ゴブリン

 一般的に獣人は愚かな存在だとみなされているが、我々が信じようとしているほどには馬鹿ではない。彼らの生活の中には驚くほど文化的な一面も見られる。クゥダフの鋳造技術、ヤグードの宗教などはその好例である。もっとも彼らが野卑野蛮であることは間違いないので、成熟した人間社会と比較すると、興味深くはあるが、未熟なレベルの文化に留まっているのもまた事実である。

 これを考慮すると、ゴブリンの文化が――部分的にとはいえ――人間社会に還元されているのは驚きといわざるを得ない。最も顕著なのは食文化である。獣人は一般的に悪食で、ゴブリンのように調理の技術を発達させた例は極めて珍しい。とはいえそこはやはり獣人で、たくさんの爪を煎じて、ゴブリンカップという粗末な食器で楽しむ腐茶などは、かつて試飲した人間がいたのかどうかすら疑わしい!(注1)

 ゴブリンパンゴブリンパイゴブリンチョコという伝統的な食べ物は普通に売られている。涙のマスタードという、聞いただけでも辛そうなスパイスも彼らが作ったものだ。これらは決して高級な食事ではない。例えばゴブリンパンは、過酷な環境でもよく育つホロ麦粉を使って作られるが、食材そのものが小麦粉やライ麦粉に比べると一段味が落ちる。従ってそれらは「変わった風味」の域を出ないのだが、獣人が人間の口にあう食事を作り、実際に食されているということだけでも驚きである――人類は普通、獣人との共通点を認めるようなことを敢えてしようとはしないからだ。

◆どこにでもゴブリンが!

 おそらくほとんどの人間が、「獣人」と聞いて真っ先にゴブリンを思い出すのではあるまいか。その理由は彼らの行動範囲の広さにある。実際ゴブリンはどこにでもいる。硫黄臭ただようダングルフの枯れ谷から、永久凍土のボスディン氷河まで。ゴブリン並みにヴァナ・ディール中で目撃される生き物はたった一種しかない――人間だ!

 ゴブリンがいたるところに生息しているのは、むろん彼らの生命力の強さを示しているのだが、特定の本拠地や対人間用の前線基地を持たないという事実も大きい。オークやクゥダフ、ヤグードは、まがりなりにも中央集権的な国家体制を築いているので、行動範囲が本拠地の周辺に限られてしまう。これが他の獣人とゴブリンとの決定的な違いである。彼らが人類を憎んでいることは確かだし、旅人を見つけたとき、得物を振りかざして追いはぎに転じないゴブリンなど皆無であるが、徒党を組むことはほとんどない。おそらくクリスタル戦争がほぼ唯一の例外だろう。

 彼らは独立心の強い個人主義的な生き物である。ゴブリン以外の獣人は階級差を持つ(これは軍隊社会だから当然である)が、個々の戦闘能力の差を除けば、ゴブリン同士の間に優劣は存在しない。単に互いの職種が違うだけである。ゴブリンは一人一人が商売人で、主に獣人相手の仕事に従事するが、必要があれば人間社会との接触も辞さない。ゴブリンが我々にとって身近なのは以上の理由による――商人がたくましくも厚かましいのは何も人間ばかりではないということだ。

◆ゴブリンの名前と装備

 人間にとって、獣人の文化を目の当たりにするという機会は少ない。いかにゴブリンが他の獣人より身近であろうと、彼らの文化は断片的にしかわかっていないのが現状だ。

 ゴブリンの個体名はX(エックス)で終わる。マックビクスリーダヴォクスは実在の名で、ixで終わる前者が男性名、oxで終わる後者が女性名である。この法則は「美男」「美女」というニュアンスを付加するらしいが、彼らがどちらの性別なのかを判断するのは難しい。ゴブリンは例外なく常に覆面で素顔を隠しているからだ。

 ゴブリンについて一番の謎はその覆面である。彼らは決して素肌、とりわけ素顔を表には出さない。職種によって容姿は異なるが、基本的に覆面は鉄の兜か革のマスクのどちらかである。一般に前者を傭兵装備、後者を行人装備という。要するに鎧を着て身体を張るか、そうでないかによって、全身につけるものが違ってくるというわけだ。

傭兵装備
行人装備

 傭兵装備は鉄と青銅で出来ている。鎧は小柄な身体にぴっちり合うように作られており、ゴブリンの手先の器用さと、板金技術の高さを伺わせる。人間は基本的に装着できないため、ゴブリンヘルムゴブリンメイルはそれ自体何の役にも立たない。にもかかわらず高額で取引されているのは、溶かせば質の良い鉄や、青銅のインゴットを得ることが出来るためである。

 おそらく、人類にとってより馴染み深いのは、行人装備の方ではあるまいか。街中で商売をしているゴブリンは、殆どが革のマスクに革鎧である。奇妙なことに、彼らは街で定住していても、常に旅支度を忘れない。大きな背嚢に寝具や食器、食料や飲料を入れ、虫歯の袋を脇からぶら下げ、飲み物を楽しむためのゴブリンカップも携帯する。自分の家や部屋を持っているからといって、荷物を置いてくるようなことは決してないのである。

 ゴブリンは、長い放浪生活を少人数――ひとりの場合も珍しくない――で行う。この習性が身に染み付いてしまっているので、人間と同じ定住感覚を持つのは難しい。裏を返せば、非常に用心深いということでもある。行人装備は簡素ではあるが、ゴブリンマスクは耐光と防臭の機能を持ち、ゴブリンアーマーは、かりそめにも「アーマー」という名前が示す通り、いざというときの鎧になる(もちろん、傭兵が身につけているゴブリンメイルとは比べ物にはならないが)。

 行人であろうと傭兵であろうと、ゴブリンに共通する装備がある。彼らは常にゴブリングレネードを携帯している。これは人間が「手榴弾」と呼んでいる拳大の爆弾で、相手に投げつけると爆発し、大きなダメージを与える。ただし、威力こそ強大だが、性能がお粗末なのでしばしば自爆も招く。こうした事故が頻発しているにもかかわらず、彼らはグレネードの携帯をやめようとはしないし、戦闘での使用を躊躇することもない。これはゴブリンに関する、ちょっとした謎のひとつである――もしかしたら、何か爆弾に対する信仰でもあるのかもしれない。

◆亜種・モブリン

 ゴブリンは個人主義者で、定住志向を持たないと書いた。だが、その常識の逆を行く種族が存在する。ゴブリンの一支族モブリンは、独自の文化を有していて、もはや別種と呼んでいいほどかけ離れてしまった。特殊な利害関係ででも繋がらない限り、ゴブリンたちとも大変に仲が悪い。

モブリン
バグベア

 彼らは穴居生活を営んでいる。エルシモ海戦のころ(786年)、バストゥークで略奪をしたという記録が残っているが、忽然とまた地下に姿を消した。彼らの本拠地はムバルポロスである。建設と放棄を繰り返しながら、都市そのものがモグラのように移動しているのだ! なぜそのような習性があるのか全くわからないが、モブリンの建設技術がずば抜けていることだけは確かである。

 モブリンの習性はたいへん興味深い。ゴブリンに比べ、ずっと凹凸の目立つ装備。歯ぎしりするような耳障りの言葉。ただし商売の才能に関しては、ゴブリン族と変わらぬ鋭さを保持しているようである。

 人間にはにわかに信じがたい性質もある。モブリンは目的のために手段を選ばない。彼らは仲間に人工的に手を加え、巨体と怪力を与えることによって、作業・運搬・警備用の奴隷に使っている。これをバグベアという。醜く膨れ上がった巨体、三つ目のゴーグルなど、にわかには同族であるとは信じがたい。地下工事のため生体改造を施す、この事実に協調できる人間は少ないが、逆を言えば、そのようないびつな倫理観すら受け入れてしまうほど、モブリンは苛烈な環境に生きているのである。

◆ゴブリンの文化

 ゴブリンはがらくたを収集することでもよく知られるが、具体的に何に使われているのかは一部しかわかっていない。ゴブリンダイス『ミスラの尻尾』というゲーム用のサイコロである(わざと出目が偏るように作られているのがいかにも彼ららしい)。錆びたバケツも彼らの「宝物」である。こちらは本来の意図とは裏腹に、部屋に飾っておく変わった調度品として冒険者に取引されている。

 大羊の背中の脂でゴブリン石鹸を作るなど、彼らは総じて器用である。獣人銀貨も彼らの鋳造によるし、冶金術は人間をも凌ぐほどだ。エアボーンという見事な打ち上げ花火はゴブリンが作ったものである。このように彼らの技術は時に人間すら感服させるほど高いレベルを発揮するのだ。

注1
 ゴブリンが歯を集めるのは、「虫歯が悪運を強める」という民間伝承が理由である。


(06.02.15)
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