アンティカ

 獣人とは読んで字の如く、獣と人との中間に立つ者に他ならない。その点で考えるならば、巨人やオーク、クゥダフ、ヤグードなどは、どれも大して違わないと言うことができる。どの種族も文化的には人間の後追いである。例外があるとすれば、一種だけ別の階段を上り続けているアンティカだけだろう。

◆生物学的特長

 蟻獣人という通称が示すように、アンティカは二本足で立つ蟻のような姿をしている。昆虫の身体は頭、胸、腹の3箇所に分かれるが、アンティカの頭には2対の触覚があるし(彼らは視力が弱く、索敵をこの感覚器に頼っている)、腹は尻尾のように後ろへ突き出ている。ただし、胸部に3対の足はなく、手足は2本ずつに留まるところが人間と共通する。指は三本しかないが、道具をあやつる器用さは決して人間にも劣らない。

 アンティカは全身を固い外骨格で覆っており、人間のやわな武器では傷をつけることさえ難しい。この傾向は近接戦闘型に顕著である。彼らは防御力、攻撃力に磨きをかけ、優れた戦士として人間の前に立ちはだかる。外骨格に覆われていない間接部を守るため、黒鉄の部分鎧を身につけている(これは帝国からの支給品だ)。敵を噛み砕くための顎もたいへん発達している。このタイプは個体数が最も多く、それゆえアンティカ社会の主力を成している。

近接戦闘型
後方支援型

 数は少ないが、魔法の得意な後方支援型も存在する。彼らの顎は普通だが、より鋭敏な触覚器を持っている。砂嵐の中でも敵を察知できるようフードが支給されており、頭から肩にかけてをすっぽりと被っている。後述するが、近接戦闘型と後方支援型の違いは、後天的に表れるのではなく、卵が孵化する以前からあらかじめ決められているものである。それが恐るべきアンティカの軍事力の秘密でもあるのだ。

◆アンティカの文化

 昆虫には社会型昆虫というタイプがある。蜂や蟻が好例であるが、アンティカもこのひそみにならう。彼らは“帝国”という名のもとに軍事社会を形成している。管理が高度に発達しており、兵士の統率面では人類のいかなる国も軽く凌駕する(注1)。ヴァナ・ディールに住む獣人たちの中でも、アンティカは際立って恐ろしい敵であるというのが、人類側の将校たちの共通した意見である。

 個体としてのアンティカは、生まれつき感情の起伏が乏しい。気持ちの高揚によって士気が高まることもない代わりに、恐怖その他の感情によって低下することもない。この傾向は、戦場での冷静さ以外に、もうひとつの長所を持つ。彼らは生まれつき全体に奉仕することを義務づけられているが、それを疑問に思うことはない。そもそも個性、個人の権利という概念はないのだ。生まれる前から、仕事、役割、階級は決められていて、食事や武器、防具の類は完全支給される。軍務に必要な専門知識は教育されるが、他の知識を与えられることはない。私有財産の権利もない。しかしアンティカが、そのこと自体に文句を言うことはない。彼らは何よりも組織の一部として「帝国に有益かどうか」を価値基準に生きているからだ。

 アンティカに唯一の自由があるとすれば、剣闘士への転職である。この役職がなぜ存在するのかについては諸説あるが、人口調整と弱者淘汰のためという説が有力である。アンティカもオークのように闘技大会を行うのだが、感情の塊のようなオークたちとは違って、極めて静かなものである。戦う2体のアンティカの周囲を、他のアンティカたちが遠巻きに取り囲み、歓声ひとつおくることなく勝敗を見守る。敗者が死んだ場合、死骸は埋葬されることなく、「全体の奉仕」のために利用される。支給品は没収され、二次利用のため外骨格は剥ぎ取られる。死体は食糧として保存される(!)。もともと砂漠に住む彼らは、食糧の乏しさをこのような合理性で補っていると考えられる。

◆歴史

 アンティカは現在、かつてのガルカの都アルテパ砂漠を本拠地に、クゾッツ地方全域をほぼ支配下に置いている。彼らは大多数がゼプウェル島の出身である。近隣の島々から生まれる者もいるが、少数であり、強さは本島出身者に劣るのが一般的なようだ。

 アンティカのことを述べるとき、ガルカとの確執に触れないわけにはいかない。600年前、アルテパ砂漠を支配していたのはガルカ族だった。彼らは高度な文明を誇り、戦闘力も際立っていたが、アンティカとの決戦には敗れた。アンティカが言葉を発しないため、知能が低いと侮ったのが理由のひとつに挙げられている(後述)。ガルカは、クフタルの洞門と、ココロカの洞門のふたつを通って、それぞれウォルボー、グスタベルグへと抜けた。現在ガルカがバストゥークに本拠をかまえ、そこから世界に散らばっているのは以上の理由による。

 アンティカの追撃により、ガルカは膨大な犠牲を出したといわれる。コロロカの洞門が血に染まったのは有名な話だが、悲劇性はクフタルの洞門の方が高い。逃亡するガルカのうち、屈強な若者がしんがりをつとめ、まずは老人、子供を先に洞窟へ入れた。しかしアンティカが待ち伏せしており、彼らは次々と殺されたのだ。一説によれば、クフタルの洞門そのものがアンティカの掘りぬいたものであり、ガルカが後ろに主力を集中させることまで読んでいたという。いずれが真実にせよ、生きてウォルボーへたどり着いた者は少なかった。ガルカのある支族は谷へ迷い込み、アンティカの大軍に囲まれて、勇壮に討死したという。先に逃がしておいた子供たちが戻ってきたときには、大人たちは全滅していた。子供たちの泣き声が峡谷に響き渡った。この場所は故事にならい、現在慟哭の谷という名前で知られている。

◆巣穴

 以上の教訓が示すことはひとつだ。アンティカは油断ならぬ強敵だ。クリスタル戦争でも、その戦闘力と、仲間の屍を平気で踏み越える無言の行軍で、アルタナ連合軍を震え上がらせた。彼らが本領を発揮できなかったのは、海上輸送の手段を確保する時間が少なかったからである。

 そして研究の結果、アンティカは予備兵力を多く冬眠状態においていることが明らかになった。通常の戦力こそ他の獣人たちと変わらないが、有事の際は、蛹状で仮眠している将兵たちを起こし、戦闘に参加させるという。この場合、兵力は最大で100倍近くに膨れ上がる! アンティカが大戦に本腰を入れていたら、連合軍の敗戦は免れなかったであろう。各国の為政者は安堵のため息を漏らしている――アンティカが大陸でなく、ゼプウェル島に留まってくれているのは、人類にとって幸い以外の何物でもないのだ。 

アンティカたちの卵

 ただしその感情は、ある種族――ガルカにとっては複雑なものだろう。現在アンティカは、かつての彼らの都だった流砂洞を、巣穴の一部として使っている。砂が徐々に流入し、崩れつつある事実に関しては、全く気にも留めていないようだ。こうしたアンティカの態度はガルカの激しい怒りを誘う。新しい世代の冒険者で、かつての歴史の記憶の残らぬガルカであっても、蟻獣人に敵意をむき出しにする者は少なくない。

◆言語


 アンティカが言葉を発しないというのは、ある意味で正しく、ある意味で間違っている。アンティカ語は我々の共通語とは大きくかけ離れている。それは摩擦音に近いものであり、顎部の外骨格をぎしぎしとすり合わせて“発声”する。彼らの身体的構造がそうさせるのだが、おかげで人間どころか、他の獣人とのコミュニケーションも実質上不可能であった。

 これを解消したのはゴブリンの商人である。シフートと呼ばれる弦楽器を使うことで、彼らと「話す」ことを可能にした。アンティカの都へ布教に訪れた修道士ジョゼの記録では、細かい切り込みを入れた木の棒を擦り合わせて、アンティカと会話をするゴブリンの様子が書かれている。これは弦楽器とは違うようだが、シフートも同じような原理で摩擦音を出しているものと推定される。

◆名前

 個性というものを全く無視しているアンティカは、固有の名前というものを持たない。個人を呼ぶときは「役職名+軍団ナンバー+所属ナンバー」で表現する。例えば、デクリオ4−7という“名前”は、アンティカン・デクリオで、第4軍所属のナンバー7であることを示している。

 これらの“名前”は、帝国社会内においては固有名詞として機能する。その点では人間の名前と何ら変わりがない。ただしアンティカの場合、欠員が出るとすぐさま代わりが用意されてしまう(このシステムはカーディアンに似ている)。例えば、前述のデクリオ4−7が戦場で行方不明になった場合、帝国は新生児にその“名前”を割り振ることになっている。デクリオ4−7が生きていても帰属先は無くなる。そのためアンティカにはレギオン・イレブン・コマテンシス(第11軍団独立支隊)という一団がおり、帝国社会から離脱した者の受け皿になっているという。

注1
 アンティカの言語は独自のものであるので、彼らの言う「帝国」が我々のそれと合致した概念かどうか、議論の余地があるだろう。ちなみに帝国の最高指揮官はアンティカン・プロコンスルとされている。女王蟻にあたる存在は確認されていない。


(06.08.12)
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