その268 キルトログ、フェ・インに踏み込む(1)
いいかげん足が棒のようになったころ、目的地のフェ・インに到達した。灰色の雪霞の向こうから、デム・メア・ホラの三奇岩を思わせる、サーメット質の大建造物が浮かび上がった。 私は歓声をあげて駆け寄った。
フェ・インは古代人の都市である、と噂に聞いていた。しかし鼻の院院長ルクススは、古い遺跡であると私に説明している。いま目の前にあるこれは、城砦か寺院でこそあれ、どうしたって都市跡ではない。だがつらつらと考えるに、このような寒冷地においては、野外に街を築くことは困難である。屋内に都市を建設した例は皆無ではない。例えばアンティカがそうだし、伝え聞くところではゴブリンの一氏族も、地下に街を築いているらしい。 興味しんしんで私は遺跡に踏み込んだ。 人の話し声がした。 入り口の柱の影にふたつの人影があった。このような僻地でいったい誰が、と思いきや、姿に見覚えがある。小柄な方はライオンに違いない。問題はもう一人だが、意外なことに我が同族――ガルカなのだった。漆黒の鎧、どくろを連想させる兜は、紛れもない暗黒騎士ザイドではないか。 いったいこれはどういう組み合わせなのだろう。私は彼らに近づき、そっと柱の陰に身を忍ばせた。我ながらうまくやったと思う。 ザイドがライオンに話しかけている。 「……むかし三国共同で、この呪われた地の調査が行われた……もう30年も前の話だ」 二人は声を落としている。周囲に人がおらぬと認識しているはずだが、よほど用心深いのか、あるいはそれだけの内容なのか。 「ガルカの剣士ラオグリム」 「調査の結果は出たの」 「いにしえの災い?」 ライオンは親指をかんで、「闇の王の幻影は、こう言ってたわ。自分を目覚めさせたのは、お前たち人間だって。憎しみ、おそれ、ねたみ、傲慢、無知。災いが、あまねくヴァナ・ディールを被うだろう、と……」 「なるほどな」
「大昔の伝説でしょう」 「そうさ」 ザイドは肩をすくめた。 「そろそろ行くぞ。今さら何がわかるとも思えんが……気にかかるのでな」 暗黒騎士は去った。ライオンが後を追った。二人の姿が闇に消えると、彼らの靴音が遅れて、紫色の闇の中へと吸い込まれていった。 (04.06.21)
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