その434

キルトログ、書庫掃除に呼ばれる

 ある晴れた日の午後、私は魔法図書館にやって来た。目の院院長トスカ・ポリカに会うためである。

「よお、大変だね!」
 タルタルの図書館員が、彼の背丈以上もある分厚い本を持って、私の傍らを通り過ぎた。
「書庫掃除するんだって? とんでもない分量だよお! まあそのぶん、ぼくらが助かるからいいけどね!」

 今回のミッションは、選りにもよって本の整理なのである。ランク7の冒険者に頼むことか! トスカ・ポリカは何と思っているのだろう。彼に会うのは『白き書』を手渡したとき以来だが、当時もあまりよい印象を受けなかった記憶がある(その88参照)。


 本棚の前で、眉根を寄せながら、目の院院長が唸っていた。「ムムムム!」と腕を組んでいて、私を見ても難しい顔をやめようとしない。
「ムムムム! 君は確か、以前私のミッションを受けた冒険者ではないか……違うかね?」

 違わない。当時はエース・カーディアンに囲まれて、危うく泥棒ミスラの家で死にかけたのだ。

「君ちょっとこっちへ来たまえ」
 院長は棚陰に私を呼び寄せた。

「実は、今回のミッションは偽りなのだ……。アジド・マルジドの一件以来、守護戦士によるミッションの検閲が強まってしまってな」
「では書庫掃除は?」
「そんなもの、部下にやらせておくのだよ!」と、トスカ・ポリカ。
 結局あの図書館員がこき使われるのだろう。かわいそうに。


 院長の話はこうであった。
 彼は先日、神子さまに呼ばれて天の塔へ出頭した。『神々の書』を手渡され、これが二度と日の目を見ぬよう、封印図書として処置するよう命じられたというのだ。
 トスカ・ポリカは本を持ち帰った。隅々まで調べてみた。やはり白紙だ。当時はアジド・マルジドの計略だと考え、神子さまに訴えすらしたのだが、自分が真実を直視していないことには気づいていた。トスカ・ポリカは気難しい人物だが、さすがに院長なだけあって、職務に誇りを持っているし、真実から目をそらすほど馬鹿でもないのである。

「目の院は、文字通りウィンダスの目……」
 黒石みたいな瞳を指差しながら、トスカ・ポリカは言った。
「この事態を見過ごしては、私は連邦に顔向けできぬ! 『神々の書』は白紙だったのだ! 神々の書、その威力を失い、白き書となるとき、闇の滅びが訪れん……。

 冒険者よ、ここから先は、他言無用で願いたい。決して、誰にも漏らしてはならぬことだ。よいな?

 私がまだ書士のころ、当時の院長、カラハ・バルハさまから、『神々の書』についてお話をうかがったことがある。いったい『神々の書』とは何であるのかと。
 それは、初代の神子さま、リミララさまが、代々の神子さまのために残された、「真実の歴史書」なのだ。
 その内容は、真実であるがゆえに危険な意味を持つ……この意味がわかるな?」

 私はこくりと頷いた。

「よろしい。だからこそ『神々の書』は、強い魔法によって封印されておるわけだ。この本を開くためには、多大なる魔力だけでは足らぬ。神子さまのお胸にあるという、まがつみの星が必要なのだよ。それだけ厳重に保護されておるわけだ。

 いかに目の院院長といえど、『神々の書』に手を出すことは許されない。いったいカルハ・バルハさまは、どのようにして神子さまのお許しを戴いたものか。

 カラハ・バルハさまは、書の封印を解くために、ホルトト遺跡の魔法塔の魔力を使った。そして知った。『神々の書』から、何らかの真実を――真実であるがゆえに危険なものを。

 私はそれが知りたい。『神々の書』に書いてあった真実とは何だったのか?  そこにこそ『白き書』の答えはあるはずなのだ。なぜ書物は文字を失ったのか。この現象が、なぜ闇の滅びを意味するのか……」

 概要はわかった。しかし、私は具体的に何を期待されているのか。

「すべてを知っているのはカラハ・バルハさまだけなのだよ」
 トスカ・ポリカは心持ち胸を張った。
「カラハ・バルハさまの研究内容を知る必要がある……院に行けば、何かヒントが得られると思う」

「彼はここの院長じゃありませんか」

「いやいや、そうではない……確かに目の院所属であられたが、『神々の書』の研究に際し、新しい部署へ移られたのだ。トライマライ水路の奥で、カラハ・バルハさまは研究を続けなすったという……ウィンダス第六の院にて……」

「何ですか、その部署とは?」

心の院


(06.03.15)
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