ジュノ史(3)――冒険者の台頭
◆ザルカバード会戦

 ジュノ攻防戦の敗北――その時点ではまだ、局地的な敗北に過ぎなかったわけだが――を受け、闇の王軍は軍勢を移動。標的をタブナジア侯国に定めた。2月のことである。侯国の迎撃態勢がどれだけ整っていようと、獣人軍の一斉包囲を防ぐのは不可能だった。侯国軍は激しい抵抗を続けたが、翌月に敢えなく陥落、闇の王の手に落ちた。この名残は現在でも続いており、闇の王がザルカバードで討たれた後も、候都は獣人支配が続いていて、冒険者ですら一歩も入ることが出来ない。

 しかし、ここから戦いは大きく動き出す。闇の王軍がタブナジアに固執している間に、連合軍は軍を進め、闇の王の居城であるズヴァール城へ迫ったのである。4月、雪原に連合軍が終結、ザルカバード会戦を迎える。獣人軍との正面衝突であり、クリスタル戦争の行方を占う一大決戦となった。

 会戦は熾烈を極めるものだった。サンドリアの名将フィリユーレは、オークの「王殺し」ドッグウデッグに、一撃のもとに討ち取られてしまった。ミュルゼワール率いる王立騎士団赤狼は、統率された獣人軍の待ち伏せにあい、7割が命を落とすという犠牲を払ったという。しかし、ウィンダス手の院院長ゾンパ・ジッパが開発した戦闘魔動兵――カーディアンのプロトタイプ――が、その不恰好さに関わらず、思いがけぬ活躍を見せたのを始め、徐々に連合軍が優勢に転じた。勝利の直接のきっかけは、魔道士のストーンが敵の巨兵エンケラドスの目を直撃したことである。エンケラドスの撤退とともに獣人軍は総崩れとなり、連合軍は余勢をかって進軍、闇の王の居城であるズヴァール城へと迫った。

 863年7月、ズヴァール城攻囲戦が開始されたが、攻略は困難をきわめた。ハイドラ戦隊の一員が書いた手紙によれば、連合軍は兵力で圧倒的に勝っていながら、敵の精鋭であるダーク・キンドレッド、フォーローン・バンガードが無傷で残っており、総攻撃には慎重だったようだ(注1)。だが、同月ズヴァール城への総攻撃が開始。バストゥークのミスリル銃士、フォルカー(ヒューム)、暗黒騎士ザイド(ガルカ)らから成る、連合軍5種族5人の精鋭が、王の間に迫った。闇の王にとどめを差したのはフォルカーだと言われている。これにより獣人軍は拠り所を失い、空中分解する。直接の配下だったデーモン族には、アロケン子爵はじめ逃亡者が相次いだが、ハボリュム公爵のように、最後まで闇の王に忠誠を尽くし、付き従った者たちも少なからずいた。

◆獣人軍追討

 ここから獣人軍は四散し、それぞれの逃亡劇が始まる。最も有名なのは巨人で、北方へ帰れなくなってしまった彼らは、クフィム島のデルクフの塔に篭り、奮戦を続けた。ヤグード族もウィンダス連邦の逆襲を受け、最も苦手とするミスラ海兵隊に切り込まれ、オズトロヤ城を制圧されている。ヅェー・シシュはこのとき行方不明となったが、戦後復活したのは替え玉という説があり、本物は城の陥落に伴い自刃したのだ、とも伝えられる。

 アンティカ軍は1月にクォン上陸を開始した。いささか遅きに失したようだが、これが人類を救ったとも言われている。わずか半年の参戦で、本腰を入れた軍団投入が避けられたからだ。863年2月には、オーク帝国軍が本格的な撤退を始めた。翌月、四ヶ国の代表が再度ジュノに終結。タブナジア侯国滅亡をはじめ、おびただしい数の犠牲は払ったが、何とかアルタナの子らの命脈は保たれた。彼らは共同終結宣言を発表、2年数ヶ月にもわたるクリスタル戦争は、ようやくここで決着を見たのである。

◆戦後〜飛空挺時代の到来

 クリスタル戦争の切り札として企画され、実戦投入を待つばかりであったが、実現されなかった兵器がある。「空飛ぶ船」として企画された飛空挺がそれだ。

 この他に類を見ないユニークな乗り物は、カムラナートが復活させたクリスタル推進機関と、古代の設計図をもとに、バストゥークの天才技師シドが設計、総指揮をとって建造したものである(注2)。ほとんど滑走を必要とせずに離水・着水できるという特性を持ち、864年1月、第1号機が進水、数度のテスト飛行を成功させていた。

 最初期の飛空挺は現在の仕様と異なり、部隊が乗り込めるよう、相当に大型なつくりで、回転翼は14基を数えた。艦首に大砲2門、両舷側に加農(カノン)砲が3門ずつ配されていた。船体はカモフラージュのためグレーに塗り、ブルーの蛇をのたくったように描写。飛び道具からの防御のため、甲板には三角の鉄盾をずらりと並べた。それが鱗のように見えたこともあり、本体を地表から見上げる人には、ドラゴンのような一種怪異な姿にうつったという。

 大戦の早期決着により、実戦投入されることはなかったが、本格的な兵器として使うには、積載量やコスト、乗員の育成など、解決すべき問題は多かったようだ。当然、戦後はお蔵入りとなったものの、思いがけぬかたちで出番がやってきた。船に代わる貨物輸送手段としてである。

 865年、ジュノで戦後処理会議が開かれ、大公カムラナートは、四国間の関係継続を提案した。これに三国も同調し、互いに領事館を置くことで合意した。結果、四国協商が開始。872年、カムラナートの肝いりで、飛空挺の民生転用、運営研究組織「飛空旅行社」が発足する。同社は当初、大型飛空輸送船の設計を目指していたが、各国の地勢調査を踏まえ、計画を変更。一番艇をより小型化した貨物艇建造に切り替えた。なおシドによれば、一番艇は「とっくの昔に解体されてしまっている」という。

 現在の飛空挺。2基の大きな回転翼に、4基の補助翼がある。

 875年、ジュノ-バストゥーク間に飛空挺が就航。その成功により、導入に懐疑的で二の足を踏んでいた残り2国も、先を争って旅行社との交渉を再開。無事航路が繋がる。だが、必ずジュノを中継するシステムにより、経済的な恩恵は大公国に最も大きかったようだ。この頃には、世界がネットワークで繋がったこともあって、各国間で貨幣が違うのには、通商においていろいろ面倒な面が出てきた。

 868年、歴史的なギル統合が行われる。三国が三国の通貨(ノワ、バイン、ムム)を廃止し、ジュノのギル貨幣を導入したのである。この事実は、歴史が浅いにも関わらず、ギル貨幣が強い信用を獲得していたことの証明でもあった。

◆冒険者時代の到来

 闇の王軍は確かに壊滅したが、ヴァナ・ディールにおいて、獣人の勢力が一掃されたわけではなかった。単に戦前の状態に戻っただけと言ってもいい。散発的にではあるが、大陸各地で獣人たちが勢力を盛り返し始め、三国をおびやかすようになっていった。例えばオークは、875年に山村ダボイを襲撃、ここを要塞化して再び王都侵攻に出た。その4年後には、ゲルスバ砦を再構築、サンドリアと一触即発の関係に入り、その緊張は現在まで続いている。

 バストゥーク共和国も安泰ではない。869年、クゥダフ族がパルブロ鉱山を襲撃、占領した。赤き炎と血の日の復讐と言われている。クゥダフ族とバストゥークの溝は深まる一方で、旅人が街道で被害にあう事件が続発した。ウィンダス連邦はヤグードに融和政策をとったが、それが裏目に出て、オズトロヤ城を再構築されてしまった(871年)。同年、失踪していたヅェー・シシュも姿を現し、ヤグード族は過去の勢力を取り戻している。彼らに有利な平和条約を締結してしまったこともあり、ウィンダスは自縄自縛の罠に陥ってしまった。

 獣人との紛争が激化しているにも関わらず、各国の動きは鈍かった。彼らは戦争で疲弊していたし、同盟国を再び猜疑の目で見つめ、正規軍を出し渋るようになっていたのである。そこで883年、事態を憂慮した大公が、コンクエスト政策を提唱した。「各地方に出兵し、現地の治安に最も貢献した国家が、一定期間当地の支配権を得る」という前代未聞の策で、ジュノ自身はそれに参加せず、スポンサーと裁定者に徹してよい、と付け加えた。

 非常に大胆な提案だったが、大公自ら譲歩的な立場を表明したことで、調停は思うよりスムーズに進んだ。翌年セルビナに各国首脳が集まり、三国合意のもとコンクエスト政策がスタート(セルビナ会談)。当初は正規兵を対象としたが、やがて冒険者(Adventurer)が台頭してくると、彼らに任務を一任することが多くなった。こうして冒険者が時代の主役となっていくのである。

 彼らは一種の社会浮遊層である。地位や身分に束縛されず、おのれの正義と信念のもとに行動する。その特徴には(1)戦闘力が高いこと(2)定住志向に乏しく、各地を旅して回ること(3)職業的には何でも屋としての色彩が強く、あらゆる頼み事を引き受けて金品を得ていること、などがある(注3)

 冒険者の活躍は、ジュノにとってもプラスに働いた。世界を股にかける彼らが、地理的にも制度的にも、最も便利なジュノに長く滞在し、主な活動拠点としているからだ。そのため、戦後になってもジュノの勢いは衰えていない。大公兄弟は近ごろ、健康が思わしくないのか、公の場に登場することが少なくなっているが、誰が後継者になるにせよ、世界の中心の座を容易に滑り落ちるとは考えにくい。これからも盟主としての活躍が期待される。

注1
 8月3日夜、ハイドラ戦隊は潜入作戦のため軍を出発したようだが、そのまま消息を断ってしまっている。

注2
 類を見ない乗り物のために、ジュノ地下で作業にあたった船大工たちも、新型戦艦だとしか教えられていなかったようである。初飛行は進水式とは別の日に、人目につかない場所で行われた。

注3
 冒険者の勃興には、各国軍の体たらくにより、民間人の自衛精神が助長されたことも一因だったかもしれない。その他の原因としては、大戦後に専業兵士が失業した、社会の富裕化により、自由に人生を選択できる中間層が育った、ということが考えられる。


(06.11.02)
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