その446

キルトログ、スターオニオンズ会議に参加する

 以上のようないきさつで、私はジョーカーを見逃した。水の区に伝えに行ったのだが、爺さんの怒りようといったらなかった。さんざん私を罵倒し――具体的に何と言われたのかは書きたくない――他にも冒険者がいるのだから、何もお前に頼む必要はない、と捨て台詞を吐いた。それは幸いだ。こっちも罪悪感を抱かなくてすむ。

 だが安心は出来ない。ホノイ・ゴモイは魔導球を決して諦めまい。腕っこきの冒険者は多いときている。爺さんが報酬を惜しまないとするなら、ジョーカーは今から無数の刺客に狙われることになるのだ。

 その話題は、スターオニオンズの会議の中でも出た。「冒険者に壊されちゃうかもしれないぜ!」とコーラロ・コロが声をあらげたとき、私はどきりとした。ホノイ・ゴモイの依頼の件が漏れたのかと思ったが、ほっとしたことに、団長は当然の話の帰結としてそう話したに過ぎなかった。

「ジョーカーをまもる、いい意見があるひと!」
 団長が挙手を求めたが、反応は薄かった。ミスラっこのひとりが、「ニャー!」と叫んで、全身をばりばりと引っかき始めた。みんな神経質になっているものと見える。
「なぁなぁ、ジョーカーを遠くに隠すってどうかな? サンドリアとかバストゥークじゃない、冒険者も行けないような遠くへ」
 タルタルの少年のひとりがそう述べた。コーラロ・コロが「いいアイデアだ!」と手を叩いたが、私にはとてもそうは思えなかった。団長はさっそく、「いい場所はあるか?」と意見を求めてきたのだが、私に答えられるわけはなかった。理由は明白だ。私の行けるところが、「冒険者が行けないような遠く」になるはずがない。

「その計画は難しいですよ」
 副長のパポ・ホッポが腕を組んだ。さすが彼は頭がいい。問題の本質をよくわかっている。
「まずはジョーカーを、誰にも見つからないように国外へ出さねばなりません」
 そっちの問題か!
「手の院の院長がさらわれてから、カーディアンの出入りのチェックは厳しくなっているんですよ」

 一同はうーんと唸りだした。どうも話がずれてしまったようだ。国外へ脱出させたとして、どこへ向かわせるのか。だがよく考えると、悪くないアイデアのように思えてきた。子供たちはそこまで頭が回ってないようだが、今のジョーカーは、高い知性を有している。何もかも世話してやる必要はない。彼ほどの実力があるならば、厳しい外の世界に放り出されても十分生きていけるだろう。

透明人間シール……」

 ピチチちゃんのつぶやきを、団長は聞き逃さなかった。
「何だって?」

「お母さんが作った、探偵道具のひとつなの。それをぺたって貼ると、姿が透明になっちゃうの。外に出たがってたカカシさんに、一回あげたことがあるの。そのときはうまくいったから、今度も使えるんじゃないかな」

「それだ、ピチチちゃん! おい、お前!」
 団長は壇上から――洒落ではない――私の肩を叩いた。相変わらず、私への扱いは手荒なのだ。
「それを作ってもらうんだ! さっそくピチチちゃんちへ行って、ママにお願いしてこい!」

 葬式みたいだったさっきまでとは打って変わって、会議は大変な騒ぎになった。難しい展開に光が差してきたからである。子供たちはすっかり、問題が解決したような気になって、浮かれ騒いでいた。私はやれやれと思いながらその場を離れた。結局は、いつだって私が貧乏くじを引くのだ。

 倉庫の角を曲がるとき、小さなタルタルっ娘と目が合った。彼女は団員の誰だかの妹で、まだ幼すぎるせいで、見習い扱いなのである。会議が開かれているときには、いつも建物の陰で大人が来ないか見張っているのだ。
 彼女は憎たらしく私にあっかんべえをした。
「ちゃんと見張ってるよお! べーー!」
 やれやれ。


 ピチチちゃんのお母さんというのは、『ララブのしっぽ』亭のおかみさんで、客商売の人らしく、いつもにこにこと笑顔を絶やさない。だからといって優しいと思い込むのは間違いだ。仕事に妥協は一切しないので、漬物石を探してくるよう頼まれたときには、こちらが半泣きになるくらい駄目出しをくらったものである(その26参照)。

「またうちの娘が、つまらないことを言ったねえ」
 おかみさんは眉を寄せて顔を傾けた。そんなふうにするとピチチちゃんそっくりである。タルタルは見かけ歳を取らないから姉妹と言っても通じるかも知れぬ――おかみさんは顔が丸いので、少しばかり体重を落とす必要はあるだろうが。
「透明人間シールは、材料の確保が大変なんだよ。遠浅の苔っていうのがあってね、一番手に入れるのが難しいうえに、絶対欠かせないんだよ。それさえ用意できたら何とかなるけどねえ」
 遠浅の苔、遠浅の苔。何度もつぶやいて忘れないようにした。まずはそれが、どこで採れるのか確かめねばならない。

 私は礼を言って、宿屋を出ようとした。おかみさんの少しきつい声が、私の背中に飛んできた。
「それにしても、何にシールを使うのかね? 子供の遊び以上のことに使うんだったら、あんた、このチャママさんが許しゃしませんからね!」


(06.04.25)
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