その268

キルトログ、フェ・インに踏み込む(1)
フェ・イン(Fei'yin)
 古人が住んでいたとされる伝説の都市。
 この町に足を踏み入れて帰ってきた、数少ない生還者の話によると、今も古人の末裔が住んでいて、侵入者を喰らうと云うのだが……。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 ボスディン氷河に戻ると、不気味な空気は消えうせたが、かわりに天候が吹雪に戻って、我々の進行の邪魔をするのだった。身体は冷えるし歩きにくい。視界もきかぬ。やりづらいことこの上ない。モンスターに見つからないよう、インビジやスニークをかけながら進むので、余計に負担のかかる行軍となった。

 いいかげん足が棒のようになったころ、目的地のフェ・インに到達した。灰色の雪霞の向こうから、デム・メア・ホラの三奇岩を思わせる、サーメット質の大建造物が浮かび上がった。

 私は歓声をあげて駆け寄った。


フェ・イン
記念撮影

 フェ・インは古代人の都市である、と噂に聞いていた。しかし鼻の院院長ルクススは、古い遺跡であると私に説明している。いま目の前にあるこれは、城砦か寺院でこそあれ、どうしたって都市跡ではない。だがつらつらと考えるに、このような寒冷地においては、野外に街を築くことは困難である。屋内に都市を建設した例は皆無ではない。例えばアンティカがそうだし、伝え聞くところではゴブリンの一氏族も、地下に街を築いているらしい。

 興味しんしんで私は遺跡に踏み込んだ。

 人の話し声がした。

 入り口の柱の影にふたつの人影があった。このような僻地でいったい誰が、と思いきや、姿に見覚えがある。小柄な方はライオンに違いない。問題はもう一人だが、意外なことに我が同族――ガルカなのだった。漆黒の鎧、どくろを連想させる兜は、紛れもない暗黒騎士ザイドではないか。

 いったいこれはどういう組み合わせなのだろう。私は彼らに近づき、そっと柱の陰に身を忍ばせた。我ながらうまくやったと思う。

 ザイドがライオンに話しかけている。

「……むかし三国共同で、この呪われた地の調査が行われた……もう30年も前の話だ」

 二人は声を落としている。周囲に人がおらぬと認識しているはずだが、よほど用心深いのか、あるいはそれだけの内容なのか。

「ガルカの剣士ラオグリム」
 ザイドは指を折った。
「ヒュームの女格闘家コーネリア、同じく戦士ウルリッヒ。エルヴァーンの騎士フランマージュ、タルタルの白魔道士イル・クイル、ミスラの狩人ラブンタ――全員が偉大な勇者だった」

「調査の結果は出たの」
 ライオンが尋ねた。

「いや、調査は事故で中断され、たいしたことはわからずじまいだった。ラオグリムとコーネリアが死んだのさ。他のメンバーもみな、後に不慮の死をとげたと聞いているが……。
 もしかしたら、彼らは本当に目覚めさせてしまったのかもしれんぞ。この地で眠っていた、恐ろしい呪いをな」

「いにしえの災い?」

 ライオンは親指をかんで、

「闇の王の幻影は、こう言ってたわ。自分を目覚めさせたのは、お前たち人間だって。憎しみ、おそれ、ねたみ、傲慢、無知。災いが、あまねくヴァナ・ディールを被うだろう、と……」

「なるほどな」
 ザイドは動じた様子もない。
「クリスタルの戦士の話を聞いたことがあるか? こういう歌だ……」


祝福されしヴァナ・ディールの地に、おおいなる災いが満ちる。

何万年の長き暗黒を退けていた古の封印がやぶれ、終りなき悪夢が目覚めようとしている。

罪なきものの地が大地に流れ、世界は恐怖と哀しみ、絶望におおわれるであろう。

だが、希望がないわけではない。

どんな嵐の夜をもつらぬき、輝くひとつの星がある。

どんな獣の叫びにも消されず、流れるひとつの唄がある。

そうだ。知恵と勇気と信念をたずさえた、誇りたかき者。

さぁ、深き眠りよりさめ、いまこそ立て。

伝説の勇者たち、クリスタルの戦士。


「大昔の伝説でしょう」

「そうさ」

 ザイドは肩をすくめた。

「そろそろ行くぞ。今さら何がわかるとも思えんが……気にかかるのでな」

 暗黒騎士は去った。ライオンが後を追った。二人の姿が闇に消えると、彼らの靴音が遅れて、紫色の闇の中へと吸い込まれていった。


(04.06.21)
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