その420

キルトログ、一時撤退する

 赤い光に満ちたドームの中を、我々は進んでいる。クリスタルの戦士は滅んだ。古代ジラートの一党を守るのは、もはやエルドナーシュ自身しかおらぬ。この勢いを駆って、一息に魔王子を倒し、現世種の尊厳を守るとともに、ヴァナ・ディールに永遠の安息をもたらすのだ。

 ル・アビタウ神殿の奥の奥、本丸と思われる扉に到達した。周囲のサーメットには、不気味な血の色の照明が反射し、我々の身体をも真っ赤に染め上げている。どこからか、耳障りなサイレンの音が響いている。我々の侵入が察知されたのだろうか? だとしたら、襲撃を急がなければ……。

 私は扉に手をかけた。開かない。つくりを調べてみた。特別な仕掛けは見当たらぬ。さてはまた、クリスタルが鍵になっているのか。しかしどこにも、それらしい窪みが存在しない。扉は重く、固く、押しても引いても、ぶつかってもびくともしない。

 我々は呆然と立ち尽くした。

 
 数時間待った。扉を開ける手立てはない。我々に出来ることはひとつしかなかった。撤退だ。足取りは重かった。ここまでジラートを追い詰めておきながら、あの魔王子の身体に、斧刃を叩き込んでやることが出来ぬとは!

 我々は空手で帰るわけではない……必ずや、扉を抜ける方法を見つけて来ねばならない。今はただ、計画が遂行されないことを祈るしかない。最悪のケースは考えたくなかった。クリスタルの戦士は倒した。だが我々の行為は――もしかしたら――計画を遅らせるどころか、エルドナーシュを焦らせ、世界の破滅を早めることになるかもしれないのだ。


 ジュノで仲間と別れ、私はノーグに来た。相談するべき人物は、たったひとりしか思い浮かばぬ。彼は二度に渡って私を導いてくれた。ならば三度目も、また……。

「時いたらぬ、ということなのかな」
 椅子に深く腰をかけたまま、ギルガメッシュはそう言った。気だるそうな言い方が、私にはかちんと来た。時いたらぬとはどういうことか。我々は力を結束させて、古代ジラートの強敵を5人もうち破ったのではないか。

「俺たちに出来るのは、待つことしかないよ」

 私の不満を感じ取ったのだろう。ギルガメッシュは「まあ旦那、腰をかけな……」と言った。爺さんのカムイが、重そうな椅子を引きずってくると、挨拶もせずに暗闇へ引っ込んだ。このような時に至ってなお、まだ彼は私に一腹あると見える。

「実は、もう話は聞いてるんだ」
 ギルガメッシュは指を組みながら言った。
「トゥー・リアに大きな神殿があって、奥に開かない扉があるという。どうやらその向こうに、エルドナーシュが隠れているらしい、という報告だ」
「……それで?」
 彼は肩をすくめた。私はため息をついた。それではまだ、何もわかっていないも同然だ。
「もう少し、協力的な奴らならいいんだがね。それでも連絡を寄こすだけ、まだましなのかもしれんが」
 なるほど、ギルガメッシュの情報源がわかった。姿を見ないと思ったら、直接エルドナーシュの命を狙いに行ったとみえる。

「あいつら、ずいぶんやる気まんまんだったから、扉をこじ開けたら、そのまま斬り込む気だろう。でも2人だからな。だからこそ、クリスタルの戦士には目もくれないで、直接本丸に向かったんだろうが、いくら何でもなあ。俺に言わせりゃ、みすみす死にに行くようなもんだ。
 一応手は打ったよ。扉が開いたかどうか確認させるため、ひとり空にやった。少なくともこれで、俺を通じて、旦那に情報が伝えられる。
 待つことしかないって言ったのはそういう意味さ」

「それまで、ただじっとしていろってことかな」
「そう言っちゃ言葉が悪い。来るべき時に備えて、牙を研いどけってこった」
「トゥー・リアに到着するまでには、ずいぶん時間がかかる」
 私は腕を組んだ。
「扉が開いた、という報を聞いてでは、間に合わぬ……ということもあるやもしれない」
「そりゃ、そうかもしれんな」

 私はすっくと立ち上がると、ギルガメッシュに小さく一礼して、部屋を出て行こうとした。扉の取っ手を握った私に、彼が背中から声をかけた。

「旦那……旦那たちの戦いは、孤独だろうと思うよ。こんなに大変なのに、どこのおえらいさんだって、あんたたちの苦労を知らねえ。名誉も何もあったもんじゃねえ。
 だが、俺が見てる。他の誰が旦那たちを見捨てても、このギルガメッシュがあんたたちを応援してる。そのことだけはどうか忘れないでくれ。
 野暮を承知で言わせてもらう。
 Kiltrogの旦那……どうか、ヴァナ・ディールを頼む」


 私はジュノへ戻り、再び仲間たちを呼び集めた。何かしないではいられなかったのだ。
 人生が終わるかもしれぬ、という思いが、ちらと胸をかすめた。思えばずっと、頼まれ事の半生だった――それが冒険者の生き方である。
 そして、今度もまた。

 ガルカのKiltrog、戦士。
 ヒュームのLeesha、白魔道士。
 ガルカのRuell、忍者。
 ヒュームのParsia、ナイト。
 タルタルのLandsend、モンク。
 エルヴァーンのLibross、モンク。
 ヒュームのRagnarok、戦士。
 ヒュームのSif、吟遊詩人。
 ガルカのSteelbear、赤魔道士。

 我々は、名誉なき最後の戦いに挑む。我々の死はすなわち、世界の終わりを意味する――だが、今そのことは言うまい。
 
 天晶歴877年12月18日。Kiltrog他9名、再度トゥー・リアを襲撃する。

 
(06.01.17)
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