その456

キルトログ、腹芸を使う

 ウィンダスの院長5人を訪ねて、指輪を預かる旅。連邦を出ているのは2人である。鼻の院のルクススには会った。私はもうひとり、ダボイへ耳の院院長を探しに行かねばならない。

「うわっまた」
 セーダル・ゴジャルは私を見ると、あからさまに嫌そうな顔をした。そりゃそうだ。私は前回、彼がウィンダスに帰参できない事情を聞き帰った。ということは、私の再出現は、「力ずくでも連れて帰る」という連邦の意志を意味するのだ――少なくともセーダル・ゴジャルにとっては。

「何を言われてもここを動かないからね!!」
 そうじゃないのです、と説明しようとしたのだが、院長は両耳を抑えて「あーあー聞こえなーい!」と叫ぶばかりである。これは骨が折れそうだ。トスカ・ポリカとルクスス相手にも苦労したが、彼にはまた違う工夫を考えねばならない。

「あれ、魔法人形を持ってないね?」
 セーダル・ゴジャルは私の腰のあたりをじろじろ見つめた。私はハアと言って頭をかいた。
「院長がこちらだということは知ってましたので」
「ん? 前回は違うの? あの人形はどうやってぼくを見つけ出したのさ」
「院長の指輪の、星月の力を探知したのです」

 セーダル・ゴジャルは「えっこれを」と目を丸くして、右手中指にはまった指輪をしげしげと眺め、汚いものにでも触るかのように、左手の指でそおっと抜き取り、私の方へ無造作に投げて寄こした。

 頭をかいていたので危うく取り落とすところだった。私はとっさに両手を椀にして受け止めた。ナイスキャッチ!

「じゃあそれ、コル・モル博士に返しといてよ。ぼくが今持ってても意味ないしね。それと正直、用が済んだら帰るって言ってるんだから、モレノ・トエノにはぼくのことを信用して欲しいんだよね! 探知機なんか使わないでさあ!」


 思いがけぬ展開で、指輪はあっさり手に入った。私はそそくさとその場を去り、ウィンダスへ向かった。残るは口の院の指輪のみ。だがある意味では、これが一番の厄介どころなのだ。何しろ院長自身が獄中ときている。いくら何でも、牢の中まで持ち込んでいるはずがない。だとすると没収されて、誰か別の人物が所持していると考えるべきだ。

「セミ・ラフィーナ隊長が持っているはずなのよ」
 眉根を寄せて、アプルルは渋面をつくった。
「誰かに取りなしてもらうしかないわ……私じゃ無理。そんなにあの人と親しくないし」
「そういうことを頼めそうな人物は?」
「ひとりだけいるわ……危険だけど……」
 誰です、と私が尋ねると、アプルルはもじもじと延々しぶったあげく、ようやく小さな声で答えた。
「クピピさん」


 クピピ! 天の塔書記官! それこそお笑いぐさだ! 彼女に話そうものなら、たちまち神子さまにばれて、みんな捕まってしまう!

 天の塔へ向かうみちみち、いろいろ言い訳を考えた。口の院に頼まれた、というのが、最も無難そうだ。どうせ関与はばれてしまうのだから、思い切ってアプルル院長の名前を出してもいい。闇牢を破る、と正直に答える手もある……ただしこれは賭けだ。ゾキマ・ロキマもこの陰謀に加担しているのだから、協力してくれる可能性はゼロではないが、それでもゼロに近いとみなすべきだ。現実的に考えてこの線はあり得ない。

「口の院の人を寄こしなさいなの」
 クピピ嬢は冷たい口調で、ごくごく当たり前の答を言い放った。
「正式な認可も出てないのに、院長の指輪なんて大事なもの、冒険者には預けられないのなの。そのように院の人に伝えるなの」
 もっともである。ぐうの音も出ない。それでも、簡単に引き下がるわけにはいかない。一方で、あまり無意味にねばり、怪しまれても意味がないのである。正直、どうしていいものやら見当がつかない。

 私がうーうー唸りながら帰り渋っていると、クピピ嬢はとりすました様子を崩さず、こう続けた。
「何か深い事情を感じるなの……違うなの?」

 私は何も言わなかった。

「クピピは何もしてあげられないのなの。文句があるんだったら、セミ・ラフィーナさまに直接申し上げるなの」
「……」
「言っとくけど、セミ・ラフィーナさまはお留守なので、お訪ねになっても無駄なの」
「……」
「悪いカーディアンが、ホルトト遺跡に集結しているって噂を聞いているなの?」
「……」
「セミ・ラフィーナさまは、北西の魔法塔へ、奴らを退治に行かれたの。でもお帰りが遅いなの。杞憂だと思うけど、クピピちょっと心配になっていたところなのね……これは独り言なの、えへん、えへん」

 私はクピピ嬢に深々と一礼をして、天の塔を飛び出した。セミ・ラフィーナからどうやって指輪を得るか、そのアイデアは浮かばないが、彼女が天の塔を出ている今なら、千載一遇のチャンスが得られるかもしれない。


(06.07.12)
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