その443 キルトログ、ホノイ・ゴモイと交渉する(2) ひりひり日焼けした肌の痛みに顔をしかめつつ、私はホノイ・ゴモイ邸の階段を上った。老人は前と同じ部屋にいた。「どうじゃ、手に入ったか」と問われたので、私は頷き、問題の品物を差し出した。老人が無言で目を丸くした。 「なかなか苦労したのです」 彼の前に正座して、私は説明した。 「サボテンダーは、針千本といって、全身の針を飛ばしてくる技を持っていまして」 「ばかものが!」ホノイ・ゴモイは怒鳴り、私が渡したスタースピネルを壁に打ちつけた。 「わしが持ってこいと言ったのは魔導球じゃ! 何だこれは? こんなもんで魔導球を忘れろって言うのか? ええ?」 私は黙ったまま、ホノイ・ゴモイをじっと見つめた。だが彼もさるもの、決して自分から目を逸らそうとはしない。 「お前は何か、勘違いをしておるな」 吐き出すように言った。「ちょっとこっちへ来い」 ホノイ・ゴモイは、私を隣室へ誘った。老人が暖を取っていた部屋と同じ作りであるが、隅に大きな宝箱が据えられ、机には珍しい小物が並び、壁には色彩豊かな絵がかかっている。悪趣味なことに絵の下には、本物か偽物かはわからないが、金の延べ棒がうず高く積まれているのであった。
「ほら、これを見ろ!」 ホノイ・ゴモイは、机の引き出しを勢いよく引いた。私が持ってきたのと同じ晶石が、じゃらじゃらっと音を立てるほどいっぱい詰まっていた。 「わしがナナー・ミーゴに渡したのが、ひとつだけだったと思ってはいまいな? 馬鹿もの、最低でも毎週ひとつじゃ! 言うならば魔導球は、これだけのスタースピネルをくれてやっても惜しくないほど、価値の高いものなんじゃ! 単なるカネの問題ではない。カーッ!!」 頑張って石を取ってきたのだが、どうやら無駄だったようだ。協力してくれた妻や友達に申し訳ない。スターオニオンズに合わす顔もない。どうあってもこの老人は、実物の魔導球でなければ納得せぬらしい。だがそれはもうジョーカーの心臓なのである。一体どうやって問題をおさめればいいのだろうか? 「いいぞ、返さんなら返さんで。手の院に教えてやるだけだからな……カーディアンに関する罪は重罪だ。いくら子供たちだからって、きつい説教を受けるだけではすまんぞ!!」 老人が本気でないのは、何となくわかっていた。手の院に密告してしまったら、魔導球を取り戻すことは難しいからだ。とはいえ、ホノイ・ゴモイの怒りと執念は本物である。彼は力の使い方を知っている。あの手この手でスターオニオンズに圧力をかけてくるだろう。子供だからと安穏としているわけにはいかない。果たしてコーラロ・コロたちが、それを無事に避けることが出来るかどうか。 ひとまず私は、ホノイ・ゴモイ邸での顛末を話しに行った。 「そっかあ……ダメだったかあ」 団長はがっくりと肩を落とした。 「こうなったら、みんなで考えるしかないなあ……」 「さあ集合!」と彼は、手を叩いて団員たちを呼び集めた。 「セーシュクに!」 コーラロ・コロは唐突に会議の開催を宣言した。賭けてもいいが、団長は間違いなく“静粛”という言葉の意味は知らないと思う。 「ただ今から、スターオニオンズの、第何回か忘れちゃったけど、キンキュウ会議をハツドウする!」 わーっ、と子ミスラたちの拍手。 「まどうきゅうを、あのオジーチャンに返すにはどうしたいいか考えようー! それで、なんか、いい考えがある人ー!」 驚いたことに、すぐ手が数本あがった。副長のハポ・ホッポが、いかにも議長然とした感じで、それじゃ君、つぎ君、というように意見を聞いていった。こんな感じである。 「ダルメルに食べられちゃったことにすればいいぜ!」 コーラロ・コロが私を見た。私はかぶりを振った。 「海に落っことしたことにするニャ!」 これも駄目。 「にせものを作って渡したらどう?」 却下。 「そんなの、いけないよ!」 叫んだのは私ではなかった。一同は目を丸くして、珍しく眉をいからせているピチチちゃんを見つめた。彼女は興奮が抑えきれない様子だったが、自制心を発揮して、自分の意見をゆっくりと話した。彼女の歳を考えると驚くべきことである。 「スターオニオンズ団は、うそをついたり、だましたりするひとを、許しちゃいけないんだよ。そういうイチミなんだよ」 「うっ」 コーラロ・コロが心臓を押さえた。団長は顔を伏せて、しばらく唸り――そして、これが彼の偉いところなのだが――再び顔を上げたときには、迷いを吹っ切って、太陽のように晴れ晴れとした表情をしていた。 「そうだ、ピチチちゃんの言うとおりだ! スターオニオンズ団は、正義のイチミなんだ! そのボクらが、ずるい大人の真似なんかしちゃいけない……行こうみんな。水の区のオジーチャンの家へ行って、本当のことを話してあやまるんだ!」 (06.04.24)
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