その474

キルトログ、最後の戦いに旅立つ

 失敗を許されぬ戦いは心臓に悪い。心が押しつぶされそうだ。だがその奥に、めらめらと燃える炎、魂を奮い立たせる何かがあるのを否定できない。奇妙なことだが、私は楽しんでいた。もしかすれば、転生の時を待つことなく、死への旅路になるかもしれないというのに。

 今さらのように私は悟った。これが「冒険」なのだと。

 そういう思いをしているのは、6人に限らなかった。私は幾多の友人がおり、その中にはバストゥークや、サンドリア国籍の冒険者も多い。例えばRagnarokは共和国有数の戦士、ナイトであるし、Librossは王国に知られた拳士でありつつ、黒魔法もよくこなす。

 彼らは森の区の噴水に来て、我々6人に応援の言葉をかけた。気のおけぬ友人相手とはいえ、国の一大事であるから、詳細を話すことは出来ぬ。だが連邦最大の危機であることは彼らも察しており、同行できないのが残念だ、とだけ言うに留まった。彼らもきっと、自国の危機のため、死を賭して戦ったことがあるに違いない。そうした実績は、任務の性格ゆえに喧伝されず、ひそやかに名前だけが伝説となっていく。私もそういう決戦に臨もうとしている――おそらくは最後となるだろう戦いに。

 しかし、冒険者一行に、過度の緊張は感じられないのだった。死地に赴く集団には見えまい。これもまた、いつもの光景である。

 Wirryrainはヒュームの女性である。かがやく金色の長髪を結い上げ、ロック鳥の羽根の立った帽子の中にかくしている。赤魔道士の名のごとく、真紅と蒼黒の軽鎧に身を包んでいる。ワーロックタバードは、Steelbearが着ると重厚さを感じさせたものだが、細身で色の白い彼女には、品の良さが出ていた。彼女には麗人という言葉が似合う、と私は思った。

 このようなミッションで一緒に戦ったことはないが、Wirryrainとは以前からの知人だった。Leeshaと結婚したのち、私はいろんな人に紹介を受けた。そのうちのひとりが彼女だった。髪の色を含め、顔だちがとてもそっくりなので、私でも見分けがつかない。Leeshaは彼女をお姉ちゃんと呼ぶ。本当の姉なのかどうかは聞いたことがないが――私のカンとしては――おそらく違うだろう。

 KoftはApricotの友だちである。エルヴァーンの男性で、胸までとどく黒髪をしており、肌も浅黒かった。細身の身体にアダマン装備の鎧がよく似合った。寡黙で、必要以外のことはあまり話さず、表情も崩さなかった。そのためとても落ち着いて見えた。友だちと騒ぎの中心にいるよりは、傍からそれを見守ってひとりで楽しむようなタイプだろう。Apricotは「こっさん」と呼んでよくなついていたが、彼自身は照れがあるとみえて、「そういう呼ばれ方が定着するんでしょうねえ」と言って、小さくため息をついたりしていた。

「いつぞや剣をお譲りしたとき、守るべきもの強さとか言っちゃいましたけれども」 
 Librossが私の耳に囁いた。
「いつの間にか、一国の……そして、現世種の重みまで背負ってしまったんですねえ」
 
「世界を二度、救いました」と私。
「今回のは、もっと狭いが……しかし、大義のために戦えるのは幸せなことです」
「まこと」彼は頷いた。
「何も出来ませんが、心ばかりの餞別です」

 Librossがくれたのは、
プロエーテルバイルエリクサーバイルエリクサー+1の、3つの薬瓶だった。プロエーテルは魔力を、エリクサーは体力と魔力を、瞬時に幾分か回復させる妙薬で、魔道士にはありがたい品だ。かたじけない、と私はそれを受け取った。誰かが、早く帰れるかな、と言ったので、「不手際がなければ早いでしょう」と答えた。もちろん、万が一にも不手際があってはならぬ。そのような事情は、集まった6人のほか、RagnarokとLibrossもよくわかっているはずである。

「いざチョコボへ!」と厩舎に走り、騎上の人となった。皆でホルトト遺跡の中央塔へ向かった。アジド・マルジドが魔法実験の人手を求めている……そのニュースを聞いたのは、ついこの間だったような気さえする。ホルトト遺跡こそは、私の冒険者人生の始まりの場所だった。おそらく終わりの場所にもなるだろう。どのような結末を迎えるのであれ、4年間の旅を締めくくるにはふさわしい。

 切石で組み立てられた遺跡から一転、隠し扉から洞窟の中に入ると、昔の冒険が思い出された。Bluezと一緒にここへ迷い込んだこと。ナナー・ミーゴに人質にされかかったこと。他ならぬアジド・マルジドが助けてくれたこと。Kewellとふたりで奥へ奥へ進んだこと。ウェポンの登場に身を震わし、三魔道士の魔法陣に感激しながら、東サルタバルタへ抜けたこと。

 遺跡を通り抜けて、トライマライ水路に入った。地の底から響いてくる、こおお……という轟きを聞くと、懐旧の情は鳴りをひそめ、神子さまの救出作戦に気持ちが切り替わった。
 道中に大した敵はおらぬ。戦勝祈願のつもりで、
ギルタブという巨大蠍をあっさり片付け、満月の泉に入った。ここにはバーニングサークルがある。バーニングといっても便宜上の呼び方で、水をたたえたような、美しい青い光を放つ魔法陣だ。

 Ragnarokがほお、とため息をついた。ここには初めて入った、と感激しているが、魔法陣があることを除けば、単なる洞窟でしかない。泉に進むには、青い光へと飛び込まねばならぬ。
「それでは、俺はこれで」と彼は言った。「これから世界BC戦に行くので」
 Landsendが彼に拍手した。Ragnarokは「どうも」と頭を下げ、「もう一回、あの馬鹿と戦ってきます」と言って、私にウインクをして去っていった(注1)
 残されたLibrossは、両手を擦り合わせながら、
「詳しくは話せませんが……死地に赴くトリオン王子にかけた魔法があります。それを皆さんに」
 と、ひとりひとりにシェル4をかけ、激励してくれた。

 私はふう、と大きく息をついて、
「それでは、行きますか」
 と言った。一同はおお、と両手を打ち合わせ、次々に魔法陣へと飛び込んで行った。
 Librossが、右腕を斜め下に伸ばしたのち、右手のひらを心臓に当てた。サンドリア式の敬礼だった。私は胸前で合掌し、ウィンダス式でそれに答えた。魔法陣をくぐるのは一瞬で、周囲の暗さは大差なかったが、轟きの音がずいぶん大きくなった。ごうごうと満月の泉全体に響き渡っており、風の音とも水の音とも区別がつかない。


「Kiltrog……Kiltrog」


 仲間はどこへ行ったのだろう、と探していると、足元にきのこのような人影を見つけた。たとえ囁き声でも、その語気の鋭さは聞き逃すものでない。アジド・マルジドである。

「Kiltrog、今度の戦いには、俺も参加する」
 彼は言った。
「いいか……ジョーカーは必ず殺さねばならぬ。俺は月の神獣フェンリルと、刺し違える覚悟でここへ来たのだ」

注1
 「世界に在りて君は何を想うのか」というクエストを指します。ジラートの幻影ミッションと、プロマシアの呪縛ミッションをすべてクリアし、その後日談である「日輪を担いて」というクエストも終わらせると、挑戦権を得られる“真のラストミッション”です。


(06.12.29)
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