その428

キルトログ、最終決戦に臨む(6)

 古代人の末裔。クリスタルの申し子、ジラートの魔王子エルドナーシュ。

 もはや破滅は避けられぬ、と悟った彼は、強引に神の扉計画を発動させた。スイッチは入れられた。床に埋まったクリスタルから、大量のエネルギーが吸い出されている。それは壁を伝わり、エルドナーシュの小さな身体を、導線の一部に使いながら、天井の装置に流入している。

 天井には、一抱えほどの大きなクリスタルが6つ、台座を取り囲むように、円状に並べられているのだった。それらが、ぶんと音を響かせて、輝きを放ちだした。蜂の巣の壁が赤く、ちかちかとまたたき始めた。ばちばち、という音がして、放電が始まった。6つのクリスタルの、間と間を結ぶように、エネルギーのラインが繋がり、全体でひとつの大きな輪になって、一斉照射を待っているのだった。

 このエネルギーが、圧縮されたかたちで、サーメットのクリスタルラインを駆け抜けていったら? 障害にぶつかり、そこでショートを起こしたら?

「いけない」とザイドが唸った。
「ホラ・メア・デムの三岩……いずれで爆発が起こっても、膨大な犠牲者が出る……ジュノとて、デルクフに近い。クフィムごと消し飛ぶぞ! 奴め、自分の国まで滅ぼすつもりか!」

 マザークリスタルが、神々しいほど強い光で輝いている。この光が、ヴァナ・ディールを包み込み、浄化し……すべてを無に帰すのだ。


「終わりか」
 アルドが言った。
「Kiltrogたちが、ここまで頑張ったのに」

「Kiltrog! Kiltrog!」 
 ライオンが私の身体を揺すった。立つために力を入れようとしたが、とても無理だった。あとほんの少し、体力があったなら…… Leeshaが生きていてくれて、私を癒してくれたなら……。そうすれば、私は起き上がり、装置に身を預けている魔王子を、簡単に倒してしまえるはずだ……しかし……。

「ライオン……ケアルが使えるか」
 うつ伏したままで、私は尋ねた。
 彼女はふるふると首を振った。私はフッと笑った。ならば、策は尽きたのだ――エルドナーシュを止めることは、私には出来ない。

 ライオンが、低い声で私に耳打ちした。
「ノイズ……?」

「何だって?」

「Kiltrog……あいつ、何て言ってたの? ノイズが張り付いてたって? あの装置にずっと……」


 光はいよいよ限界に達しようとしている。エルドナーシュの身体が痙攣している。宿星の座は今や、昼間のように明るくなった。この光にさらされていたら、身体ごと焼き尽くされてしまいそうだ。

「ライオン?」

「エルドナーシュは言ってた……思ったよりも、ずっとデリケートな機械なんだって」

「何を考えている」

 ライオンが、震えながら立ち上がった。彼女がじっと私を見つめた。その視線に、何かを覚悟した者の決意を感じ取った。私は悟った。何もかも理解した。この期におよんで、ライオンが何を考えているのか。何をしようとしているのか。

「いろいろ考えても……どうしても、こうする以外思いつかなかった」
「……やめるんだ、ライオン」
「ごめんね、Kiltrog」
 彼女は微笑んだ。
「あの約束、私、守れないかもしれない」

「ライオン!」 

 彼女が駆け出した。「何をする気だ!」アルドが息を飲む。突然の出来事で、誰も止められなかった。ライオンはマザークリスタルに突進し――何のためらいもなく――光の中へ飛び込んだ。そのとき、ばちっというかすかな音を聴いた。気のせいかと思うくらいの――小さな――虫が弾けたような音。

 直後、エルドナーシュが、光に包まれたまま絶叫した。
「何だこのノイズは!」 

 収縮したエネルギーに、明らかな異常が生まれていた。ばちばち、ばちばちという音が、ひときわ耳障りになった。その不安定さに耐え切れなかったか、エルドナーシュが、装置から手を離した……奴が悲鳴をあげた。

「アア……クリスタルのエネルギーが消えていく! そんな! そんな馬鹿なことが……」

 マザークリスタルは、ぱっ、と一度、燃え上がるように光を弾かせ、ゆっくりと……もとの、月光のような明るさまで収束していった。

 人類の破滅は防がれた。


 ぼろぼろになったエルドナーシュが残された。奴は装置の上に、両手両膝をついていた。もはやその姿には、ジラートの王子であるという矜持も、夢を追い続けた者の執念もない。敗北感に打ちひしがれた奴は、惨めで、いつも以上にちっぽけに見えた。

「くそ……もう一度……もう一度やってやる。何としてでも、メルト・ブローを再び……」 

(06.02.08)
Copyright (C) 2002-2006 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット