その414

キルトログ、トゥー・リアへ出発する

 翌夜、私とSteelbearは、偉大な白魔道士の証を取るために集まった。遅れて主役のLeeshaが来た。3度もマートの試験に落ちて、さぞかし落胆しているだろうと思いきや、「ひっひっひ」とあまり上品でない薄笑いを浮かべている。
 そして彼女は私たちに自分の称号を見せびらかした(注1)
「じゃーん」

【称号】マート・マッシャー

 私たちはげえと言った。要するに三度目の正直、Leeshaはしっかり翁から認可状を貰ったのである。泣き顔の絵で私たちを騙したのだ。何て性悪なことをするのだろう。

 ともあれ、これで障壁はなくなった。我々はルフェーゼ野へ赴き、巨鳥アブラクサスを狩って鍛錬を重ね、のびしろを出来るだけのばした。その間約50日。私は戦士75に達し叫び声をあげたが、それは、ここまでの道程の長さに対する感慨ではなく、遂に倒すべき相手を倒すことが出来る、という歓喜を意味していた。


 その数日後、我々はル・ルデの庭に集合した。
 噴水前には、赤魔道士のSteelbear、忍者のRuellがおり、ぬっそりと立っていた。前日まで弁当つくりに勤しんでいた白魔道士のLeeshaは、眠そうに目をこすっている(注2)。タルタルのSenkuの義母であり、私たちの結婚式にも参列したParshaは、ナイト74としての参戦だった。彼女は自分が盾役として「ひ弱だから」からと遠慮を隠さず、噴水の前でしつこいくらい微笑んでばかりいるのだった。

 黒魔道士のUrizaneが手を振って現れた。鍛冶の仕事をすませた戦士のRagnarokが、バストゥークから合流した。モンクのLandsendが、おなかをさすりながら歩いてきた。ごまプリンを食べてから調子が悪いのだという。Steelbearが「実は、ゴブリンプリンだったのです」と言ったので、タルタル氏の顔はさらに青くなっていた。

 私はSifを待ちながら、Ruellに片手斧を借りた。マンイータージャガーノートである。両方とも無骨なつくりで、見た目は石斧同然に見える。Ragnarokがおお、と感嘆の声をあげる。ということは、やはり上等な武器なのだろう。
 ジャガーノートは名前もそうだが、ごつごつした刃にオークの印が浮かんでいて、何だか呪われた武器のようである。ところが実情は、潜在能力を持っており、攻撃力と命中率を飛躍的に上昇させるのだった。「オークの大将からぶんどったのですよ」とRuell。だとすれば使い勝手の良さも、見た目の凶悪さも頷ける。私はぶんぶん数回振ってみて腰帯に差した。
「すごいなあ」Ragnarokが笑う。
「でも俺はかっこ悪いから買わない」

 雑談をしながらSifを待っていたが、彼は姿を現さない。予定を変更するわけにはいかぬので、上層からチョコボに乗り出発した。

 近ごろは金策が難しい、という話をしながら、和気あいあいと聖地ジ・タを駆けた。ロ・メーヴの入り口で、キリング・ウェポンが人を襲っていたので、これを手早く片づけた。幸先のいい勝利である。特にロ・メーヴの怪物どもには、恐ろしくてとてもかなわないと思っていただけに、千の勇気を得たような気持ちがした。

 神々の間を通り過ぎるとき、通路の中央に座り込んでいるタルタル氏を見つけた。「巡礼の人か」と私が言い、「絵になるね」とRagnarokが相槌を打つと、Leeshaが驚いた顔をして、「あれはオイル屋さんですよ!」と言った。トゥー・リアを訪れる者たちのために、バザーでサイレントオイルを売っているのである。空へのぼるにあたり、オイルの予備を忘れてくる者は少なくないそうだ。そんな冒険者を相手にした商売らしい。
 着眼点がよいね、と私は感心した。こんなふうに、楽しい会話、いつも通りの雰囲気とともに、決戦の時は近づこうとしていた。


 我々は、浮遊島トゥーリアに到着した。昼をとうに回っており、透明の床の下には、一面に夕焼け雲が渦巻いていた。オレンジ色に照らし出されたホールの美しさに、我々はしばし見とれて、あらためて気持ちを引き締め、ル・オンの庭まで一気に走り抜けた。

 ル・オンの庭。ル・アビタウ宮殿が堂々とそびえたち、その手前では、機械の庭師どもが剪定に勤しんでいる。見たところ何も異変は見られない。一万年かたときも休まずに続けられてきたこの光景は、エルドナーシュの計画の完成とともに終わる。いま、水面下で何が起こっているのだろう? 魔王子がまさに、人類を破滅に導くレバーに手をかけているのか。それとも潜伏したザイドとアルドが、クリスタルの戦士を斬って一矢報いたのか。

 そう、ザイドとアルド。彼らとは連絡を取っておけばよかった。ザイドの態度を鑑みれば、共闘を申し出ても無駄だったろう。だが、各自がばらばらに行動すれば、互いのプランに齟齬をきたすこともあり得る。彼らの行動は未だ不透明だ。結局、我々は我々の計画に基づき、アークエンジェルすべてを倒す作戦を遂行せねばならぬ。もとよりそのつもりでトゥー・リアに再来したのである。

 どちらかが、どちらかの足を引っ張ることにならねばよいが――。

 時計は深夜零時を回った。天晶暦877年11月21日。人類の運命が決まる、最も長い一日がいま始まる。


注1
 キャラクター・プロフィールの欄には「称号」があり、直前にクリアしたクエストやミッションによって変化します。これは他のプレイヤーも閲覧することが出来ます。
 クエスト「星の輝きの手に」をクリアすると、称号は「マート・マッシャー」になります。

注2
 調理スキルの高い彼女は、この日の決戦のために、各メンバーにそれぞれ料理を作っていたのでした。FF11では、戦闘前に食事をとって能力値を上げることが通例になっています。

(05.12.29)
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