その442

キルトログ、ホノイ・ゴモイと交渉する(1)

 ほとんど2年ぶりの邂逅である。私はウィンダス港の倉庫へ行き、スターオニオンズの集会所へ久しぶりに顔を出した。

 スターオニオンズは、私がウィンダスに入国したとき、最初に会った人たちに属する。年月は人を変える。私がいち放浪者から、世界を救うクリスタルの戦士に上りつめたように、彼らも少し大人になっているかもしれぬ。そう思っていたのだが、違っていた。彼らは相変わらず倉庫裏に集まり、きゃいきゃいと秘密の会合を繰り返している。「あっお前!」と私を指差す団長の言葉も、まだ声変わりのしない、4年前とまったく同じ甲高さなのである。私は彼らの成長の遅さに呆れる一方で、不思議にも、何だかほっとする気持ちを覚えもしたのだった。

「お前いいところに来たよ。いま団が大変なんだよ……」
 コーラロ・コロ団長の声が、か細く消え入りそうになり、続きを聞き取るのに少し苦労した。
「実はさ、水の区に住んでる金持ちのオジーチャンが……まどうきゅうを返せって言ってきたんだ……もともとオジーチャンのもんだって言うんだよ……」

 私は記憶を探った。彼の言う魔導球とは、泥棒ミスラのナナー・ミーゴが落っことしたやつであろう。スターオニオンズのメンバー、宿屋のむすめピチチちゃんがそれを拾い、きれいだからと宝物にしていたのである。だが、確かあの魔導球は……。

「そう。ジョーカーに吸い込まれてしまったのです」
 団長の隣にいた少年、ハポ・ホッポがくちびるを尖らせた。
「返せって言われましても無理なんです。でも返さなかったら、手の院にばらして、こっぴどくおしおきしてやるって言われてるんです」

「なあジョーカー……お前からも何か言ってやれよ」

 団長の言葉を聞いて、私はようやくカカシの存在に気がついた。コーラロ・コロが積み上げた木箱の舞台のうしろに、カーディアンが一体のっそりと立っている。もっとも、団長に声をかけられてもびくともしないし、星の言葉で答えるわけでもない。生きてるんだか抜け殻なんだかわかりゃしないな、と私は思った。ジョーカーなどたいそうな名前であるが、見た感じ他のカーディアンと特に何が違うとも思えない。普通のカカシである。

「オバケさんを連れて来るのも、苦労したのよ」
 そうピチチちゃんが言う。魔導球が吸い込まれた一件以来、彼女はジョーカーをそう呼んでいるのである(その248参照)。
 コーラロ・コロが、木箱の上でどたどたと地団駄を踏んだ。
「このままじゃあ、スターオニオンズがドロボーになっちまうよー! お前、けっこう有名な冒険者だし、何かいいアイデアはないのかよー!」


 いいアイデアなどあるわけがない。魔法が使えるわけじゃあるまいし、出来るのはいたって普通のことしかない。
 私は水の区のはずれにやって来た。
 ほとんど失念していたのだが、私は以前ここを訪れたことがある。入国したばかりですかんぴんのころ、帽子屋のビラを配って水の区じゅうをねり歩いた。そのとき、2階建てのえらく豪華な邸宅に入り、いけすかない爺さんに帽子を宣伝したことがある(その9参照)。もちろん相手はタルタルなので、見かけは子供と一緒なのだが、痰をからげて咳をする様子や、「ゲッ!」と不機嫌そうに吐き捨てる感じが、いかにも爺さんだった印象があるのだった。

 そんなわけで、私は問題のホノイ・ゴモイと再会した。もっともあちらさんが、4年前に訪れただけの、帽子屋のサンドイッチマンを覚えているとは思えないが。

ホノイ・ゴモイ

 ただでさえウィンダスは温暖なのにも関わらず、ホノイ・ゴモイは暖房の効いた部屋にいて、寒がりぶりを発揮していた。私がスターオニオンズの話を持ち出すと、「ゲーッ!」といやな声を挙げた。子供も子供なら、年寄りも年寄りである。4年前からそろって何も変わっちゃいない。

「けしからん。港の子供たちには、決してこのことを話すなって釘を刺したのに。お前もお前じゃ。いい大人が、子供の使いでやって来て恥ずかしくはないのか?」
 そんなことを言われたら返す言葉がない。私は黙って肩をすくめた。
「とにかく魔導球は返してもらうぞ」
 ホノイ・ゴモイは、がほんと一つ大きな咳をした。
「この数年、泥棒ミスラに報酬を与えて、ようやく探させたものなんじゃ。それが、なくしたなんてふざけたことをぬかす。あいつの言葉が本当で、拾ったのが港の子供たちと判明するまで、どれだけ苦労したと思う? それもこれも、何としても魔導球を取り戻すためなんじゃ。わしゃ絶対に諦めんぞ」

 ナナー・ミーゴが、よく依頼を引き受けましたね、と私。

スタースピネルをくれてやったさ。知っとるか? 結晶の中に星が見えるという、美しい尖晶石じゃよ。アルテパ砂漠のサボテンの中から、稀に発見されるものでの。それを見せると、あの泥棒猫め、尻尾を振ってごろにゃーんと喉を鳴らしおったよ。
 そうだ、お前は冒険者だな。ちょうどいい。あの子供たちから、魔導球を取り返して来るのだ。報酬はたんまりはずむぞ。どうせお前たちだって、泥棒ミスラと大して変わりゃしないんだからな……どうだ? 悪い話じゃあるまい?」

(06.04.24)
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