その472

キルトログ、古代の曲を探す(1)

 夕方、私はモグハウスで休んだ。身体の疲労は耐えがたいものになっていた。鎧を脱ぐことさえ苦痛で、モーグリに手伝って貰わねばならなかった。そのままベッドに倒れこんで、泥のように眠った。妻にも友達にも、こんな無様な姿を見せるわけにはいかぬ。だが、この先どれだけ秘密にしておけるだろう。

 どうやら寝言を言っていたらしい。いくつかの名前をつぶやいたようだ。そのうちの一つが「ウェライ」だったと、モーグリがそう証言した。ウェライ、懐かしい名前だ。夢の内容は覚えてない。それが楽しかったか、あるいは苦しかったのかすらも。だが私は焦らなかった。ひとつのことだけは確かである。時が至れば、すべてが明らかになるだろう。

 だが、今は駄目だ。女神よ……もう少しだけ私に時間を……。


 LeeshaとApricotと、森の区の噴水で待ち合わせて、ロ・メーヴに出発した。タロンギ大峡谷でチョコボを借り、聖地ジ・タに向かって駆けていく。鞍上でバランスを取るのさえ困難だったが、何とかふたりについていった。

 思い出すのは、三博士が去ってからのやり取りである。

 再び3人に戻ってしまってから、私は「大丈夫だろうか」とつぶやいた。「コル・モル博士は、やる時はやる男さ」と、アジド・マルジドが請け負ったが、私が気になっているのは、むしろそちらよりも、国民への機密漏洩の危険だった。手の院に三博士が集結するなど、どう考えても尋常ではない。勘のするどい人間でなくとも、何かある、と思って当然だろう。

「シャントット博士が絡んでるからな。みんな見て見ぬふりをするさ」
 ありがたい話だ。
「公的には、対ヤグードの兵器開発とでも言っとけばいい。まんざら嘘でもないだろうし」
 それは、どういう意味だろう。

「今になってヤグードが圧力をかけてきたのは、偶然だと思うか?」

 アジド・マルジドとセミ・ラフィーナの顔を、交互に見比べた。どうやら彼らの間では、意見交換は既に済んでいるようである。

「なるほど」私は頷いた。
「ということは、院長は奴らが結託しているのだと?」

「そうでなければ、ズヴァールの結界が破られた経緯が説明できないのさ。あの部屋を開くことが出来るのは、元老院議員か、カーディアンだけだ。言うまでもなく、俺を含め、ウィンダスの人間ではあり得ない。だとすれば、答えは明らかだろう」

「神子さまは、黒い使者が犯人かもしれぬ、と仰っていた(その266参照)。だが、正体がカラハ・バルハなら、その線はあり得ない」
 セミ・ラフィーナは言う。そういえば、彼女が護符の説明をしてくれたのだったか。

「ヤグードには、護符を破りたい十分な動機がある。カーディアンはその手段を握っている。神子さまのご不在は厳重機密で、ごくごく限られた人間しか知らぬ。なのにだ、よりによってこんなタイミングで、ヤグードが強硬な姿勢を見せ始める。不自然だよ。カーディアンが情報を漏らしたのだ。それ以外に考えられない」

「ということは、神子さまは、ヤグードの手に……?」
 私が懸念を口にした瞬間、アジド・マルジドが「いやいやいや」と打ち消した。
「それはない。そうでなければ、黒い使者を連れて来いと、ジョーカーが条件を出すわけもない。神子さまは9割9分、まだジョーカーに囚われていらっしゃるのだ。奴にとっては大切な人質なのだから。
 おそらく、エースカーディアンとヤグードの間には、昔から繋がりがあったんじゃないか。両者にとって、連邦は共通の敵だからな。その繋がりで、ヤグード側に情報が漏れたのだ、そう考えればしっくり来る」

「ジョーカーの意向ではないということですか」
「護符が盗まれたのは、奴が王になる前だからな」
 なるほどそうだ。そういう意味では、我々はまだ運がよい。ジョーカー、あるいはフェンリルの考えは、得体の知れぬところがあるが、神子さまの身の安全に関してだけは信頼がおける。

「だが、カーディアンの命は有限だ。魔導球に込められたエネルギーしか生きられない。ジョーカーとはいえ、おそらく例外ではない」と、アジド・マルジド。

「ジョーカーが万一死んでしまえば、事態はどうなるかわからない。再び王を失ったエースたちの、統制がきくかどうか。ヤグードはやすやすと神子さまを手に入れてしまうだろう。だから、お前には急いでもらわねばならないのだ。もう時間はあまり残されていないのだから。

 そしてセミ・ラフィーナには、ペリィ・ヴァシャイ族長のところへ行ってもらう。万一戦いになったら、我々はわだかまりを捨て、一致団結せねばならん。連邦にはミスラの力がぜひとも必要なのだ」

「いいだろう。族長と話してみよう」とセミ・ラフィーナ。
「まあ、族長が協力を渋るとは思えないが……ただあの人は、礼と名誉にうるさいから、神子さまとの直々の会談を希望されるかもしれぬ」
「必要があれば、俺が頭を下げてもいい」
「それでも納得されないときは?」
「ありのままを喋るさ。神子さまが囚われたと」
 アジド・マルジドはきっぱりと言った。

「我々がミスラの総大将を信頼できないなら、どのみち負け戦さ。こいつは賭けだ。ミスラとタルタルの絆が、国家のありようが試されている。俺自身は、じゅうぶん賭ける価値があると思うんだがな。楽観的に過ぎるだろうか?」


 ロ・メーヴに到着した。あいにくと空は灰色、雲は厚く、しとしとと小雨が降り続いていた。遠くから雷の音も聞こえる。天候に恵まれなかった不運を呪うと、私たちはスニークを使い、黒い使者を見かけた泉へ走り出した。

 やがて雨は強くなり、横殴りの風さえ吹き始めた。機械人形に気取られないよう、会話もせず、足音も消していたのだが、このちょっとした嵐の中では、あまり意味がないように思われた。濡れたサーメットがつるつると滑って、走るのに苦労したが、何度も訪れて慣れているせいか、泉には迷わずに到着することが出来た。

 いかり肩の機械人形が、ずしん、ずしんと足音大きく通り過ぎていった。私たちは敵をやり過ごしてから、泉を覗き込んだ。空からは雨が降り続いているが、水が溜まっている様子はない。蜂の巣のような排水溝から、おそらく流れ出してしまうのだろう。

 古代の封印を探してみた。碑文の類を想像していたのだが、どこにもそれらしきものはない。神々の間まで行かねばならないか、と考えた。だがあそこは、トゥー・リアへ上るときに調査済みのはずだ。一から探すとなると、面倒なことになる……そう思ったときである。ごうごうと雨風がうなりを上げているにも関わらず、私の耳に、和音の響きが聞こえた。弦を、ぽつ、ぽつ、ぽつと弾いているような音。シンプルであったが、美しい音色だった。それはだんだんと大きくなり、嵐の轟きさえかき消して、私の耳を占領した。

「ーーーーーー……」

 唐突に、ローブを着た人影が見えた。泉のまわりに、たくさん。彼らは皆、神々の間に続く階段をのぼっていた。雨に濡れている様子はなく、不思議にも、淡い緑色の光に包まれていた。

 曲が終わるとともに、彼らの姿がふっと消えた。
 
 私は背嚢をさぐり、魔法人形を取り出した(注1)古代の曲〜ロ・メーヴ〜はうまく録れただろうか。隣でLeeshaが、フードにしたたる雫を振り払いながら、目をぱちぱちさせていた。「あれは……ジラート?」と驚いている。Apricotも口をあんぐり開けていた。ということは、少なくとも、今のは私の見間違いではなかったらしい。

 私はマントをひるがえしながら言った。
「さあ、時間がありません。宣託の間に行きましょう、テレポルテをお願いします」


注1
 古代の曲(ロ・メーヴ、アルテパ、ウガレピ)は、アイテムであり、現地で曲を聴くイベントを終えると入手できるものです(「だいじなもの」扱い)。録音のくだりは本編にはなく、従って魔法人形もゲームには登場しません。


(06.12.27)
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