その72

キルトログ、サンドリアを後にする

 冒険者は、周期的にある種の困難に頭を悩ませるようになっている。これは宿命と言っていい。私にもその時期が再びやって来た。財布の中の路銀が、ほとんど底をついてしまったのだ。

 よく言われることだが、魔道士の使う金額は、戦士やモンクの比ではない。装備を整える費用に加え、呪文の書を買う金も別途必要だからだ。魔道士の着るものや武器などは、前衛のジョブのそれらに比べれば、ずいぶんと薄っぺらく頼りないけれど、魔法を助ける性能が備えられていたりして、別の付加価値がつくことが少なくない。そうなるといっそう値が張る。ときどき金がないと称して、古い鎧を着たきりすずめな戦士が、一人で必要以上に傷を負い、仲間に大きな迷惑をかけたりすることがあるが、あれにはあまり感心しない。金欠は決してこの種の釈明にはならない。なんとなれば、金がないという点では、冒険者ほとんど全てが公平だからである。

 三国を渡るあいだ、私は雑用を繰り返して金銭を得てきたが、サンドリアではあまり儲けが芳しくなかった。北サンドリアには、コウモリの翼をふたつ200ギルで買い取ってくれる役人がいる。北国では重度の消耗品である火打ち石を集めてきたり、野兎の毛皮を剥いで持ってきたり、いろんな依頼をこなしたけれど、目下のところこれが一番の大口仕事だ。だが、ウィンダスで絹糸をいくらで買い取ってくれたかを思い出すといい。差は歴然だ……そしてこの収入では、11レベルを越えて充実しつつある白魔法を買い集めるのに、ほとんど何の足しにもならない。

 サンドリアの斜陽化が、この景気の悪さの一因になっているのだとは思う。だがこうした間接的な影響を除けば、少なくとも私は、冒険者という身分で差別され、歓迎されなかった数々の思い出にもかかわらず、この国に居心地の悪さを覚えたことはない。いまだに私は、エルヴァーンの誇り高き精神を尊敬している。出来ればもう少し滞在を続けて、一時はクォン大陸全土に覇をとなえた、500年の歴史をもっと肌で感じたかった。だが、経済事情がそれを許さない。私は出ていかなくてはならない。寂しく思ったが、決断に時間はかからなかった。どのみち私にはシャクラミの地下迷宮へ潜り、禁書を入手するという使命があったし、用事があれば、会いたい人がいればいつでも、来たい時に来ることができるからだ。

 そう結論がつくと、未練をひきずらないうちに、出国した方がよいと考えた。次の行き先は決めてある。バストゥークだ。移動するには戦士に戻る必要があるだろうが、白魔道士の鍛錬はしばらく続けたい。少なくとも、シャクラミに挑むのに恥ずかしくないだけのサポート・レベル――15レベルと踏んだ――は欲しい。私はラテーヌにいたのだが、ロンフォールを駆け戻りつつ、ケアル2を買って覚えたら、ジョブを変えてすぐに出発したい、と考えていた。

 その途中、騎士の泉の近くで、Leeshaに声をかけられた。

 少し立ち話をしたが、彼女もサンドリアを離れるつもりだと言う。行き先はウィンダスである。先延ばしにしていたミッションを完遂させたいのだそうだ。ともに門出の日に挨拶できたことは幸運だった。彼女はサンドリア人である。そして、私はウィンダス人だ。コンクエストでは、再びバストゥークが一位を取り返し、二国が同盟状態に入っていた。だから私はこんな言葉で、彼女とともに気勢を上げた。
「打倒、バストゥーク!」

 私のサンドリア滞在物語はここまでにしたい。最後に、我々の偉大な先人について語っておこう。以下に、セルビナの町長に頼まれていた石碑の全文を掲載する。これを見れば、グインハム・アイアンハートが、深めた見識を無駄にせず、的確に将来を見据えていたことがおわかり頂けるだろう。獣人の源流について述べられているのにも注目したい(注1)


この地を訪れたのは、実に10年ぶりだったが、はるか北方に住んでいた筈のオーク族の戦士をあちこちで目撃し、驚いた。

 王国の膝元たるこの森ですら、しばしば見かけたが、誇り高きエルヴァーン族の騎士諸君は、彼らを下等種族と見下し、歯牙にかけていないようだ。

 私は断言しよう。そう遠くない将来、彼らオーク族は、数万、否、数十万の軍隊を率いて、この美しき王国に流れ込んでくるであろう。

 願わくば、心ある者が立ち上がり、この予言を老人の戯言としてくれることを願い、ここに記す。

 天晶暦761年 グィンハム・アイアンハート
 
注1
 サンドリアの北には、闇の王が拠点としていた人外魔境の地バルドニアがあります。


(02.10.23)
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