その430

キルトログ、ノーグにギルガメッシュを訪ねる

 半年以上の長きに渡った、ジラートたちとの戦い。エルドナーシュの死によって、古代人の野望は完全に潰えた。だが物語には、ちょっとした後日談がある……それを記しておこうと思う。

 トゥー・リアより戻り、ジュノへ向かう間、我々は話をした。エルドナーシュにとどめを差したのは、一体何であったのかと。あのときLibrossも、夢想阿修羅拳の準備が出来ていながら、敵のヴォーテクスに阻まれていたのだ。いくら考えてもわからなかった。おそらく、Steelbearが奴にかけた弱体魔法が、徐々に体力を削り、飽和点に達したのだろう――そういう結論になった。私は、そこに何かの意志を感じる。あるいはそれが、私かLibrossの緊縛を解き、無意識にウェポンスキルを撃たせた……または、みんなの祈りが届き、エルドナーシュに最後の一撃を与えた……そんなふうに考えてみるのもいい。

「マイティストライクと、百烈拳との同時発動には、心震えました」
 Librossが興奮ぎみに言った。
「何だろう……初めて全幅の信頼を寄せ、背中を預けられたというと、かっこいいだろうか」

「おふたりの、アタッカーとしての底力を見せていただきました」
 Parsiaが頭を下げた。彼女は、ほとんど貢献できなかったと言って、必要以上に恥じ入っている。
 私はにっこり微笑んだ。

「私は、もともとモンクでした。途中から、戦士に鞍替えしたわけですが……もしLibrossさんのように、モンクを続けていたとしても、やはりあそこで百烈拳を使ったでしょう。あなたと背中を合わせてね……いつか、コンシュタット高地で戦ったときのように」
 今度は、Librossの方が微笑む番だった。

「私の人生において、最高にしびれた戦いでした」
 私は素直な気持ちを言った。
「これほど興奮し、ぎりぎりの状況を勝ち抜いた経験はありません。おそらく、ジラートの魔王子との戦いは、私にとって生涯忘れられない経験になるでしょう。
 でも、もうごめんだ……。もっと楽な戦いがいい。誰も死なず、誰も傷つかないような戦いが。戦士失格なのかもしれない、私は。75レベルにもなって、まだこんなことを言っている」

「何ものにも終わりはない。かたちを変えるだけ……」
 Steelbearが言った。
「ガルカなら、その意味はおわかりですよね」
 私は頷いた。
「ライオンの勇気が、我々の中に息づいている……さあ、戻りましょうか。こんなところに、長く留まることはない」
「戻る? 戻るというのは、どういうことです?」
 Steelbearが、片目をつむってみせた。
「我々は進むのです、常にね。つらい報告となるでしょうが、訃報を告げるべき相手がいます。さあ皆さん、ノーグへと進みましょう」


 ギルガメッシュは疲れた顔で、椅子に腰をかけていた。私が扉を開けていくと、外見からは想像も出来ぬほど、力強く歩み寄ってきて、私の右手を取り、熱く固く握り締めた。
「旦那……ありがとう。よく……無事で帰った。よくやってくれた。本当にありがとう」
「ギルガメッシュ」
 私は、言葉に詰まった。彼に訃報を伝えなくてはならぬ。だが、どのように切り出せばよいのだろう。彼の愛娘が、もう二度と帰っては来ないということを。

「さっきまで、アルドがここに来ていた」
 はっとして、私はギルガメッシュを見た。
「話はすべて聞いた。ライオンが何をやったのかも……。親より先に逝っちまうなんてなあ、親不孝もんが……あいつは……。
 旦那、時間はあるのかい。疲れてるのはわかってるが……よかったらちょっとだけ、話を聞いていっちゃあくれないか?」

 私は椅子を借りた。「ありがとう」ともう一度、ギルガメッシュが言った。蝋燭の光のもとで見る顔は、より一層しわが深く、疲れているように見えた。頑健だった海賊のあるじに、一息に老いが襲いかかってきたようだった。

「ライオンは、俺の本当の子じゃないんだよ」
 ギルガメッシュは、寂しそうに言った。
「まだちっちゃなガキのころ、どっからかこの島に流れついてな。当時は大戦の真最中だ。孤児なんか、そこら中にごろごろしてた……ライオンの親は、結局わからねえまんま。まぁ、そんなこたぁどうだっていいんだ、このノーグじゃな。もしかしたら、大陸出身ですらないかもしれない。だが、南方や東方の奴らは、俺の部下にもいっぱいいる。生まれがどこだから、生みの親が誰だからって、あいつの価値が下がるわけじゃねえ。
 先代のおやじから子育てを任されたとき、俺は戸惑ったよ。息子も娘も、それまで持ったことはなかった。苦労したさ。だが、実りある経験だった。ライオンは俺に多くのものをくれた。口うるさくて、いつだってつっかかってきたもんだが……あいつがいてくれなければ、今の俺は決してなかった。
 ライオンには本当に感謝している。それを伝えられなかったのが、今となってはただ一つの心残りだ」

「勇敢な最後だった」 
 私は言った。すると、ギルガメッシュは少し苛立ったように、「わかっているとも!」と怒鳴り、拳をどん、と机に打ちつけた。

 彼は「すまない」と小さく侘びを述べた。

「俺の自慢の娘なんだ……あいつが犬死にするわけがない。ライオンは、旦那たちに協力して、ヴァナ・ディールを救ったんだ。な? そうだったんだろう、旦那?」

「その通りだ。ライオンがいてくれなければ、何もかも終わっていた」
 
 ギルガメッシュはもう一度、私の手を強く握った。
「旦那」と小声で、だが、強い口調で語った。

「決して忘れないでくれ、ライオンのこと。あいつは、旦那のことばっかり話していた。いつかKiltrogたちと、世界の果てを見るんだって。俺も行かせてやりたかった。可愛い娘の願いだったんだ。だがそれはもう、永久に果たされることがねえ。

 だから、思い出しちゃくれないか。もし旦那が本当に、世界の果てに辿り着いたとき……ライオンっていう、おてんばの、口の悪い女がいたってこと。海賊ギルガメッシュの、自慢の娘が、最後の最後に身を投げ出して、勇敢に世界を救ったってことを。

 そしたら、あいつは生きることが出来る……旦那たちの心の中と、俺たちのノーグで。これからもずっと……消えることなく……永遠に……」


(06.02.08)
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