その100 キルトログ、ジャグナー森林に分け入る
危険の横溢するヴァナ・ディールの中でも、ここはたいへん油断のならない土地として知られる。足を踏み入れてその理由の一端がわかった。低い下枝を持つ木々が密集し、ほとんど前方の視界がきかない。横断者は突然の敵襲に備えて油断なく四方を警戒しなくてはならない。それは冒険の鉄則だが、敵がどの木立ちに隠れているかわからないという緊張感は精神を著しく疲労させる。まして昼なお暗き森である。士気に少なからず影響を受けても不思議ではない。
明るいうちにさっさと横断してしまおうと目論んでいたのだが、あいにくの曇り空で、夜同然のくらさである。おまけに周囲に気を取られているので、足は遅々として進まない。そのうちに原生林じみた密集地を抜け、けもの道の域を出ないとはいえ、ようやく道らしい道が続くようになった。地図を確認すると、北へ伸びた通りは東へ折れて、川を横断したのち、くねくねと曲がりながら北東へ抜けている。そこまで歩けば、次の目的地であるバタリア丘陵とは目と鼻の先だ(注1)。 針葉樹の森であったロンフォールより、ジャグナーはやや湿気が高いように思う。不気味な原色の巨大キノコがいたるところに群生している。フォレスト・リーチ(森ヒル)が丸い身体を弾ませて私と並行する。北へ続く道はなだらかで、木々も徐々に隙間を広げ、最初分け入った時よりもずっと周囲の視界が良好になった。広いと言うほどではないが、少なくとも下ばえから襲ってくる敵に後れを取りそうなほど狭苦しくもない。
ジャグナーが危険視される要素のひとつに、モンスターが強力であるということが(当然)あげられる。しかもヴァナ・ディール全土でそうあるように、獣人だけが好戦的な敵とは限らない。この地には少なくとも、オークやゴブリン並みに気をつけなくてはならない、とりわけ強い怪物が2種類徘徊している。 その内の一匹が霞の向こうにさまよっていた。 青々とした毛皮を持つのはフォレスト・タイガーである。虎は哺乳類最強の動物の一種で、それゆえに最も油断ならない敵だ。藪の中を音もなく移動して背中からとびかかってくる。その敏捷さときたら! ましてや森林は彼らのホームグラウンドである。この天性のハンターの牙と爪から、一人だけで身を守れる者はそう多くはない。 遠き虎影を見てとって私はそそくさとその場を通り過ぎた。太陽はとっくに南中して、思いがけず早々と西に傾こうとしている。 苔むした粗末な橋を見つけて私は立ち止まった。無事中間点にたどり着いたのである。清く澄んだ水の流れが心地よい安堵感をもたらす。清流はここより北で巨大なメシェーム湖に流れ込む。小川のせせらぎをしばらく眺めたあと、私は腰を上げた。何しろまだ道程は半分以上残っているのだ。 歩き出して間もないうち、私はそれを目撃した。密集した木立ちの中で、木の一本が動いているのだ。何者かが揺らしているわけではない。幹が直立したまま、引きずられるようにじりじりと移動している……横にである。歩いているのだ! この呪われた土地では、植物でさえ自らさまよって犠牲者を探し求めるのである。 このウォーキング・ツリーが、魔法のかかった植物なのか、擬態動物なのか私にはわからない。ただその巨体同様、恐るべき敵なのは間違いない。ツリーは主にじっとして敵を待ち伏せる。静の樹木に動の虎。ジャグナーが油断のならない場所であるのは、これだけでもきっとおわかり頂けることだろう。
先を急いだこともあって、日が暮れる頃には森の出口にいた。ほっと安堵の息をつく。第一の難関は突破した。だが油断は許されない。ここよりジュノとの間には、更に危険なバタリア丘陵が横たわっているのだ……。 注1 「ジャグナーには、オークの本拠地であるダボイに通じる道があるという。寡聞にして私はその場所を知らない」 (Kiltrog談) (02.12.28)
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