その53

キルトログ、ラテーヌ高原でオークと戦う
ラテーヌ高原(La Theine Plateau)
 比較的高い土地に広がる大草原地帯。
 かつては野生チョコボの産地として知られていたが、最近ではもっぱら大羊の放牧地として羊飼いに利用されている。
 高原を切り裂くように縦横に地裂が走っており、雨後そこによく虹がかかるため、別名『虹の高原』と呼ばれている。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
嵐?の様子 ラテーヌの暴風雨

 高原は、雨が降っていた。

 分厚い雲が天空を覆っていた。林立する針葉樹のこずえを見上げると、綿のようにしぶき雲がまとわりつき、紅葉に彩られた木々が、奥に向かって蒼い陰を連ねている。あいにくと高地特有の強風に煽られ、粒の細かい雨が吹き上がり、渦を巻く。大粒のは私の鎧を容赦なく叩く。たちまち全身がずぶ濡れになり――病気をするほどやわではない身体ながら――不快感を覚えた。これではせっかくの景勝地も台無しである。

 あいにくと雨宿りできる場所もない。山の天候は変わりやすいというから、雨が早晩やむことを祈って歩き出した。起伏は思ったほどなく、踏み固められた道がくねくねと続く。そまつながら杭を打って区画を整理しているところが文明の香りを漂わせる。その向こうに、ずんぐりとした人影が立っているのを見て立ち止まった。

 
オークだ。私は喉の奥で唸った。

 オーキシュとも言うこの獣人に会うのは私も初めてであった。やせっぽちのヤグード、ちびのゴブリンなどとは異なり、小柄なガルカなみの体格がある。山椒魚のようなまるい頭部、広い口、狡猾そうな小さな両眼はクゥダフを連想させる。野蛮な武器を手に取り、ひどい猫背のまま歩く様子を見ると、知性的とは思いがたいが、最強の誉れ高きサンドリア騎士団を相手どり、一歩も引かない強力さを考え合わせれば、決して侮れない敵である。

 ただそれ故、ラテーヌでの腕試しには絶好の相手なわけだ。


オーキシュ・ネックチョッパー オーク(オーキシュ)。画面はオーキシュ・グラント

 私は斧を抜いて、オーキシュ・グラントに戦いを挑んだ。身体をはすに構えて打ち込んでくる槍は強力だったが、何とかこちらの体力が尽きる前に仕留めることが出来た。少しでも濡れないよう、木の下で回復をはかる。雨は当分やみそうにないから、このまま暫く休んでいてもいい。目が覚めたら、綺麗な風景を眺めることもできるだろう……。


 天候は回復していなかった。真夜中に起きたせいもあったかもしれない。
 しばらく道沿いに歩いてから、ギデアス行をともにした友人、Balltionがこの地にいることがわかった。彼と連絡を取り、案内を頼むと、快く引き受けてくれた。異郷の地で心強い援軍に出会ったものである。

 私の一番の目的は、例の奇岩だった。ここでは
ホラの岩というらしい。誰に頼まれたわけでもない、ただの好奇心からなる調査行で恐縮だったが、Balltionは迷わず私を先導する。天気はいつの間にか回復し、青い空にホラの岩の勇壮な姿が映える。これがデムやメアの岩と全く同じかたちであって、やはり台座に虹色のクリスタルを回しているのを見ても、もはや驚くことはない。違いがあるとすれば、人間の背丈ほどの大きさの石柱――ストーンヘンジ――が周囲を取り囲んでいる点だろうか。実用性があるとは思えないので、宗教用なのだろうか。仔細は見当もつかない。

 バルクルムへ出撃して兎でも狩りますか、とBalltionが言った。私はせっかくだから、ラテーヌで少しオークやキノコと戦いたい、と答えた。キノコというとパルブロ鉱山の奥にいたケイブ・ファンガーが思い出されるが、それの亜種と思しき妖怪が闊歩しているのを、先ほどの一騎打ちのさなかに目撃したのである。

 どうやらその
グラス・ファンガーは、ネムリタケという良いきのこのかけらを落とすらしいので、Balltionが重点的に探してくれた。鉱山の一件を話すと、Balltionはリベンジですねと顔を紅潮させたが、正確には親せきに恨みを晴らしているにすぎない。せっかくだから彼の剣と私の斧とで連携の練習をし、褒美のようにネムリタケをひとつ手にいれた。

 何種類かのオークとも戦ってみたが、毒を受けたように黄色い顔のや、迷彩を施した麻布を被っているのなど、いろいろいて面白い。オークはヤグードなどより全体的にずっと強いのだ、とBalltionが興奮ぎみに話す。なるほど鳥人はずっと線が細い(かわりに狡猾そうではあるが)。ウィンダスの友好路線が彼らを弱体化させたのか、それとも単に種としての限界なのか、よくわからない。温暖な気候風土に恵まれたミンダルシア大陸は、クォン大陸ほど凶暴なけものに恵まれない。生物の形質は生息する環境に大きく左右される。タルタルの呑気で温和な性格も、ウィンダスに根を下ろしたことと決して無縁ではないだろう。


 Balltionが「サンドリアに行きませんか」と私を誘った。確かにかの国にはかねがね興味を寄せていたが、ラテーヌから先に足を伸ばす予定は当初からなかった。私はサポートジョブをまだ取っておらず、落ち着かない身の上であるから、ヴァナ・ディール最古の王国の重みは、後日改めて味わいにいこうと考えていたのだ。だがオークたちの巣窟に出撃するのだ、という話に、戦士の血が騒いだ。Balltionの説明によれば、そこはヤグードにとってのギデアスにあたるという。

 この殴りこみはいかにも楽しそうだったので、私はふたつ返事で提案を受けることにした。Balltionは私を先導して、北へ向かって走り出す。といっても道はまっすぐ続いている。地図を見ても、コンシュタットやタロンギのように、曲がりくねった迷路の部分などはないようだ。

 それにしてもラテーヌの広大なことと言ったら! タロンギのざっと倍はあるのではないか、と思う。基本的に起伏に乏しく、のどかな田舎道が続くが、景色は美しい。その話をBalltionにしたら、なるほど言われてみれば綺麗だと反復する。彼のお気に入りは、雨が唐突に去り、日の光がさし始めたときに現れる、大きな大きな虹だ。運がよければ東の空に見える、と彼は強調する。ぜひその光景を私の記録に残しておきたいものである。

 ラテーヌ中央の林を駆け抜けるさい、ちょっとした事件があった。Balltionが驚いて脇へとびのき、私を木陰へと誘う。前方に目をやると、こんもりした小山のような影が木々の間を往復している。背中のこぶから溶岩のように生えた剛毛には見覚えがある。これがトレマー・ラム同様、あらゆる冒険者に忌み嫌われている、通称「ラテーヌの大羊」――
バタリング・ラムだ。

バタリング・ラム トレマー同様に悪名高いバタリング・ラム。可能な限り近寄って撮影

 Balltionが大羊を恐れる様子にはただならぬものがあったが、私の知る限り彼は臆病ではない。力を手に入れるまでは、みんなこうやって大羊の影に――私がコンシュタットの夜霧の中で体験したように――例外なく怯えるのだ。我々の今のレベルでは数撃でやられてしまう、とBalltionはしきりに強調する。幸いなことに奴はこちらに気づかず、地響きを立てて突進してくることはなかった。私も参考までによく見ておこうと、出来るだけの距離まで近づいたが、羊が身体の向きを変えるたび、背中に冷や汗が通り抜ける感覚を覚えたりした。

 ただ、大羊がこの場所にいるということは、よほどのことがない限り先回りされることはないことを意味する。むしろ残りの道程は安心して進むことができた。Balltionと私は改めて、サンドリアに隣接する
西ロンフォールの地へ足を踏み入れた。
(02.09.05)
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