その449

キルトログ、ジ・タで謎の人影を見る

 私は石の区を歩いている。思いがけず出来てしまった相棒は、「キタ ニ イクベシ!」とやかましい。みつけるくんを背嚢の中に押し込むと、しばらくじたばたしているようだったが、やがて観念したのかおとなしくなった。コル・モル博士の家を訪れるころには、魔法人形のことなんかもうすっかり忘れていた。

 博士の家の戸をノックした。返事がないので勝手に入った。薄暗い邸内に、ぽつんとひとつ灯るあかり。燭台のろうそくはどろどろに溶けて、卓上に染みを作っているほどだったが、コル・モル博士は机にうつぶして、時おりぴくぴくと動くばかり。爺さんくたばったのかな、と思って近づいてみたら、ちゃんと息はしていた。こんな姿勢で寝ると身体にわるい。私は彼をゆさゆさと揺すった。博士はううんと言いながら起きたが、目覚めたそばからぷりぷりと腹を立てていた。

「なぜ起こす! わしは今、黒くよどんだ泉の傍らで、悪い魔法使いを追い詰めたところだったのに……」

 両目を真っ赤にしつつそんなことを言う。こりゃモレノ・トエノが見切りをつけるのも当然かもしれん、と思った。
「ところで、外にミスラがいなかったかね」
 博士は扉を細くひらき、表を見回し、ねずみのような素早さで外へ駆け出し、一瞬で戻ってきた。恐るべき俊敏さだ。人間借金取りに追われるとここまで進化するらしい。
「モ、モジジちゃんの手紙が来ている……おおお……」
 どうやら郵便受けを見てきたようだ。手紙に接吻を繰り返す博士の姿を見ていて、私は心底悲しくなった。選択肢はふたつあった。奇っ怪な人形とおとなしく旅するか? 悶絶する爺さんをこのまま観察するか? 私は前者を選んだ。腹が決まったら長居は無用だ。とっとと博士邸を後にし、ひとまず港の飛空挺乗り場へと急ぐ。ジュノ大公国からなら、ダボイへ楽にアクセスできるはずである。


 みつけるくんはまったくやかましかった。しょっちゅうキリキリした声で叫びだしては、そのたび私を困らせた。感度を少し落とそうとしたが、調節の仕方がわからないから仕方がない。私は諦めていたが、ジュノへ着いてからは、下手にいじらなくてよかったと思った。というのも、みつけるくんはしきりにこう叫んでいたからである。

「ケヒヒヒヒ! ユビワ ノ チカラ ヲ カンジル カンジル! ホクトウ ニ ヒョウテキ アリ!」

 言うまでもなく、ダボイはジュノから見て西、あるいはやや南西にある。いずれにしても北東ということはあり得ない。海を跨いでジュノの北東に広がっているのは、ただリ・テロア地方があるばかり。さては院長移動したか! みつけるくんを持って来なければ、ダボイまで無駄足を踏むところだった。

 私はLeeshaとApricotと一緒に、聖地ジ・タを目指す。セーダル・ゴジャルが任を解かれたのはめでたい話だ。じきにダボイも陥落し、獣人勢力の塗り替えが行われるかもしれない。


 静謐な巡礼の地においても、みつけるくんは元気だった。ジ・タの森を駆けているときも、「キタ ニ ヒョウテキ アリ!」と叫んでいる。私の間違いでなければ、ここから北にはロ・メーヴしかない。北方ということも考えられるが、鼻の院院長ルクススの件をかんがみるに、その可能性は薄い。

 ロ・メーヴに入った。みつけるくんの反応が強くなる。やはり院長はここだ。それにしても彼は何をしに来たのだろう。
 Leeshaが堂々とプロテアとシェルを唱える。確かロ・メーヴでは、敵に探知されるので、入り口で魔法を使うのすら危険ではなかったか。だが幸いにも、何も寄ってくることはなかった。
「ちぇー」Leeshaが面白くなさそうに、
「絡まれ上等のつもりで魔法を使ったのに」
 そう言って唇をとがらせている。わがながら恐ろしい妻を持ったものである。

 サイレントオイルに頼る以上、ロ・メーヴを隈なく探索することは難しいが、私は不安には思わなかった。院長がいるとしたらまず神々の間だろう。よほど頓狂な冒険者でもない限り、通路の途中に佇んでいるということは考えられない。最悪神々の間に誰もいなくても、そのとき初めて迷路の中を探せばいいのだ。こっちには、みつけるくんがあるのだから、逃げる院長を追うことが出来るはずだ。


 円形の広場までやって来た。幅広の階段が上に伸びており、そちらを辿れば神々の間へ行き着く。広場の中央には噴水らしきものがあったが、当然のことながら、水はとうに枯れてしまっている。Apricotが縁に立って中を覗いた。彼女のぼんぼり越しに下を確認すると、すりばち状の噴水の底に、蜂の巣のような穴がぼつぼつと空いている。排水溝なのだろうか。


 そのとき、唐突に音楽が鳴り響いた……。

 私は周囲を見回した。片手だけで鍵盤を軽く叩いているような、単調なメロディなのだが、不思議に耳に馴染むものがあった。音楽の出所を探っていると、みつけるくんが、激しく身をよじって私の腕を逃れた。

「ヒヒヒヒ! トウトウミツケタ! ミツケタ!」

 そう言って、不恰好な腕で対岸を指し示してみせる。そこには小柄で、ずんぐりした人影があった。

「セーダル・ゴジャル?」

 私は腕を振りかけて、止めた。人影を見つめるうち、どす黒いかたまりのような吐き気が、唐突に胸に込み上げて来た。違う! 院長じゃない!

 唐突に魔法人形が、絞め殺されるような叫び声を挙げた。悲鳴が古代の遺跡に響き渡る……。

「チガウ……チガウ! アレハ カタマリ ダ!!!」


(06.06.23)
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