その417

キルトログ、内なる無知と戦う

「内なる無知が、お前たちを虚ろにする……」

 アークエンジェルHMは、まるで幽鬼だった。蛍のように青白い肌、血石のようなまなこ。両腕には、地獄の炎をつかみとって来たかのような、鋭利な剣が握られている。奴も闘技場の中央で、堂々と我々を出迎えた。どうやらそれが向こうのやり方のようだ。古代ジラートのものだか、アークエンジェルのものだかは知らぬが、逃げも隠れもせぬ、正面から相手をしてやるという態度である。

 私は斧を抜き、両手に構えた。
「アークエンジェルHMよ。我ら6人、現世種の名において、お前を殲滅する」
 そう、HMの流儀こそ、戦士のそれだ。だが私たちは――私と、後ろに控えるLeeshaと、Steelbearと、隣にいるRagnarokとは――奴が何をしたかを知っている。ズヴァール城の天守閣にて、HMがその剣で、いったい誰の命を無残に奪ったのかを。


 10分ほど前、我々はHMの魔法陣に到着した。トゥー・リアへの襲撃が始まって、すでに1時間が経っているが、思ったよりスムーズにことは進んでいる。我々はMRに「あやつる」を使わせることなく、奴を撃破した。なるほど奴らは強く、一対一ではとても敵わないが、6人で力を合わせれば決して怖い相手ではない。
「これは数の暴力じゃなくって、絆の力よ」とParsiaは笑う。
 8人のうち、彼女とLandsendが残ることになった。Landsendは魔法陣の周辺を走り回っており、Parsiaはそれを楽しそうに見守っていた。「そういえば、Senkuちゃんは落ち着きのない子だったわねえ」と、養子の思い出を語る。二人が退屈をすることはなさそうだ――もっとも、HMを倒すのにも、たいして時間を使う気はなかったのだが。

 我々は計画を練った。Ruellに聞くと、彼はただ一言「気合い」という。HMは戦士と忍者の能力を持っている。警戒するべきはマイティストライクだ。相手に使われたときの恐ろしさは、マート翁との戦いで思い知っている。ただし、そもそも忍者であるRuell、サポートジョブにつけた私とRagnarok、いずれもあのときと違い、空蝉の術が使える。そういえば、忍者に戦士の能力といえば、私たち3人いずれもがそうではないか。

「Ruellさんに任せて、後はターゲットを取り、回す」とRagnarok。
「大将の仇は取る」
 彼はいつになく気合が入っている――誰のことを述べているか、私にはわかった。ヒュームのRagnarokがそう言うのは意外かもしれぬ。しかし、“彼”はバストゥーク史に残る英雄であり、共和国国民の憧憬の対象だった。たとえ許されぬあやまちを犯したとしても、我々の心の中から、彼の存在が消えることは決してなかったのだ。


 HMは2本の剣を振りかざした。私たち3人も二刀流である。いわばこれは、古代と現代の二刀流の戦いとも言えるわけだ。
 Ruellが挑発をして襲いかかった。
 HMは、マイティストライクを使った。とばしてくる気だ! Ragnarokの斧を武器で受け流し、サークルブレードをRuellに打ち込む。私を含めた、1対3の派手な斬り合いが始まった。
 Ruellがよく盾になってくれた。HMの剣技はすさまじく、紙の分身は頻繁に吹き飛び、彼はしばしば無防備になった。そんなときには、びちっ、びちっという、肉の切れる嫌な音が響くのだったが、彼の底なしの体力と、Leeshaの素早い回復魔法によって、形勢を崩すことなく戦いを進められた。
 私が奴を挑発したときである。振り返った剣の一閃で、紙兵が散ってしまった。あぶない! HMは二本の剣を垂直に振り上げ、同時に勢いよく斬り下ろした。絶双十悶刃! HMの必殺技であるが、かろうじて私が身をひねったので、肩口を軽く斬られた程度ですんだ。

 凄惨な斬り合いは続いた。マイティストライクをしのいだ後、私たちは徐々にHMを追い詰めていった。奴はたびたび十悶刃をきり出したが、少なからず分身を払うだけに終わった。しかし我々の攻撃は、着実に奴にダメージを与えていった。むろん奴も忍者であるから、空蝉の術は使えたのだ。しかし、呼び出した分身はいずれも、Steelbearらの魔法によって吹き飛ばされてしまい、盾としての役目をほとんど果たさないまま、生身で我々の攻撃を受けなければならなかった。



 我々の準備が整った。Ragnarokが合図を出した。「マイティストライク!」彼は本気だ。そのままランページを打ち込む。続いてRuellが空を放ち、私が渾身のランページで続いた。全力で叩き込んだつもりだったが、かろうじてHMの命を奪うには足りなかった――それが命とりとなった。

 HMが笑ったように見えたのは、気のせいであったか。奴は微塵がくれを使い、無知のかけらを撒き散らしながら、壮絶な爆死を遂げた。

 Ragnarokの死体が、ラロフの劇場に転がった。

(06.01.13)
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