その51

キルトログ、スターオニオンズの集会に久しぶりに顔を出す

 自分が自分であることを証明づけ、人生の杖になるものをアイデンティティと言う。私にとってのそれは、ガルカであり、ウィンダス人であるという誇りだ。ささやかなものを追加していいのなら、実はもう一つある。胸に光り輝くバッジ。愛と正義とたまねぎ。

 スターオニオンズの集会は港区の倉庫裏で行われている。私が久しぶりに訪ねたときも、彼らは顔をつき合わせて面白そうな話に興じていた。団長どのは私のしばらくの不在を気にするようすもなく、「新入り」と私を呼んで、とっておきの話を聞かせてほしかったら、
ワイルドオニオンを4つ持ってこいと命ずる。ご存じの通り、たまねぎはスターオニオンズの象徴に他ならない。

 ワイルドオニオンはゴブリンが時に身につけていたりするものだが、こんなものを何に使うのかというと、爆弾を作るのである。さぞかし涙が止まらないだろうと思われる。必殺のオニオン爆弾は、名前があまりにそのままだが気にするものではない。繰り返す。たまねぎはスターオニオンズの象徴に他ならない。

 彼らは
「お化けの家」で標的を待ち伏せした。偉大な魔法使いカラハバルハが本来住むところだった住居は、彼の失踪とともに、入るもののないまま長い年月が過ぎ去った。ウィンダスの子供たちはこの建物を「お化けの家」と呼んで面白がっている。子供というのは日常の延長にあるものさえ冒険の対象にしてしまう。まさか本当に幽霊が出たりはすまいが、もとの家主が伝説的な人物だから、おそらく余計に話に尾ひれがついたものと思われる。

 彼らが待ち伏せたのは、彼らが言うところの「天敵」だった。すなわちこの国で最も有名な泥棒のミスラである。あくまでも噂の域を出ないが、ナナー・ミーゴはこの家をアジトの一つとして使っているらしいのだ。

 晴れた日の昼下がり、しゃなりしゃなりとやって来る猫人。

 炸裂する爆撃。

 屋根から投げた爆弾の成果を見るために、団長たちが降りていったところ、ナナー・ミーゴは日ごろの気だるい艶っぽさもどこへやら、珍妙な格好で地面にうつ伏せ、たまねぎの強烈な臭気に身体を痙攣させていた。

 やがて鬼の形相で立ち上がり、追いかけてくる泥棒ミスラに、スターオニオンズはきゃあきゃあと歓声を上げて逃げ回った。その際にピチチちゃんは、何だか丸くてきれいな玉を、ミスラが落としていったと証言した。どうやら魔導球の一つであるらしい。

 以上の冒険談を団長どのは楽しそうに私に話した(注1)。頃合いを見て退出する。ナナー・ミーゴがなぜカーディアンの頭脳を所持していたかについては謎である。彼女のことだから、また何かよからぬ計画を企んでいるのかもしれない。


 競売所というところに初めて顔を出してみた。石の区と森の区両方にカウンターが複数備え付けられていて、武器や防具などを自由に競り落とすことができる。

 各品物に関してはそれぞれ、いついくらで売れたか記録が残っている。これを基準に入札を行う。通常の競りと違うのは、出品者の希望小売価格に達した時点で競りが成立することである。入札そのものは続けて何度でも行えるので、金額をこまめに上げる手間を厭わなければ、過剰に金を払うこともない。

 購買者にとってまことにありがたいシステムではあるが、各国を渡り歩いていた行商人には嫌な時代が来たとも言えそうだ。ヴァナ・ディール中の流通機構が一本化されたことにより、需要と供給が均衡し、適正な市場価格が発生する。この壁を破ってどう儲けるかが商人の腕の見せ所である。むろん私にそんな才覚はない。

 私が買ったのは、いささか気が早くはあるが、レベル17に達したときのための装備一式である。
リザードヘルム、リザードグローブなど、リザード系と呼ばれる防具がひとそろいで、所持金が一気に半分に減ってしまったが、バストゥークでバザーをひたすら覗き回る手間を考えると安いものだ。

 新しい装備をつけての出発は心が弾む。上記の防具は時期尚早ながら、今持っているのよりずっと軽く、ダメージの大きい
ライトアクスを手に入れた。モグ金庫にしまったままだった魚鱗の盾を引きずり出し、代わりに使い古しの義勇兵の爪を収めた。ブラスバグナウを買ったからだが、入れ換えに競売所に出さなかったのは、国から支給された品を売る気にはどうしてもなれなかったせいだ。やはり私には商魂が決定的に欠けているのだと思う。


 タロンギでゴブリンに追われているタルタルがいたので、挑発を仕掛けてひっぺがした。さっそくライトアクスの使いごこちを試したのだが、悪いことに自分より手ごわい獣人で、正義の味方きどりがたちまち危機に陥ってしまった。

 助かったのは横からケアルをかけてくれた親切な御仁がいたからだ。ゴブリンが倒れる頃には、私が助けた相手がいなくなっていて、変にばつの悪い思いをした。挑発をかけた経緯を説明していると、先刻のタルタルさんが戻ってきたので、3人で礼を言い交わしたりしたあと一人で北上した。

 タロンギには孤独に戦う冒険者も数多い。お互いにそれがわかっているせいか、親切に魔法をかけてくれる方もかなりいる。目があったのち、私にプロテスを唱えてくれたミスラの人がいた。組もうか、という話にはなったが、彼女が急にジュノに出かけなくてはならないはめになり、仕方なく手を振って見送った。私はひとりで
キャニオン・クロウラーやヤグードを狩り、頃合いを見てウィンダスに戻ることにした。

 帰国途中、実に久しぶりにLandsendに会った。先日Ryudoと友情の誓いを交わしたし、Poporonとも話したばかりだ。皆でタロンギに出てから、あれからずいぶん長い年月が経ったような気がする。私が5レベルの頃だったから、思えばゴブリンに挑んだのは無謀な戦いだった。しかしどのような結果に終わろうと、無鉄砲な冒険は、無知であるがゆえに楽しいものだ。知ることは世界を早く狭くする。何も収穫の秋を迎える前に、楽しみの芽を双葉ごと摘み取ってしまうことはない。

 サンドリアは逃げない。ジュノは逃げない。たどりつくべき場所も、会うべき人も逃げない。私は少しだけ大人になったが、相変わらず無知のままだから、世界は依然として広いまま、あるがままの姿で、私がいつかたどり着くときを静かに待ち続けている。


注1
 このイベントは、Kiltrogに関しては回想シーンのみでしたが、実際に爆弾投下に参加するバージョンもあるようです。
 また、イベント後には黒魔法ブレイズスパイク(物理攻撃を受けると、火の属性のカウンターを返す)が手に入ります。

(02.08.31)
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