その438

キルトログ、鼻の院院長を探す(2)

 カザムに初めて降り立ったとき、ミーゴ邸を訪ねたことがある。当時の家人は寡黙で、全然しゃべってはくれなかった。ミーゴ姓ということで、当時はナナー・ミーゴとの関連性ばかりに目が行っていたが、考えてみれば、地図にわざわざ名前が記載されているということは、かなりの名家と考えてよいのだ。それにしても、もとカザムの族長であったとは。

 ジャコ・ワーコンダロが語った通り、ロマー・ミーゴは石みたいな口の固さだった。20分もいて引き出せたのは、会釈と簡単なあいさつだけという始末。諦めて帰らないでよかった。彼女の口から、遂に貴重な情報が得られたからである。

「イル・クイルは、忌み寺に追放された……」


ロマー・ミーゴ
 
 誰によって、あるいは、何の組織によって追放されたか、ロマー・ミーゴは語らない。そこを追及する愚は避けた。

「そのことをルクススに話しましたか?」

 彼女がこくりと頷いた。これで決まった。私は挨拶もそこそこにミーゴ邸を出た。ルクススがウガレピにいると厄介だ。院長という実力者ではあるが、何しろトンベリたちの巣窟である。リーペ・ホッペたちに、彼女の無事は保障できそうにない。


 前衛職として、戦士のRagnarok、暗黒騎士のRodinをスカウトした。後衛には白魔道士Leesha、黒魔道士Apricot、召喚士Landsend。油断は禁物だが、ウガレピを探索するには十分なメンバーだろう。

 問題がひとつある。私とApricotが、地図を持っていないことだ。迷宮内の宝箱から手に入れられるらしいが、宝箱はかなり奥地でないと見つからない。鍵は手もとにあるので、ついでがあれば地図を入手できるだろう……ともあれ今は、道に迷わないよう、しっかり先導者についていかねばならない。
「地図は頑張って取りました!」と胸を張るLeesha。彼女は、こういう活動に関してはまめだ。あるいは、私が単にずぼらなだけとも言えるのだが。


 トンベリの司祭に恨みを祓ってもらってから、我々は奥へ向かった。まっすぐ伸びた狭い通路に、機械で出来た巨人が踏ん張り、行く手を塞いでいる。我々は透明になってこれを避け、突き当りまで進んだ。扉がある。透明なままでは開けることが出来ないし(注1)、向こうに敵がいると戦闘は避けられぬ。いざというとき邪魔にならぬよう、機械人形を片付けた方がよさそうだ。

 そう思って私は、石扉を背にして立った。遁甲の術を解いて姿を現したとき、扉の向こうから、小さく押し殺したような嘲笑が聞こえた。

「しまった」
 
 不意にスリプガをくらった。私を含め、一挙に5人が眠りに落ちてしまった。扉を挟んでいてさえ、我々を感知するとは! Landsendだけが魔法を免れ、生身で機械人形と戦っている。扉の向こうから、何者かの――おそらくトンベリだろう――古代魔法バーストの詠唱が聞こえる。いきなりの絶体絶命である。

 Landsendが冷静にカーバンクルを呼び出し、人形の相手をけものに任せて、Ragnarokにケアルガをかけた。みんな無事に目を覚ますことが出来た。我々はさっさと人形を打ち倒し、満を持して振り返って、扉から出てきたボンズ・マーベリと対決した。



 ボンズ・マーベリは、呪われたカギを持っていた。大型のつくりからして、宝箱ではなく、どこかの部屋の扉を開けるもののようだ。我々はトンベリの死体を残したまま、再び扉を開けて、奴が飛び出てきた部屋に足を踏み入れた。

 ボンズ・マーベリを片付けたからには、部屋は安全だろうと思っていたが、そうではなかった。扉の向こうは小広間になっていて、少なくとも数匹のトンベリと、くるくると回る巨大な壷――マジックポットが見えた。Leeshaが「つぼつぼ」と言った。「倒しますか」とRagnarokが、両手剣をずらりと抜いてみせる。尋ね返すまでもない。彼はやる気だ。

「めんどくせえ、片付けちまえ!」と声を挙げて、私は流れに便乗した。全員で得物を抜いて殴り込んだ。広間を片付けるのに時間はかからなかった。あらためて周囲を見回してみたら、石作りの机がうち並ぶ、ずいぶん殺風景な部屋だった。何本かの四角い石柱が天井を支えている。

「食堂なんでしょうなぁ」

 Rodinがひげをひねりながら言った。なるほど食堂のように見える。理由はわからないが、トンベリは無類の包丁好きだから、その可能性はある。しかし細やかな備品も、内装もすべて朽ち果てており、確かな判別は出来そうにもない。


 出口が見当たらなかったので、四方の壁を調べた。北壁の中央に隠し扉があった。触れるだけでずずずず、と開き、四角く開いた窓から、一段とかび臭い空気が流れてきた。
 
 どうやら奥には、まっすぐ通路が伸びているようなのだ。あんまり不気味なので、私は踏み込むのを躊躇した。そのときLandsendが、「かー君、きみに決めた!」
と叫び、召喚獣を呼び出した。水晶のようにきらきら輝く、りすのような生き物が現れ、Landendのとなりにちょこんと座った。カーバンクルである。

 Landendが命じると、カーバンクルは、ふさふさした尻尾を揺らしながら、隠し通路に勇敢に飛び込んでいった。我々は獣の後を追った。

 通路の先は、うすい霧にけぶっていた。ランタンの光が数点、ゆらゆらとさまよっているのが見えた。我々はめいめい姿を消して、トンベリどもの脇を通り過ぎた。通路はほどなく終わり、両開きの石扉に突き当たった。カーバンクルがくんくんと鼻をひくつかせて、扉をかぎ回っている。聖獣は伝えているのだ。この奥に大事な何かが眠っているということを。


 呪われたカギは、腰にぶら下げてあった。それを鍵穴に当ててみた。鍵はぴったりと合った。間違いない、この部屋を開けるための鍵なのだ。

 私はデルクフの塔を思い出していた。獣人勢力の何者かが、ジュノ駐在大使ヘイムジ・ケイムジを捕え、最奥の部屋に監禁していた(その231参照)。そのときの状況と同じだ。ルクススも虜囚になっているのかもしれない。ヘイムジ・ケイムジは、軽く殴られただけですんだ。だがルクススに、同じ手ごころが加えられるとは限らない……。

 思わず身震いして、後ろを振り返った。仲間はまだ来ない。しかし、待ってはいられない。ぼやぼやしていて、取り返しのつかないことになってはいけない。連邦の院長の一命に関わることだ。彼女を助けられるのは、私しかいないのである。

 私はカギを回した。身構える扉はあっさり横滑りした。敵の襲撃に備えて身構える。ルクススは無事なのだろうか? はたして、奥で私を待っているのは、いったい何なのだろうか?


注1
 透明になっている状態では、カーソルを対象物に合わせたアクションのすべてが無効になります(扉をあける、NPCに話しかけるetc)


(06.04.06)
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