その418

キルトログ、内なる驕慢と戦う

 我々の中に、白魔道士Leeshaがいてくれたことには、全く感謝せねばなるまい。彼女のレイズ3で、Ragnarokは無事に蘇った。彼女たち後衛がいるからこそ、私たち前衛は“死”を恐れず、思い切り戦うことが出来るのだ。

 Leeshaは自己蘇生魔法リレイズをかけており、一度だけなら戦場に復帰することが出来る。回復に関しても、UrizaneとSteelbearが力を合わせて補佐をする。これらの“保険”を使い果たし、全滅の憂き目にあった場合、助けてくれる者はおらぬ。我々は無念にも、天に最も近い土地でしかばねをさらすことになる。


 大事をとって、Ragnarokは休みをとった。今度はRuell、Parsiaの組み合わせで、アークエンジェルEVに挑むことになる。
 EVに関して、並々ならぬ戦意を見せていたのがRuellだった。
「EV姉さんの凶悪さを体験しますか」
 では敵は女なのだ。私はそんなことすら知らなかった。
「何度でもやってみたい相手というのはいるものですよ」
 Ruellはかつて戦ったことがあるらしい。そのとき、敵のあまりの強さに舌を巻いた。EVはナイトと白魔道士の能力を持つ。ナイトの装甲は硬いうえに、インビンシブルというアビリティで、30秒敵の物理攻撃を無効化できる。それに加え、白魔道士には女神の回復という技がある。自分を含む仲間の体力を、ほとんど全快に近いまでに回復させるのだ。
 EVの強さは、そうしたタフさにのみあるのではない。奴は片手剣の達人で、スピリッツウィズインを頻繁に使う。RuellがMR戦で用いたこの技は、使い手の体力に正比例したダメージを敵に与える。厄介なことに、空蝉すら貫通してしまうのだ。底なしの体力から繰り出されるスピリッツウィズインは、一撃で我々を即死させるだけの威力を持っている。
 私はあらためて震え上がった――ではどう戦えばいいのか。そのために我々は、経験者であるRuellと、同じナイトであるParsiaを必要としたのである。


「内なる驕慢が、お前たちを腐らせる……」
 肩まで届く髪も、肌も、雪の色をしている。露出しているのは首から上のみで、全身を漆黒の鎧が覆う。身体がすべて隠れるほどの長盾をかまえ、EVはその後ろから、業物の長剣を抜き放った。

 Parsiaが挑発をしかける。
「いくわよ……」

 Steelbearがグラビデを唱える。EVの足元に黒い渦が巻き、下半身に絡まりつく。同時にParsiaが、脱兎のように走り出した。EVが緩慢な足取りでその後を追う。私とRuellは、奴の背中についていく。これぞ、EVとまともに戦うための唯一の策――冒険者の間でマラソンと呼ばれる作戦である。

 スピリッツウィズインがある以上、EVとまともに打ち合うことは出来ぬ。しかし体力を削りさえすれば、奴の技の威力は落ちていく。奴が十分弱っているなら、取り囲んで仕留めることが可能だ。ただ、どうやってそういう状態に持ち込めばよいのか? 

 答えはこうだ。Parsiaが挑発をしかけ、囮となって劇場内を走り回る。そのままでは容易に追いつかれてしまうが、Steelbearのグラビデが、敵の移動の邪魔をする。足が鉛のように重くなって、動作が緩慢になる。Parsiaは、剣の届かない位置を常に保ち、気を引き続ける。その間に私とRuellが、横から後ろから奴を殴り、細かいダメージを蓄積させていく。その長期戦のイメージと、囮役がえんえん走らなければならぬことから、「マラソン」と呼ばれているわけである。

 EVはドミニオンスラッシュを放った。奴の技なのだろう。上段斜めに構えた剣を、一瞬のうちに切り下げ、再びつばめのように斜め上に切り返す。Parsiaの装甲に傷がついたが、生命に大事はない。彼女が再び走り出す。私とRuellはEVを攻撃するが、ダメージを与えすぎて注意を引いてもいけない。しばらくは根くらべのような勝負が続く。

 EVがやにわに、スピリッツウィズインを放った――不幸にもParsiaは、剣先がかろうじて届く位置にいた。
 彼女は一撃で斬り殺され、床の上に倒れ伏した。
 驚きの声をあげる間もなかった。奴は私に狙いをさだめ、盾を思い切りぶつけてきた。衝撃で動けなくなったところを、Ruellが救ってくれた。彼がEVの気を引き、Parsiaの代わりに走り出す。その間にLeeshaが、蘇生魔法を試みていた。しばらくすれば、Parsiaは復活できるはずだ。

 それにしても、ナイトの装甲をもろともせぬ、恐るべき剣技よ! 私は気を引き締め、空蝉をかけ直して、戦列に復帰した。RuellとEVが斬り合っていた。ドミニオンスラッシュを分身でかわし、刀技のを打ち込む。私もEVの背中めがけて、思い切りランページを叩き込んだ。

 EVがインビンシブルを使った。来た! 私とRuellはさっと距離を取った。Steelbearがバインドを唱える。EVは足止めをくらい、その場から動くことが出来なくなる。時間は稼げるはずだ――インビンシブルはわずか30秒しかもたない。
 蘇ったParsiaが、床に座り込んでいるのが見える。レイズをかけられた後は、しばらく虚脱状態が続く。その間は体力も大幅に落ちている。とてもじゃないが、戦列に復帰できるような状況ではない。

 それまでに5人で体勢を立て直せるか?

 EVのバインドが解けた。奴はゆっくりとRuellに近づいていき、唐突にドミニオンスラッシュで斬りつけた。刃はまともにRuellを切り裂いた。私は背中へ回って、奴に斧を振るう。Ruellへのラッシュが始まる。白魔法ホーリー、ボーパルブレード、シールドストライク。Ruellが柱へ追い詰められた。しかし度重なる打ち合いで、EVの体力も着実に減ってきている。

 そのとき、奴がスピリッツウィズインを放った。

 

 的はRuellではなかった。私だった。肩から腹にかけて、火箸を通されたような衝撃を感じた。嘔吐感をもよおすほどの大怪我だったが、死にはしなかった。EVの体力も衰えており、私を一撃で即死させるだけの威力はなかったのだ。

 遂に追いつめた! 私はラッシュを仕掛けた。「マイティストライク!」 思い切りランページを叩き込む。Urizaneのブリザド4が炸裂する。完全にとどめを刺したかに思われた――だが、まだEVには、奥の手を使うだけの余裕があったのだ。

 女神の祝福が、即座にその身体を癒していく。途端に動きが見違えた。剣が再び、鋭い軌道を取り戻す。そして……。

「スピリッツウィズイン!」 
 
 私の身を守るものは、何もなかった。Parsiaに続いて、私も一撃で斬り殺された。



 Leeshaが息を飲んでいる。頭ではわかっているとはいえ、体力自慢の私が、一瞬でやられるとは信じられなかったのだろう。もっともRuellは、後で「絶対に死ぬと思った」と語ったけれど。EVの剣の前には、ガルカの体力ですら役にたたぬ。少なくとも彼は、身をもってそのことを知っていたはずである。

 レイズの光が身を包んで、私は復活することが出来た。しかし、腕に力が入らず、膝もがくがくと震えている。まともに戦える状態ではない。私は劇場の端に座り込んで、回復を待った。Parsiaの虚弱はまだ解けない。かろうじて蘇ったとはいえ、事実上パーティは、2人の戦力を失ったも同然なのだ。

 Leeshaの魔力がとうとう尽きた。「回復補助、いきます」とUrizaneが手を上げ、階段の上に避難するようLeeshaに言った。Steelbearが再びグラビデを使う。Ruellが囮となって走り出す。とりあえずの体力を取り戻し、私はEVの背中を斬りつけたが、盾をぶつけられてすぐさま離れた。Ruellの囮役はまだ安定していない! ここで再びやられてしまっては何にもならぬ。しばらく様子を見る必要がある。

 戦場の端に座り込んだまま、仲間のピンチを見守るという行為には、つらいものがあった。だが幸いにも、Parsiaの虚弱状態が解けて、彼女が戦列に復帰してきた。Urizaneのサンダー4が炸裂した。彼が逃げ回る一方で、再びRuellがターゲットを取りにかかる。スピリッツウィズインが放たれた。万事休す! と思いきや、Ruellは何とか耐え切った。しかしもう一撃を喰らったら、きっと敢えなくやられてしまう。

 Leeshaが階段から駆け下りてきた。ケアル5がRuellを助けた。彼はもう逃げず、腰を据えてEVと斬り合い始めた。「Parsiaさん、剣で!」と叫ぶ。二人で敵を挟み、両側からすさまじい攻撃を浴びせ始めた。「後はもう……気合い」Ruellがつぶやく。迅とドミニオンスラッシュの応酬が続く。私はそれをみすみす見守っていた。くそ、衰弱が! 衰弱が!

 たまらず私は飛び出した。下手をしたら一撃で斬り捨てられるかもしれないが、そんなことを言ってはいられなかった。スピリッツウィズインが再度Ruellを襲う。しかし威力は落ちていた。あれほど鋭かった剣の軌道は、弱々しく波を打ち、EVの体力がもうすでに、限界に近づいていることを物語っていた。

 Urizaneがサンダー4を落とした。EVが再び、彼に駆け寄っていこうとした。Steelbearがその前に立ちはだかった――「連続魔!」 赤魔道士の特殊アビリティである。1分の間、たて続けに魔法を詠唱することが出来る。彼はドレインを連続で唱え始めた。手負いのEVには厳しかった。体力がどんどんSteelbearに吸い取られていく。だが奴は、Urizaneを追い回すのをやめない。

 EVがドミニオンスラッシュを放った。Urizaneに当たったが、彼の命を奪うには至らなかった。奴が再び剣を振り上げたとき、Ruellが心臓を目がけて、思い切り片手刀を貫き通した。

 EVのすさまじい絶叫が轟いた。急所に刺さった刀傷から、ばりばりと全身にひびが走っていく。EVはゆっくりと倒れこむと、硝子のように粉々になって絶命した。

 戦いが終わったとき、我々は全員、肩で息をしていた――恐ろしい敵だった。驕慢のかけらを拾い集めていたとき、衰弱状態が戻るのを感じた。今ごろ! 私は何の役にも立てなかった。仲間たちが助けてくれなければ、いったいどうなっていたことか……。

(06.01.13)
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