サンドリア史(5)――第二次コンシュタット大戦

■ポイント■
・アシュファーグの再来、【狼王】ルジーグ
・ルジーグの撤退と共和国の追撃
・カフュー伯とファレデミオン卿の奮戦
・シュルツの大釜

◆【狼王】ルジーグ即位

 「力の時代のはじまり」の項でも述べたように、サンドリア王には、必ずしも武闘派は多くない。【龍王】ランペールの業績を別とすれば、【狼王】ルジーグが、同系統の最後の王と呼べるだろう。

 ルジーグは686年に即位した。偉大な【戦王】を尊敬する彼は、戴冠式において、「猛く強きサンドリア」の復活を宣言した。【狼王】は軍の強化こそが、最も国益に叶うと信じていた。そこで、徹底的に王立騎士団を鍛え直し、実戦から遠ざかっていた軍隊を生まれ変わらせた。その武力を背景に、バストゥークに対し、強硬外交を展開したのである。彼は共和国の商人たちに、差し押さえた数々の鉱山や、サンドリア旧領を返還するよう要求した。

 これがにべもなく拒絶されると、【狼王】は共和国に宣戦布告した。690年だった。彼は弟のフェレナン公に神殿騎士団を預け、王都の防衛を命じたあと、自ら王立騎士団を引き連れて南下。バルクルム、コンシュタット、グスタベルグの砦を次々攻め落とし、快進撃を続け、わずか7ヶ月でバストゥークの首府に到着した。

 順調に軍を進めたルジーグだったが、グスタベルグ砦には手を焼いた。ここは【鉄腕】マイヤーの時代から、天然の要害であり、攻め落とすのは困難と思われた。連戦に連戦を重ねた軍隊にも限界が来ていた。ルジーグは共和国政府に即時降伏を要求したが、時の大統領シュライバーは、言を左右にして答えをはぐらかし続けた。一ヶ月後、【狼王】はしびれを切らした――全軍突撃が開始されようとしたそのとき、ルジーグのもとに、オーク軍団がアシャク山脈を越え、大挙ノルバレンに侵入した、との報が伝えられた。

 ルジーグはただちに諸侯会議を開いた。同地でオークを撃退したことのある、王立騎士団長ファレデミオンが進言した。

「陛下」と彼は言った。
「今は、サンドリア千年の大事。王弟フェレナン殿下に、オークどもの処理は御任せ致しましょう」

 ところがルジーグは、弟の実力をあまり高く買っていなかった。彼はフェレナン公への不信感を表明、弟を「腰抜け」よばわりして、「あやつではとてもオークの相手は務まらん」と発言した。この疑念が諸侯に伝染し、自領の安否を気遣った彼らは、兵の撤退を始めた。夜、壮大なかがり火がサンドリア軍を包んだ。彼らは攻城兵器に火を放ち、共和国に総攻撃と思わせておいて、撤退の時間を稼いだのである。殿をつとめるオルディナン・カフュー伯爵の計略だった。

 しかしながら、バストゥークの方が一枚上手だった。コンシュタットまで引き返した後で、オーク襲撃は誤報という情報が入った。ミスリル銃士隊の流したデマであったことを知って、ルジーグは、歯噛みをしてくやしがった。彼らの背後には、共和国軍が迫りつつあった。【狼王】は決戦を決意し、当地へ踏みとどまった。こうして691年、第二次コンシュタット会戦がいよいよ幕を開けるのである。

◆両軍の戦力比

 ここで、サンドリアとバストゥーク、両軍の編成を見てみよう。

【サンドリア王国軍】 約5,300人
王立騎士団……約3,000人
(ナイト・騎士・狩人・モンク・白魔道士他)
傭兵騎士団……約1,000人
(戦士・シーフ・黒魔道士他)
近衛騎士隊……約100人
(ナイト・白魔道士他)
タブナジア騎士団……約500人
(竜騎士他)
ゴブリン傭兵団……約800人
(シーフ・黒魔道士他)
【バストゥーク共和国軍】 約6,400人
第二共和軍団……約4,000人
(戦士・狩人・吟遊詩人他)
第三共和軍団(陸戦隊)……約1,000人
(狩人・白魔道士他)
銃士諸隊……約1,000人
(赤魔道士・狩人他)
ガルカ傭兵隊……約300人
(モンク・暗黒騎士他)
巨人傭兵隊……約100人
(戦士・狩人他)

 サンドリアの主力は槍兵隊で、その前面に弓兵隊、最前列に散兵としてゴブリン傭兵団がいた。槍兵隊の右には、ルジーグ率いる騎兵隊、左には傭兵騎士隊が陣取った。彼らはコンシュタット高地の北部、バルクルム砂丘への入り口に隊列を張り、南側へ向いて共和国軍を待ち構えた。

 一方バストゥークは、重装歩兵が主力部隊で、その前面に石弓隊がいた。左には重装歩兵左翼、右には重装歩兵右翼、その右後ろにガルカ傭兵隊が控えた。共和国軍は、第二共和軍団参謀長シュルツの策により、あらかじめ軍隊を艦隊に乗せ、コンシュタットに伏せさせていた。共和国軍の背後にある山の上には、鋼鉄銃士隊、黄金銃士隊、巨人傭兵隊が陣取り、高地から重装歩兵を援護した。シュルツ自身は気球に乗り、上空から戦況を観察、共和国軍に指示を送ったという。

 バルクルム砂丘へ繋がる、コンシュタット高地の北出口。サンドリア軍は画面手前、南向きに陣取った。

◆開戦

 【狩王】ルジーグは、諸侯を集めて彼らを鼓舞した。

「騎士諸君、百年前、あの【戦王】が苦杯を喫したアンシャラーラの地で、我々は勝利し、百年ものの祝杯をあげようではないか」

 騎士たちは沸いた。アンシャラーラとは、サンドリアにおけるコンシュタットの旧称である。コンシュタット会戦は、【戦王】が唯一おくれをとった戦で、この地で共和国軍を撃退することは、アシュファーグを崇拝するルジーグの宿願であった。
 
 第二共和国軍は、これ見よがしに王国軍の前面に布陣。両軍は対峙したまま夜明けを待ち――そして、近衛騎士団の角笛の合図とともに、人類間最大の戦いが開始された。

 王国軍の先頭にいたゴブリン傭兵が、共和国軍に投石した。石弓隊のマスケット銃と、クロスボウの攻撃が返ってきて、傭兵団が四散した。ファレデミオンの号令により、王国弓隊が一斉に矢を射かける。共和国軍の後方から、巨人傭兵隊が上がってきて、石――というより、タルタルの成人よりも大きい、巨大な岩を投げ始める。王国弓隊も、さすがにこれにはひるんだ。次いで丘陵の頂上で、黄金銃士隊の大砲が火を吹いた。弓兵は取り乱さず、早急に陣形を整えて、主力である王立槍兵隊の後ろに回った。槍兵隊は前面に立ち、共和国主力の重装歩兵隊と激突。両軍主力の戦いが続いたが、徐々に共和国軍が王国軍を押し、槍兵隊はじりじりと後へ退き始めた。

 不利な戦況を見てとった【狼王】は、残った弓兵隊を右翼に集め、援護射撃をさせた。共和兵の足が止まった。ルジーグはチョコボにうち跨り、ナイトと白魔道士から成る王立騎兵を見渡すと、剣を抜き放って高々と号令した。

「我が命を、アルタナに!」

 騎士たちが続いて唱和した。「我らが命、アルタナに!」 彼らはチョコボで突撃を開始、王自身も近衛騎士隊を連れて後に続いた。騎士隊は左翼の重装歩兵を突き破り、敵の後ろへと抜けた。左手正面には、黄金銃士隊や鋼鉄銃士隊、巨人傭兵団が陣取った丘陵があったが、王は彼らを無視し、丘陵を大きく回りこみ、重装歩兵隊の後ろへ行こうとした。背後から主力部隊を叩こうと考えたのだ。

 騎兵隊に続いて、カフュー伯爵率いる傭兵騎士隊が抜けてきた。カフュー伯はチョコボを下りると、黒魔道士に魔法で援護させながら、全傭兵騎士を連れ、丘陵へと上り始めた。老獪な彼は、黄金銃士隊の大砲を押さえなければ、王国軍に勝利はないと読んだのである。

 黄金銃士隊ほかが陣取ったと思われる丘陵。【狼王】の騎士隊は、右手から後ろへ回り込み、画面手前に抜けてきて、重装歩兵隊の背後を突こうとした。
 洞窟の中にはグィンハム・アイアンハートの石碑があり、バストゥーク軍とサンドリア軍が睨みあっている間も、両国の商人が小麦を取引していた、と記述されている。「両軍の指揮官はかんかんに怒った」とあるが、第一次と第二次の、はたしてどちらで起こったのかは定かでない。

 ところが、黄金銃士隊と鋼鉄銃士隊は、共和国軍のエリート部隊であり、装備も訓練も充実していた。それに山岳戦では、高いところにいる方が有利である。カフュー伯は奮戦し、大砲を破壊、鋼鉄銃士隊を打ち破った。だが、残る黄金銃士隊を相手にするには、寄せ集めの傭兵では足りなかった。彼らは猛反撃を食らい、多数の負傷者を出した。ここでカフュー伯は、一時の停戦を提案し、その間に負傷兵を後送しようと持ちかけた。黄金銃士隊は承諾した。だが隊長のフリーゼが、卑怯にも――と言っていいと思うが――カフュー伯の背中に向けて発砲、一時停戦の誓いを破って彼らに襲いかかった。騎士隊は大混乱に陥った。
 
 傭兵騎士隊の中には、カフュー伯の長男・ファマンタールも従軍していたが、父の遺骸を回収する間もなく、命からがら転がるように下山した。彼は生き残りの騎士を取りまとめ、黒魔道士たちの助けを借りて、置いてきたチョコボにすがりついた。彼らはチョコボを駆り、東へ――パシュハウ沼の方向に逃走した。黄金銃士隊もそれに気づいたが、彼らは騎兵を持たないため、騎士隊を追討する術がなかった。こうして傭兵騎士隊100名は、かろうじて命を拾ったかたちで、戦場を離れていった。


 一方、【狼王】ルジーグは、ガルカ傭兵隊相手に思わぬ苦戦を強いられていた。
 ガルカ傭兵隊は、重装歩兵隊の右翼後方にいた。300人にも満たない寡兵だったが、歴戦の古強者ぞろいであり、共和国最強の部隊のひとつだった。シュルツは気球から信号を送り、ガルカらに騎士隊の前面をふさぐよう命令した。もとより撃退できるとは思っていないが、ルジーグへの迎撃体勢が整うまでに、いくらか時間を稼いでくれればよい、と彼は考えていた。

 【狼王】には、その意図がわかっていた。軽くいなして通過しようとしたが、思うようにはいかなかった。ガルカらは素晴らしい働きをして、騎兵隊の進軍を遅らせた。ルジーグが彼らを振り切って、ようやく歩兵隊の背後に迫るころ、前線の戦況は大きく変化していた。シュルツの意図がずばりと当たった格好だった。

 王立騎士団の主力、槍兵隊を率いていたのは、騎士団長ファレデミオンだった。彼の懸命の制止も空しく、槍兵隊は下がり続けていた。彼らの左右は崖で、後退方向は、漏斗状に狭くなっていた。従って、せっかくルジーグが突き崩した左翼も、進軍を許すことによって隙間が埋まり、堅固な壁に戻りつつあった(傷ついた左翼の兵は、重装歩兵隊の後ろへと下がってしまっていた)。

 軍を建て直そうとするファレデミオンは、必死の鼓舞を続けている。その彼が、突然に息を飲んだ。槍兵隊の足が止まった。隊長の声が届いたからではない。彼らは北を向き、そこから現れたものを見て、目を丸くしていた。バルクルム砂丘より出でて、王立騎士団を絶望の淵に叩き込んだもの――果たして、それはいったい何だったのだろうか。

◆シュルツの大釜

 後年歴史家は、このときの状況を、シュルツの大釜と呼んでいる。気球から眼下の戦況を見て、シュルツは思わず口笛を吹いた。コンシュタット北部の出口において、王立騎士団を前後から包囲する陣形、それこそが彼の思い描いた、コンシュタット作戦の最終形態だった。

 ファレデミオンらが見たのは、1000人余りの重装歩兵――第三共和国軍だった! 彼らはバルクルム砂丘の方から、騎士団の背後を突いてきたのだ。前門に重装歩兵、後門に第三軍団、逃げ場はなかった。王立騎士団は絶体絶命だった。

 そのとき【狼王】はどうしていたか。

 ガルカ傭兵隊を振り切り、重装歩兵隊の背後についたルジーグは、槍兵隊の包囲網に気づいていた。この絶望的な状況に、王自身も進退窮まり、覚悟を迫られた。
 彼は即座に決意し、付き従った騎士たちに言った。

「いまだ我ら騎兵は、余力を残している。このまま逃げようと思えば逃げられよう。が、それでは王立騎士の名折れだ。ここはきゃつらに突撃し、槍兵の退路だけでも切り開き、討死して後世の語り草になろうではないか」

 このとき、随行していたタブナジア騎士団が、【狼王】の元へ進み出て答えた。

「我らタブナジア騎士団、初代侯爵の遺命にして、サンドリア王陛下の御ために死ぬるよう、つねづね仰せつかっております。さては、今がそのときと心得まする」

 そうして彼らは、ルジーグが命令をくだす前に、チョコボを下りると、竜を連れて敵の方へ走り去った。【狼王】は突撃を命じた。騎兵隊が土煙をあげて、重装歩兵隊の背後に襲いかかった。サンドリア騎士の盟友、タブナジア騎士の捨て身の活躍と、騎兵隊の勇猛な戦いぶりによって、何とか分厚い兵士の層を切り崩し、北へと突破した。このときファレデミオンは、王立槍兵の生き残りを逃がすため、殿を守って奮戦、命を落とした。【狼王】は北へ逃げ、ラテーヌ高原にたどり着いたが、出発前に5000人を越えていた兵は、わずか数十名にまで減っていたという。

◆戦いの終わりに

 こうして第二次コンシュタット会戦は、サンドリア王国の完全な敗北に終わった。この戦いには若干の続きがある。バストゥークは勢いに乗り、ロンフォールにまで攻め上ったが、【狼王】は神殿騎士と在郷騎士を集め、共和国軍を撃退、すんでのところで、何とか国土防衛に成功した。

 第二次コンシュタット会戦は、人間同士が行った最後の大規模な戦争と言われる(注1)。第一次と違い、はっきりと決着がついたこともあり、この戦いで両国の明暗は分かれると思われた。だがバストゥークは、711年の鎖死病流行で大打撃を受け、追撃の勢いを殺されてしまった。一方のサンドリアも無事ではすまなかった。【狼王】は共和国との再戦計画を練っていたが、遂にそれは叶わなかった。不仲だった弟との破局が、いよいよ決定的なものになり、王国を二つに引き裂く大事件――二朝時代の幕開けへと発展していったからである。

注1
 しかしながら786年には、バストゥークとウィンダスの間でエルシモ海戦が起こり、無視できない規模の犠牲を出している。


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