その59

キルトログ、セルビナで「生きのびる道」を探る

 バルクルムやブブリムで慌しい毎日を過ごしているうちに、私は二つの港町をじっくり見て回ることもしなかった。そういう心の余裕がなかったせいだが、まだ自分より数段上の獣人がうろついているせいか、いまだに街中でゆとりを持つことができないでいる。


 宿屋にウィンダスの国旗が掲げられていることからもわかるように、マウラは我が連邦の領土である。一方セルビナは、グスタベルグで産出する諸鉱石の輸出港として栄えたが、大戦のさい独立を宣言して自治領となった。ただ飛空艇が空輸を実現させてから、港町としての重要性は薄れつつある。現在ではマウラとの定期便に面影を残しながらも、漁業や畜産などの土着産業に活路を見出そうとしている最中であるらしい。

 町長邸は役所も兼ねている。町長の
アベラルトは年老いたヒュームである。辣腕家というよりは好々爺といった印象が強い。彼は探検家グィンハムの研究をしているのだと私に告白する。グィンハムだって? どこかで聞いた名前だと記憶を探ってみたら、果たして灯台の南に石碑を残していた、海洋冒険家のファースト・ネームだということにようやく思い至る。

キルトログ&アベラルド町長 町長が地図を見て物思いにふける……

 アベラルトの話によると、現在のヴァナ・ディールの地図が出来たのはまったく彼のおかげだという。彼は書を捨てて大海に出、大陸を歩きたおして数々の未知を既知のものとした。グィンハム・アイアンハートはまさしく現在の冒険者の元祖だといえる。ウィンダスを見出すどころの話ではない。そんな偉い人物だとは私もぜんぜん知らなかった。

 町長の研究によれば、私がグスタベルグで見つけたような石碑が、世界中のいたるところにあるらしい。これを写し取ってきて貰いたい、というのが依頼の内容である。彼から
粘土を渡された。これを壁面に押し付けて型をとれというのだろうか。もしかして写し間違いや、ものぐさな嘘つきに創作される危険を考えているのかもしれない。まあ確かにメモを取るより楽ではある。楽ではあるが荷物がかさばって仕方がない。


 ある意味セルビナで最も重大な人物に出会った。彼は町のはずれで海を見ていた。一瞬見たこともない偉大なグィンハム・アイアンハートを連想する。しかしこの
イサシオが身にまとっているのは、未知の世界への希望ではなく、厭世観だった。

 私は19レベルになっていたから、彼の話を聞く資格がある。噂では彼は17レベル以下の人間とは話をしようともしない。過去未熟なままの冒険者が大勢押しかけたので、もしかしたら嫌気がさしたのかもしれない(注1)

 国に名誉に、すなわち彼の信じる正義のために戦い、裏切られたイサシオは、大勢が人生の美徳とするこれらに見切りをつけ、後続の冒険者に「生き延びる道」を伝授することに、かろうじて生きがいを見つけていた。みなまで言うことはない、すべてわかっている。この試験こそが大人の冒険者になる通過儀礼なのだ。長くかかったが、私もとうとうこの入り口に立ったのだ。だがこれに関してはいったん筆を休め、次回の記録で詳細を述べたいと思う。

キルトログ&イサシオ イサシオ。彼の弟子となった冒険者は数え切れない

 セルビナで再びCharaと会った。もうだいぶ具合がよくなったのだ、という話をすると(注2)「よかった」と答えた。仲間たちは狩りの休憩中で、時間が来たら再び集まる予定なのだと言う。どういう経緯かWhaleはメンバーから外れ、姿が見えなかった。

 数日後ガルカの集まりがある、というのを風のうわさで聞いていた(注3)。集合は
北サンドリアらしい。部外者だが一応顔を出しておきたかった。横のつながりが薄いことは私も気にかかっている。都合の悪いことにあんまり時間がなく、Charaたちと付き合えたとしてもせいぜい一日というところだった。それなのに休憩期間がなかなか切れないものだから、余計に時間が少なくなってしまった。

 パーティには新しい戦士がいた。ヒュームの
Thor(トール)といって20レベルになる。Descartesが復活して来ないので、仕方なく置いて出た。Oriemonはしきりに眠い眠いを繰り返している。何でも私と組む前からずっと一睡もしていないらしい。

 強い日差しの下、ゴブリンと
ブルータル・シープを数匹倒した。Oriemonが連携の話を持ちかける。Whaleが抜けたのでまた状況が変わってしまったのだ。Oriemonは自分が最初にウェポンスキルをはなつから、と主張した。私たちが同意してそれで行こうといったところ、ああどうしても眠い、眠いから寝てきていいかとOriemonは前言を撤回し、町に戻ってしまった。これで何となく節目だという空気が流れた。「解散しますか」とCharaは言った。あっけない、というか尻すぼみな終わり方だった。だが個人的にささやかな用事を抱えていたから、結局何があろうと抜けなくてはならなかったのだ。私は性急にさよならを告げて、一人ラテーヌ高原を抜け、西ロンフォールを縦断した。


 私がサンドリアについた時には、約束の時間を何時間も過ぎていた。当然周囲にはガルカの尻尾すら見えない。広大なラテーヌを渡る時間と、じゃれつきに来る弱いオークを打ち据える時間を計算し間違えたのが敗因だ。きっと人は集まっていなかっただろう、と自分に言い聞かる。そう思いたい。が、少なからず落胆した心の慰めにはならなかった。

 私は一人さみしくセルビナへと舞い戻ってきた。私にはすることがある。案外それは目の前の試練に専心せよという天の啓示だったのかもしれない。


注1
 最初の頃は「レベル18以上」という制限が設けられておらず、レベル10程度でサポートジョブを取りに来る冒険者が後を断たなかったとの話です。

注2
 NTTに連絡して予備回線に切り換えてもらってから、接続が安定しているようです。

注3
 このページにある時間に関する記述はすべてヴァナ・ディール時間によるものです。従って集会のあった「数日後」とは数時間後のこと、実際に遅刻した時間は10数分でした。

(02.09.17)
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