身の力を込めて、最後の攻撃を試みる。

レイジングラッシュ!

 そして三閃した刃は、

 敵の肌を切り裂き、
 肉に深く食い込み、
 骨をばらばらに折り砕いた。


 そのはずだった。手ごたえがあった。敵はふらつき、ゆっくりと背中から倒れていった。私は拳をにぎり、勝利の叫びをあげようとしたが、驚くべき光景を見た。瀕死のはずの老人が、崩れ落ちる直前に踏みとどまり、何とか片膝を着いたに留まって、再びこちらに身構えてみせたのである。

「きいたぞ……。前よりは上達しているようだ。だが、まだまだやられはせぬ」

 嗚呼、わが師よ。恐るべきマートよ。果たして私の全力をもってしても、この地上最強の男を克服することは出来ぬのだろうか?



注1
 Kiltrogが使用する戦士のジョブアビリティです。

ディフェンダー
 3分間防御力がアップ。ただし攻撃力が落ちる。25レベルで習得。
バーサク
 3分間攻撃力がアップ。ただし防御力が落ちる。15レベルで習得。
アグレッサー
 3分間命中率がアップ。ただし回避率が落ちる。45レベルで習得。
ウォークライ
 自分を含め、周囲にいるパーティメンバーの攻撃力を30秒間アップ。ヘイト値を大幅に稼ぐことが出来るので、挑発の補助としても使用される。35レベルで習得。
(敵は、その時点でのヘイト値が最も高い相手を攻撃する)
マイティストライク
 戦士が最初から持っているアビリティ。30秒の間の物理攻撃がすべてクリティカルヒットになる(当たらない場合は無効)。強力だが2時間に1回しか使えない。


(05.12.14)
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