その473

キルトログ、古代の曲を探す(2)

 ゼプウェル島を久しぶりに訪れる。ましてや流砂洞には、いつ以来だろう。ここは古のガルカの都であり、足を踏み入れるたびに切ない思いがする。砂の記憶は私に何も語りかけてこないが、近ごろ身体を襲う虚脱感から、奥にある壁画のことを強く意識するようになった。

 宣託の間に足を踏み入れた。何百年も砂に守られた闇と静寂には、独自の冷たさがある。巨大な墳墓が私たちを出迎える。この前面には8つの窪みがあり、8つの祈りを捧げることで、暁の巫女と話すことが出来た(その387参照)。そして私たちは天へ上ったのだ。エルドナーシュ兄弟の野望を砕くために。

 ジラートの幻影か。もうずいぶんと昔のような気がする。そんなふうにひとりごちたときである。不意に眩暈に襲われ、片膝をつきそうになった。とうとう足にまで来たのだろうか?

 だが、違ったようだ。周囲の景色が変わっていた。私の回りに、多くの、広場を埋め尽くすような群集がいた。体勢を立て直すことも忘れ、私は呆然と彼らを見つめた。彼らは皆、フードつきのローブを着ている。私のことを石のように無視していた。ロ・メーヴで見た人影に似ている気がした。

 彼らはひとりひとりが、緑色のもやに包まれていた。じっと動かず、石碑を見つめていた。唐突に、笛の音に似た旋律が流れ出した。広間にこだましているようでもあり、私の脳で直接、誰かが吹き鳴らしているようでもあった。

 気づいたら人影は消えていた。傍らにLeeshaとApricotがいて、呆然と顔を見合わせている。「あの曲は!」とLeeshaが、何か心当たりがあるかのように手を叩いた。彼女たちにも、あれが見えているし、聞こえている。それが何を意味するのかはわからないが、自分たちが確かな道程を辿っているのだ、というささやかな確信にはなった。


 そのころ――私は知らなかったが――天の塔では、神子さま救出のための、冒険者の選定が始まっていた。


 資格。

 ウィンダス国籍を有する者。あるいは、過去に国籍を有した者。

 連邦への忠心に偽りない者。軍功はなはだしく、ランク9、ランク10に認定される者。あるいは、かつてランク10に認定された者。

 もちろん、任務を確実に遂行できる(と期待できる)実力を有する者。幸いにこれは、ランク9以上の冒険者であれば、原則的に資格を満たしている。とりたてて考慮する必要はない。

 冒険者の数は6人(1パーティ)とする。パーティは彼らの行動単位であり、彼らが最も効率よく戦うことが出来ると、過去の統計によっても証明されている。お互い友人であることが望ましいが、緊急事態ゆえ、必ずしも限定はしない。

 天の塔事務室は、候補者をリストアップせよ。これは最優先事項とする。候補者が決まり次第、手の院にて元老院会議を開く。元老院首席シャントットは任務中ゆえ、自分、口の院院長アジド・マルジドが議長を代行する。聖都に不在である議員、鼻の院院長ルクススは、リンクシェルにて参加されたし。
 
――口の院院長アジド・マルジド(捺印)


 ウガレピのカギを使って、苔のこびりついた石扉を開けた。円形の小さなホールになっている。トンベリが数匹、ランタンを下げてうろついているが、私たちの方に注意を向けようともしない。私は壁沿いに西へ移動した。スロープがあって、一段高くなっている。そこを上るとホールが一望できた。中央に円形の石卓が見える。「会議場だったのかしら」とLeeshaが小声で囁く。偶然にもトンベリたちが席についているように見えて、私は苦笑した。今では奴らに、そのような知性が残っているわけもない。

 トンベリの身体が、不意に膨らんだような気がした。あっと驚いた時には、奴らはすでに、緑色の皮膚をした獣人ではなくなっていた。ヒュームの――というより、クリューの人影が、石卓を取り囲んでいた。それぞれがもやに包まれている。心地よい弦の響きが聞こえてきた。短いフレーズだったが、一度聞けば忘れられないほど印象的な曲だった。


 曲が通り過ぎると、私たちは我に返った。眼下にはトンベリが突っ立っていた。もはや奴らが、何者にも変化しないことを確かめてから、私たちは寺院を退出した。ジュノに戻るのは難しくない、デジョン2があるから。連邦へは飛空挺で戻らなければならないが、事態が手遅れにならないことを祈るばかりだ。


 手の院の円卓に、つかれ切った顔の博士たちが並んだ。コル・モルは常にうつらうつらしていて、寝言を言うたびヨラン・オランに小突かれている。「お肌がかさかさですわよ」と、シャントットの声も小さい。アプルルは言うに及ばず。清楚な美貌は青白く、やつれていたが、瞳の芯は潤っていた。やるだけのことはやった、という満足感が彼女にはあった。ただし不安も抱いており、実験を本格的に試す機会がないのは残念です、と、小声でこっそりシャントットに耳打ちしたりした。

 トスカ・ポリカも目は真っ赤だったが、事情は他の院長と異なっていた。彼は腹を立てていた。博士や院長が国の大事に動いているときに、自分はつまはじきにされた、という無念があった。それもこれもアジド・マルジドのせいなのであるが、天の塔を過敏に意識し、わが身かわいさのために動けなかったことを自己嫌悪もしていた。せめて救出班の選定に貢献し、神子さまに報いようと思っていた。いま元気で脳がしっかりしているのは、自分しかいないのだから。
 

「戦士、ガルカのKiltrog」
 名前を呼びながら、アジド・マルジドは書類をめくった。
「彼については言うまでもない。闇の王を討伐した勇者である。神子さま拉致の責任の一端を担うが、彼のこと、必ず雪辱を果たしてくれるだろう」

「白魔道士、ヒュームのLeesha。Kiltrogの妻で、彼をよく助け、幾多の戦いに同行した。闇の王を倒した勇者の一人でもある。サンドリア出身だが、彼女の忠誠心を疑う理由はどこにもない」

「召喚士、タルタルのLandsend。モンクとしても優秀。闇の王との戦いでは、ズヴァール城までKiltrogを護衛した。彼の最も古い友人のひとり」

「黒魔道士、タルタルのApricot。近ごろめきめきと力をつけ、Kiltrogの任務に同行。先だってダボイ修道院で奮戦し、前述の3人とともに同地を奪還した」

「赤魔道士、ヒュームのWirryrain(ウィリーレイン)。Leeshaが姉と呼び慕う人物。吟遊詩人、白魔道士、狩人、シーフ、召喚士としての顔も。有数のプロフェッショナル」

「最後に、ナイト、エルヴァーンのKoft(コフト)。Kiltrogとの面識はないが、Apricotの友人であり、実力はトップレベル。連携に特に問題はないだろう。

 以上の6人は、いずれも本連邦所属、最高の冒険者である。伝説のクリスタルの戦士にも劣らぬ。彼らなら、必ず無事神子さまを救出してくれるだろう。

 候補者の決定には全議員の承認を必要とする。各自意見を述べられたい」


「承認」とアプルルが手をあげた。しばらく沈黙が続いた。シャントットが「承認」と右手をひらひらさせた。「断る理由がありませんもの」
 それは博士の共通認識だったとみえて、ヨラン・オランが「承認」と続けたあと、コル・モルが――明らかに寝ぼけながら――挙手だけをした。アジド・マルジドはそれを承認とみなした。最後にトスカ・ポリカが「承認!」と重々しくつけ加えた。最も時間がかかったのは、彼なりの慎重さの表れでもあったし、何とか存在感を取り戻したいというささやかな抵抗ゆえのことでもあった。


 ルクススは、北の寒さに震えながら、「承認」とつけ足した。
「今日ほど私は、聖都にいないのを後悔したことはないわ……でも彼らなら、大丈夫、やってくれると思う」


「ではこれにて、全議員の承認が得られた」
 アジド・マルジドは会議を締めくくった。
「6人が現地に揃い次第、神子さま救出作戦を敢行する。私も同行する。手の院院長アプルルは、星月エネルギー照射装置を、満月の泉まで運ぶこと。失敗は決して許されない……今回の戦いには、ウィンダス連邦の命運が、全タルタル族の未来がかかっているのだ……」


(06.12.27)
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