その477

キルトログ、エース・カーディアンと戦う(1)

 勢いよい兄の号令とともに、アプルルは機械のスイッチを入れた。

 私は彼女の言う「秘密兵器」を始めて目にした。彼らとはずいぶん距離があるため、はっきりとはわからなかったが、光の反射する様子からして、本体は金属で出来ているらしい。そこに、アンテナだかレバーだかが、にょきにょきと茸のように生え出しているのだ。お世辞にもシルエット的にはかっこいいと言い難い。果たして誰のセンスなのか。コル・モルかシャントットか。タルタルの学者たちの美的感覚には首をかしげざるを得ない。私はそれがアプルルのデザインでないことを祈った。

 アプルルがスイッチを入れた直後、ばち、ばちという、放電したような鈍い音が響き、クリューの唄の余韻を破った。私ですら、その瞬間に一瞬の立ちくらみを覚えた。酩酊状態だったジョーカーもさすがに我に返ったようだが、時すでに遅かった。
 アプルルの機械のアンテナが震え、白い閃光が広がった。
 目を射られ、私は顔を逸らした。しばらく視覚が朦朧とした。地面が揺れているように思ったのは、気のせいだったろうか。胸ぐらを掴んで揺さぶられているような、激しい振動を感じ、私は片ひざをついた。ごぼごぼという水音が続いた。泉が溢れかえっているのだ。薄目を開けると、水底の光が激しく明滅しているのがわかった。月光のような上品な青白さは、今や、赤や緑のけばけばしい原色に化けていた。

 不快な電気音と、地震の向こう側で、アプルルが叫んでいるのが聞こえた。

「さあ、子供たちよ、止まって!!」

 私は振り返った。

 それは、すさまじい眺めだった。満月の泉を埋め尽くすように集合していたカーディアンどもが、めちゃくちゃに踊りまくっていた。奴らは身体をゆがませ、くるくると回り、ばたばたと倒れていく。激しい光に照らされ、奇妙な踊りを踊るカカシたち。煙にやられて落下する昆虫のようで、その眺めは滑稽ですらあったが、まさしくカーディアンどもにとっては、死の舞踏に他ならなかったのだ。

 倒れたカカシは、大半がそのまま動かなくなった。死を迎えたのである。だが、奴らのうちには、魔導球をすっかりやられてしまったか、狂ったような行動に走るものもいた。得物で隣のカーディアンに殴りかかり、同士討ちを始めるもの。奇声をあげながら泉に飛び込み、断末魔の叫びとともに、それきり浮かんで来なかったもの。特にこの「殉教者」には、多くのカカシたちが後に続いた。星月のエネルギーがばちばちと弾ける地下道に、水音がひっきりなしに続き、重なった。そのたびにカカシの死体が、またひとつまたひとつと水に浮いた。阿鼻叫喚の様相である。なるほど、アジド・マルジドの言葉は正しかった。「三博士の作ったものなら、効かぬということはない……効き過ぎることこそあれ」

 棍棒で打ちかかって来たカーディアンがいたので、私は斧で斬り捨てた。そいつは奇声をあげながら倒れた。カカシどもの死体を踏み越えながら、私は仲間を探した。この混乱の中では、良く通るアジド・マルジドの声すら聞き分けられぬ。私の視界に一瞬、神子さまが映った。「神子さま!」思わず叫んだが、カーディアンの手がさっと伸びて、たちまち神子さまをさらってしまった。奴はジョーカーだったに違いない。というのは、後を追おうとした私の前に立ちふさがって、4体のエース・カーディアンが姿を現したからである。

 さしもの秘密兵器も、エースたちの足は止められなかったようだ。奴らは、長い錫杖を器用にくるくると回し、めいめい戦いのポーズを取った。魔導球に何らかのダメージを与えている可能性は高いのだが、それをうかがい知ることは出来ぬ。奴らの鉄面皮のなせる業だった。

「王に手は出させぬ」と、右端のカカシが言った。
「我はエース・オブ・バトンズ

「同じく、エース・オブ・コインズ
エース・オブ・ソーズ
エース・オブ・カップス


 その堂々とした名乗りに、私は感服した。後ろから足音がして、私の右隣に、長身のエルヴァーンが姿を現した。Koftである。Landsendが前面に立ち、固い拳をきりりと握り締めて、ファイティングポーズをとった。Leeshaが隣に来た、と思ったら、赤魔道士のWirryrainだった。妻はApricotと一緒に、後ろに控え、精神を集中している。彼女のヘイストがLandsendを祝福する。途端に彼のフットワークがよくなった。Koftが大きな盾に身を隠し、ずらりと剣を抜く。私は抜き身の斧を構え、四人の強敵に向かって言い放つ。

「ウィンダスのKiltrog。いざ参る」

 カーディアンどもが一列となり、からからと車輪を回しながら突撃してきた。LeeshaとApricotの前に、Koftが飛び出した。ソーズが長棍を振りかぶり、Koftに鋭い一撃を見舞った。Koftはかろうじて剣で受けた。Landsendがバトンズに殴りかかったが、奴はそれを素早くかわした。攻撃といい、防御といい、恐るべきスピードである。カカシとはとても思えない。

 カップスがディア2を唱えた。戦闘の矢面に立つことなく、後方に控えているということは、おそらく白魔道士に違いない。一方、プロテス4を詠唱しており、攻撃も鋭いソーズの方は、ナイトということだろう。
 バトンズとコインズについては謎だ。だが、カーディアンの性能が、スーツの種類で決まっているとしたら? 我々はかつて、西サルタバルタのホルトト遺跡で、やはり四体のカーディアン――エースではなく、ジャックだったが――と戦ったことがある(その372参照)。そのときは確か、黒魔法の影響を危惧して、バトンズを真っ先に倒したはずだ。バトンズをボタンズと呼んでしまったから覚えている。だとすると……

 Koftは四人のエースに取り囲まれた。袋叩きにあっているように見えるが、彼は身を固めて被害を最小限に抑えていた。もとよりナイトで、守備には定評がある。私は目標をバトンズに定めた。奴の背中に思いきり切りつけてやったら、傷口から炎が吹き上がり、爆風で斧を取り落としそうになった。どうやらブレイズスパイクがかかっているらしい。
 Landsendが力まかせに蹴り飛ばした。どかん、と音がした。彼のキックの効果というよりは、炎の防御膜の影響だった。バトンズは振り向き、私たちに対峙した。そのため、一瞬Koftの包囲網が崩れた。ソーズがプロテス4を唱え出したので、Koftは身を翻し、バトンズに斬りかかった。バトンズは、私とLandsendと、Koftの3人を相手にしなくてはならないのだ。

 プロテス4は、バトンズにかかった。武器で殴っても、がきん、と固い皮膜に跳ね返されるようになった。そのたび派手に炎が吹き上がるのである。ブレイズスパイクの反射ダメージは、実際にはささやかなものだが、見た目と音には威嚇効果があった。噴煙で視界が遮られるうえ、ソーズやコインズがめちゃくちゃに殴りかかってくるので、戦いにくいことこのうえない。後方からスリプガ2の詠唱が聞こえた。Apricotである。睡眠魔法は、バトンズを中心に効果を表した。私たちを殴りつけていたカーディアンどもは、バトンズを除く3人が、同時に眠ってしまった。これはありがたい。

 私たち3人は、バトンズを追い詰めていった。奴の長棍の扱いには目を見張るものがある。得物を自在に操り、3人相手に一歩も引かないのは、見事としか言いようがない。しかし、いかにも多勢に無勢、だんだん旗色が悪くなっていった。そのときソーズが目を覚ました。奴は車輪を駆り、勢いよくApricotのところへ走って行き、棒で殴りつけた。Apricotが身体をすくめたが、同じくがきん、という音とともに、ソーズの攻撃が弾かれた。彼女はストンスキンをかけて、あらかじめ身を守っていたのである(注1)

 私たちはバトンズにかかりきりになっている。後衛まで助けに行く余裕はない。ソーズに対抗したのは、Wirryrainだった。Apricotの前に壁として立ちはだかり、鋭い剣で彼女を守った。横にはLeeshaがいて、Koftにリジェネを唱えている。とにかく、早くバトンズにとどめを差すことだ。1体減ればそれだけ戦いが楽になるのだから。

 そのときバトンズが、大きく身を震わせた。「魔力の泉!」と叫ぶ。精神力の負担なしに魔法を唱えるアビリティである。奴はとうとう、捨て身の勝負をかけてきた。


注1
 ストンスキンは白魔法です。石の壁を作り、一定量のダメージを吸い取ります。


(07.01.30)
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