その451

キルトログ、修道院に突撃する(1)


 私は床に転がっている。すべての力尽きて、身体はぴくりとも動かせないが、幸いに意識ははっきりしていた。

 オークの番兵の偏平足が、たん、たんと木造の床を踏み叩いている。その音がゆっくり近づいて来ては、また遠くなっていく。

(今だ)

 Sifの声が脳に響く。彼も私の傍らに倒れている。彼の合図とともに、呪文の詠唱がかすかに聞こえる。Sifの身体がぱっ、と姿を消す。彼は外へ運び出された。成功だ。Librossと私は、まだ醜態をさらしたままである。Sifがいなくなったので、今度は私が、修道院の中の様子を仲間に伝えねばならない……。


 1時間前に起こったことを思い出す。いったいなぜ、私やLibross、Sifらが、無様に獣人にやられ、修道院の床に転がるはめになったのか?

 セーダル・ゴジャルの話を聞いた私たちは、彼の悩みを取り去る必要があると考えた。そこで、ナイトのSifと、モンクのLibross、召喚士のLandsendに来てもらって、高台の上に立つ、不気味な建物を検分することにしたのだ。

 修道院へ上がるには、木製のリフトを――オークの手によるものと思われる――使う必要があった。リフトが上階に着くと、修道院が十数歩先に見えた。瓦ぶきの屋根には無残に大穴が空き、木炭のような黒い横木が覗いている。もとは白かったに違いない壁も、すっかり灰色に汚れてしまっている。現在の住人が、家屋を修繕する気がないのは明らかだ。獣人どもの野蛮さをはっきり見せつけられて、私は胸がむかむかする思いがした。



 オークの番兵が巡回していたので、こっそりブーメランをぶつけて誘導し、リフトの前で仕留めた。私は思った。この調子で、中にいる呪術師とやらも片付けられるに違いない。

 修道院の入り口は両開きの扉だった。作戦を考えるべきだったが、ただ呪術師をぶちのめすことしか頭になかった。「行こう、新手が来てしまうぜ」とSifが言ったので、我々は簡単な約束事だけを決め、めいめい得物を取って中へと突撃した。

 待っていたのは、花火のような衝撃。Leeshaは「ファイガかしら」と言っていたが、Landsendの訂正で、エアロガだと判明した。「とどめはストンガだった」とも。唐突に強烈な魔法が我々を襲って、パニックに陥っている間に、オーキシュ・ウォーチーフオーキシュ・チャンピオンが、間髪入れずに斬りかかってきた。呪術師と合わせて、中には4匹のオークがいた。普段なら何でもない相手なのだ。しかし、立て直しに躍起になっている我々には、厳しい敵だった。Landsendがまず倒れ、続いてLeesha、Apricotがやられた。彼女たちは戸口に倒れている。我々前衛が中にいるのは、このままでは埒があかないと考えて、ボスの首を取ろうと中へ飛び込んだからだ。結局は、無残な結果に終わったわけだが……。


 いまLeeshaがやろうとしているのは、メンバー全員の運び出しである。私が突撃するとき、続けざまに扉を2つ抜けたことを覚えている。つまり玄関の扉、オークどもが闊歩している大部屋の扉、その間に横長の(廊下ほどの幅しかないが)長方形の部屋が存在するのだ。彼女はそこで息絶え、リレイズで復活をした。こちらから身体が見えないのは幸いである。しかし、オークに気取られないようにするには、十分注意を払わねばならない。奴らは壁一枚を越えて生体感知する。一方外は外で、新手の番兵が巡回しているのだ。まさに絶体絶命といえよう。

 Librossがトラクタで外へ引っ張り出される……。トラクタは死体を牽引する魔法である。せいぜい十歩から二十歩程度の間隔だが、仲間の倒れた身体を、術者のいる方角へ瞬間移動させる。死に場所の近くにモンスターがいると、蘇生魔法が無駄になってしまう可能性が高い。ならば、安全な位置まで動かしてしまおうというのがトラクタだ。まさに今回のためにあるような魔法だが、“安全な位置”というには状況が厳しすぎた。オークどもの目を盗みながら、Leeshaたちは根気よく、実にうまくやったものだと思う。

 仲間が何人か、蘇生後の虚弱状態からも回復してしまえば、立て直しは容易になる。私は最後に息を吹き返した。回復魔法を使えない戦士などのジョブは、往々にして復活が後回しにされる。Leeshaは「ケヒヒヒ! ガルカノ塊ヲ発見シタゾ!」と笑ってから、レイズを唱えていた。嫌な芸を覚えたものである。

 修道院前の木陰で、我々は相談した。「ガ系が痛かったな!」とはSifの弁だ。ガ系とは範囲魔法のことで、魔法の名前の末尾にガが入っていることから、このように呼ばれる(ファイガ、ストンガ、スリプガ、ケアルガなど)。呪術師の黒魔法がなければ、戦闘はあっさり終わっていたに違いない。問題はそれをどう封じるかだ。

「あのボスはあたしがやろう……生き残る自信はないが」
 Sifが勇敢な提案をする。Librossがそれに同調した。
「それじゃ、自分とKiltrogが雑魚をやろう」

 オーキシュ・ウォーチーフは私たちが、オーキシュ・チャンピオンは、Landsendの召喚獣が相手をすることに決まった。乱戦になると混乱するので、雑魚は外へ引っ張り出す。奴らを無事片付けたあとは、修道院の中に斬り込み、全員で呪術師を切り刻む。それまでにはどうあっても、Sifに踏ん張っていてもらわねばならない。

 我々がそのような話をまとめていたころ、修道院の角をまがって、こちらに近づいてくる人影があった。「おや」とSifが目を凝らす。彼がオークでないのは、ほっそりとしたシルエットから明らかである。赤い鎧に浅黒い肌、白髪のエルヴァーンだ。切れ味の鋭そうな、大きな両手斧を背負っている。彼は物珍しそうに、くたびれた建物を眺めやり、こちらに向かってにこやかに手を振って来た。

「あれはあたくしの友人だ」とSifが言う。

 この友人氏は、レベルを上げるのでもなければ、得物の鍛錬に来たのでもないらしい。単純に物見遊山の旅である。「修道院を見たことがなかったので」というだけの理由だ。実にのんびりしている。逆を言えば、のんびりしてても大丈夫なほど、実力は十分というわけだ。

 そういうわけで、Sifに交渉してもらって、パーティに加わってもらうことになった。我々はすでに6人だったので、Sifと彼とのコンビと、残る我々5人という構成である。

「行くぞ」

 我々は静かに鬨の声を挙げ、得物を抜いた。冒険者の、人類の威信にかけて、今度こそ負けるわけにはいかぬのである。


(06.06.23)
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