その427

キルトログ、最終決戦に臨む(5)

 私の内側から吹き上がる、クリスタルにも負けぬ光。それは、わずか30秒しかもたぬ。だがこの光こそが、我らの魂の燃焼――戦士としての生き方の証でもあるのだ。

 そのとき、傍らのLibrossが身を固くし、高らかに吼え声を挙げた。マイティストライクを発動したのと、ほとんど寸分の狂いもないタイミングだった。

百烈拳!!

 百烈拳こそは、モンクの最終奥義である。攻撃の間隔を大幅に縮小し、矢継ぎ早に拳を繰り出す。やはり30秒しかもたぬ。Librossの本能もやはり、ここが勝負の賭けどきと判断したのである。

 私はアグレッサー、バーサクをかけ、身体中の血を燃え上がらせた。もはや守りはいらぬ。この30秒で、すべて打ち砕き、終わらせてみせる。
 1万年眠り続けた、ジラートたちの野望を。


 Librossの阿修羅拳が合図となった。彼の拳は、正確に8度エルドナーシュを捉え、勢いを衰えさせぬまま、立て続けの攻撃に入った。その合間に、私の斧が光を破り、エルドナーシュの身体をざくざくと切り刻んでいく。ジラートの王子を追い詰める、モンクのLibrossのスピード、戦士のKiltrogのパワー!

 だが、その嵐のようなラッシュをもってしても、エルドナーシュの攻撃を止めることは出来なかった。

ステラバースト!」

 衝撃波が放射状に広がってくる! Steelbearを除く、ほとんど全員が巻き込まれた。全身に強烈な痛みが走る。
 だが、まだ身体はもってくれている。
 皆が満身創痍だった。かろうじてLibrossが元気を残しているばかり。Sifも、Parsiaも、衰弱の解けないSteelbearも、瀕死の状態にあった。私の力も落ちている。斧を握る手が、ぷるぷると震えている……疲労とダメージが、ほとんど限界に達しつつあるのだ。

 だがそれは、我々だけではなかった。エルドナーシュの表情にも、余裕が伺えなくなっていた。髪はばらばらとほつれ、汗で額に張りついている。息は完全に乱れている。そんな状態でありながら、詠唱に専念できるのは、奴がクリスタルの申し子だからだろうか? 私とLibrossがどれほど殴っても、奴の集中を乱すことが出来なかった……魔法を止めるには、詠唱をやめさせるのが一番であるにもかかわらず。

 そして、決定的な攻撃が訪れた。

「ヴォーテクス!」

 エルドナーシュが舞い上がり、ゆるやかに下降してきた……。それ自体、大したダメージはなかったはずだ。だが、ステラバーストの衝撃が残っていた。ケアルは間に合わなかった。クリスタルエネルギーの粉塵が弾け散ると、SifとParsiaが呻いて倒れ、それっきり動かなくなった。

「くそ……そう来るのかっ……」 

 Librossが呟いた。彼は拳を振り上げたまま、彫像のように硬直していた。私は、今まさに、貯まっていた力を振り絞り、ランページを放たんとしていた。しかし、石にでもなったかのように、身体が動かない。ヴォーテクスの効果だ! 私の喉から、無念の呻き声が漏れた。

 エルドナーシュがこちらを向いた。バーストを唱えている。私の分身は吹き飛んでいる。詠唱を止める者はいない。体力はもうない……おそらく拳の一撃ですら、持ちこたえるのは難しいだろう。ああ今、腕が動かせたら! そうしたら、全てを終わらすことが出来るのに! エルドナーシュにランページを撃ち込み、奴の息の根を止め、ヴァナ・ディールに永遠の安息をもたらせられる。それなのにこの期に及んで、指一本すら動かすことが出来ないとは!

 エルドナーシュがバーストを唱え終わろうとしている。炯々とした奴の左目は、私をまっすぐに見据えている。硬直は解けぬ。奴の魔法に耐えられるはずはない。

 あと数秒で、何もかもが終わる。

「ここまでか……」

 私はゆっくりと目を閉じた。

 
 瞼を開けたら、エルドナーシュが倒れていた。

 何故そうなったのか、まったくわからない。Librossと私は硬直していた。SifもParsiaも、Leeshaも倒れていた。Steelbearは回復のため、距離を置いていた。アルドたちは言うに及ばぬ。3人は息も絶え絶えで、我々の戦況を見守っているしかなかった。助けをくれる者は、ただの一人もいない。

 エルドナーシュは、大の字にうつ伏せて、小さく痙攣していた。
「なぜだ?」と囁く。

「なぜだ……こんなことが……ぼくは、クリスタルに選ばれたんじゃなかったのか? 愚かな弟と一緒で、ただの自惚れ屋に過ぎなかったのか? そんな馬鹿な……」

 彼は虫のように這って、マザークリスタルを目指していた。私の手から得物が離れた。からん、からんと2本の斧が、サーメットの床に転がった。私は、そのまま地面に倒れ込んだ。疲労が激しい。もはやエルドナーシュに、とどめを差す気力もない。

「たいしたものだよ……お前たちは……」
 震える足で立ち上がりながら、エルドナーシュは言った。奴は我々に背中を向けて、マザークリスタルの真上にある、巨大なエネルギー収束装置を見上げている。

「だが、まだ終わらないよ……確かにぼくの計画は、水泡に帰したかもしれないがね……」
 奴の姿が消えた。次の瞬間、小柄な身体が、装置の上に移動していた。

 エルドナーシュには、何か企んでいる……だが一体、何をやろうというのだろう?


「ぼくには、まだ少しだけ、力が残っている!」

 エルドナーシュは、装置の上から我々を見下ろした。奴の声は宿星の座の天井に響き、不思議に力強く、我々の耳に届いた。

「お前たちにそれを使ってもいい……だが、全員ってわけにはいかないな……誰かに斬り倒されちまう。今の未熟な人間ども……虫けらにやられるっていうのは、ぼくのプライドが許さないのさ。だから、首級をくれてやるってわけにはいかないんだ。残念ながらね。
 ぼくのやろうとしていること……人によっては、往生際が悪いと言うだろうさ。だが、道連れを選ぶっていうのは、執念のたまもの、意地と誇りの結晶じゃないか。どうだ? お前たちもそう思うだろ?」

「まさか」
 私の傍らで、女の声がした。ライオンが両膝をついていた。
「まさか」

「こうすれば、お前たちを道連れに出来る!」

 エルドナーシュの手が、壁面に触れた。彼の身体からエネルギーが流れ出した。それは微弱だったが、機械を作動させるには十分だった。マザークリスタルを覆う装置、そのラインに光が走り、スイッチが入ったことがわかった。壁がぶるぶると振動を始める。

「このまま発動させると、どうなると思う? 不完全なクリスタルラインに、エネルギーが流入したら? 1万年前の再現さ! ぼくたちが食らった辛酸を、お前たちにも味合わせてやろう……さあ何もかも、消えてなくなっちまえ!

(06.02.08)
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