巨人
 どうやら北というのは、ヴァナ・ディールにとって凶方らしい。忌まわしいオークに続き、上陸してきた巨人もまた、はるか北の島々の出身だからだ。

◆種族的特長

 巨人とオークの関係は明らかでないが、少なくとも表面的には、いくつかの共通点がある。両族とも上半身がよく発達し、太い腕をしている一方、腰から下が貧弱そのもので、体型がたいへん酷似している(ついでを言うと、知性が足りなさそうな点までそっくりである)(注1)

 もちろん相違点も多い。巨人には尻尾がないし、胴がひどく痩せている。だが最も顕著に違うのは、身体のサイズだろう。名前の通り、巨人族はたいへん大柄だ。身長はダルメルほどにも匹敵する。巨体で知られるガルカ族すら、巨人族と対峙するときには、首が痛くなるまで見上げなくてはならない!

第二次コンシュタット会戦の記録には、巨人族は「(身長が)ヒューム男性の優に3倍はある」と書かれている。

 不思議なことに、寒い地域に住んでいるわりには、彼らは常に半裸である。上半身に身につけているものは、首飾りと腕輪のみだ。大きすぎて人間には使えないが、腕輪はギガースの鍛冶師が鍛えたもので、装着した者の膂力(りょりょく)を強める効果がある。下半身には腰布を巻き、数多くの丸盾をぶら下げている。これは本来人間の持ち物で、巨人族が倒した戦士のうち、彼らが勇者と認めた者の遺品なのだという(注2)。丸盾は巨人の戦勝記念、一種の強さのあかしなのだ。

◆民族と貴種

 あまりにも知性に欠ける外見から、巨人は長く「獣人」とは認識されなかった。しかし近年の研究で、粗野ではあるけれども、ちゃんと独自の文化を持っていることが判明している。

 巨人はいくつかの民族に分かれており、ジャイアントギガースヨトゥンなどが知られている。このうち、ヨトゥンは容易に判別できる。前者の二族の肌が草色なのに対し、ヨトゥンは青白い。これは出身地域に由来するもので、彼らは北の島々の中でも、さらに北部の極寒地方に住んでいるのである。

 装備品も一見同じように見えるが、実は少しだけ違う。ヨトゥンの腰布、靴下は毛皮で、防寒に意識が注がれている(注3)。そのくせに常に半裸状態なのは、何か理由があるのだろうか? いくら巨人でも、まさかそこまで馬鹿とも思えないのだが。

ヨトゥン。少数民族で、デルクフの塔上層の限られた場所にしかいない。

 オークやクゥダフ、ヤグードらと違って、巨人は特定の指導者を持たない。ただ貴種は存在する。クフィム島に建つデルクフの塔、上層のさらに奥の奥の区域に、不気味な刺青を全身に施した黒い巨人たちが出没する。彼らはウラノス家の一族だ。卓越した戦士を輩出する名家で、巨人族から崇められる血統である。ミマス、エンケラドス、ロイコス、アルキオネオスの四兄弟が有名だ。ちなみに、全身を彩るくまどりは、彼らの優れた家系を図案化したものであるという。

ウラノス兄弟の腕輪は、特に力を強める効果が高い、鍛冶師の傑作。

◆傭兵として

 巨人は古くからその存在が知られていたが、ヴァナ・ディールに定住していたわけではなかった。数十年に一度、大船団を組んで南下してきて、人類の集落地を襲い、掠奪を繰り返してきた。このとき連れ帰った人間から、彼らは人類の造船術、築城術を学んだ。しかし一般的には、こういう襲撃者の一面よりも、傭兵としてのイメージが強い。古来より、彼らはヴァナ・ディールの為政者たちに雇われ、たびたび国際戦争に駆り出されてきたのである(注4)

 長い間、巨人は国家のツールでしかなかったわけだが、クリスタル戦争は、人間にしっぺ返しを浴びせる大きなチャンスだった。彼らは獣人軍の突撃隊として、アルタナ連合軍に悪夢を見舞った。参戦のきっかけは、闇の王による族長たちへの訪問だと言われている。彼らはそれに応じ、大規模な船団を編成、バルドニアに上陸した。巨人族は当初、工兵としてズヴァール城築城に従事していたが、いざ戦争がはじまると、強力な戦士として戦場を駆け回った。このときウラノス兄弟は、ジュノ攻城戦に参加。陥落こそ果たせなかったものの、人類連合軍は彼らの怪力ぶりに舌を巻いたという。

 だが、巨人族の奮戦にもかかわらず、獣人軍はザルカバードで敗れた。皮肉にもきっかけは、ウラノス家のエンケラドスだった。ストーンの魔法を目に受けて後退したのが、敗走の始まりとなったのである。連合軍はズヴァール城を襲撃、バストゥークのフォルカーらの手により、闇の王をついに討った。獣人軍はばらばらになり、残党は故郷に逃げ帰ったが、巨人たちはそうはいかなかった。連合軍の追討が始まった手前、船団を組織して戻るのは不可能だった。だからといってヴァナ・ディールには、彼らの定住できる場所など何処にもなかったのだ。

 巨人族はクフィム島に集結、デルクフの塔に篭城し、抗戦を続けた。これにはさすがに連合軍も手を焼いたが、無用な犠牲を出すことを恐れたのか、本格的に鎮圧することはなかった。こうして巨人族は、小さな三日月型の島に閉じ込められることになった。クフィム地方を除けば、ザルカバードやコロロカの洞門、旧タブナジアの平野などに、わずかばかりの生き残りが見られるくらいである。

 ズヴァール城陥落、闇の王の死から20年。巨人族はまだ戦い続けている。それを愚かと笑うのは簡単だが、こういう逸話もある。

 大戦時、王国騎士団赤狼隊の隊長だったミュゼルワールは、ある巨人の奮闘に賞賛を惜しまなかった。“彼”はまるで無名だったが、終始エンケラドスの傍らにいて、仲間を撤退させるために自ら盾となった。騎士団には甚大な被害が出たが、直接巨人を討ったミュゼルワールは、その屍に侮辱を加えることを固く禁じたという。

 いったい、野蛮で愚か、野卑そのものの巨人が、なぜヴァナ・ディール戦史にかかせぬ存在だったのか。かつての国家の指揮官たちは、彼らの何を愛し、何を重宝して使い続けたのか。

 その答えは、この逸話の中にこそ眠っている。

注1
 巨人独自の言葉が存在するが、文法がなく、ただ単語が並ぶだけの未熟なものである。

注2
 巨人が所持しているのは、木製のラウンドシールドがほとんどだ。そのうちの多くは、ヒュームの伝説に登場するバイキング族――巨人とも互角に戦うという、北方の屈強な一族――の持ち物ではないか、といわれている。

注3
 巨人は例外なく靴下(
ギガースソックス)を履いているが、必ずつま先が露出している。縫い目で補強されているので、意図的にそういうつくりになっているようだ。指の可動性を高めるためだろうか。

注4
 第二次コンシュタット大戦では、約100名の巨人が、共和国軍として王国軍と戦った。このときの突撃の合図は、巨人の肌にピックが打ち込まれるという、いささか荒々しいものである。
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