その109

キルトログ、エルディーム古墳の入り口で虎を狩る


「え〜白魔道士、白魔道士はいらんかね〜」

 チョコボに乗り、単騎メリファト山地を駆けているところだった。私の耳に直接売り込みの文句が届いた。知人はさほど多くない身だが、こんなふうに話しかけてくる人物は一人しか知らない。

 ヒュームのLeeshaはジュノにおり、私はすぐに駆けつける、と言った。彼女は自身が語るように白魔道士であって、おそらくそれが原因だろう、しばらく経ったあと、今ちょうどよいスカウトを受けて、パーティを組むことになった、と連絡が入った。優しい彼女が私のぶんの雇用も確保してくれたので、おかげで大鳥の鞍から降り、街に入ったころには、あらかたメンバーが決まっていて、改めて募集を始める手間は全く必要なかった。

 ヒュームの
Kostadinov(コスタディノフ)。戦士25、白魔道士12レベル。
 ヒュームの
Yashikin(ヤシキン)。吟遊詩人25、白魔道士12レベル。
 タルタルのDamiano
(ダミアーノ)。黒魔道士25、白魔道士12レベル。
 エルヴァーンのCarta
(カルタ)。シーフ25、戦士12レベル。

 そしてLeesha(白魔道士25、黒魔道士12レベル)である。彼女が言うには、このパーティはサンドリアとウィンダスの混同部隊だった。人種の点から言えば、ミスラがいたらより完璧だったろう。


 私たちはジュノ上層の出口に集合した。入国のさい真っ先に潜った門を、今度はバタリアへと逆向きに進むのである。準備ができるまで、私はDamianoととりとめのないお喋りをしていた。Leeshaはわが装備をじっと見て、私がセレニティリングをつけていることをしきりに羨ましがったりした。

 我々は、バタリアの剣歯虎、あるいはオークを標的に選んだ。

 同地には、エルディーム古墳という、古代エルヴァーン族の作った墳墓が点在している。その内の大半は、玄室で行き止まりとなるが、時に通路が奥に続いているものがあって、私たちはそういう古墳の入り口に陣取り、玄室の中まで敵を誘い込む。バタリアのモンスターは強力である。かなわないこともままあるが、勝てないと判断したなら、そのまま古墳へ逃げ込んでしまえばいいのだ。これは冒険者に人気のある狩りのやり方で、人数の多い時には、同じ室内に2、3のパーティが同時に集い、戦うこともあるという。

 
 古墳のうちどの穴が地下に通じているか、外見だけではわからないのだが、もう慣れているらしい仲間たちは、迷うことなく一つの遺跡に駆けて、中にいた先客たちに挨拶を述べながら、陣形を整えたのだった。

 
玄室内部の様子。
出口の近くで、別のパーティが戦闘している

 釣り役はCartaが行った。気持ちの準備も整わないうちに、彼がいきなり剣歯虎を引っ張ってきたので――むろん、直前に報告はあったのだが――驚いた。青い毛皮の巨大な獣が、Cartaの背中に肉薄する! 見かけ通り楽な相手ではないのだが、我々は何とかこれをねじ伏せた。

 バタリアの虎は獲物として人気が高い。黒虎の毛皮とか、黒虎の牙という、良質の素材を落とすからである。例え自分で合成をせずとも、こういう品物は結構な値段で売れるのだ。虎はだいいち獅子や龍と並ぶ百獣の王である。敵として戦って気持ちの高揚しないわけがない。

 私にとって、こういう玄室で戦うのは初めての経験である。正直、すごくやりづらかった。というのは、薄暗い遺跡の中では、虎の青い毛皮が若干保護色の役目を果たすこともあって、獲物がひどく見えづらいのである。

 室内の狭さからくる、窮屈な感じもマイナスだ。狭いので別の集団と混戦になるのもいただけない。いちど入り口の近くで戦っていたら、我々の中では最も経験深い前衛のリーダー、Kostadinovに、もう少し壁によって戦うように、と指示された。だがいったん戦闘に入ったら、方向感覚を維持することさえ困難だ。相手が強敵ならなおさらである。従って私は、余計な手間を省くために、あらかじめ壁際に移動しておくことにした。Cartaが獲物を釣りに、Kostadhinovがその補佐に外へ出ても、私は暗がりの中で、Yashikinの朗々とした歌声と笛の音を聞きながら、ひたすら獲物が連れてこられるのを待っていた。

 Yashikinは吟遊詩人である。CartaとKostadinovが敵を引っ張ってくると、彼らにもその効果が届くように、入り口の近くまで進み出て歌を歌う。それは開戦の合図でもある。そういうとき、ほぼ同時に「キャー! ステキー! 痺れるー!」という声がかかる。Leeshaである。これが戦闘のたびに繰り返されるので、彼女はいったい何を言っているんだろうと思っていたら、どうやらYashikinに対する歓声らしい。彼女が色つきの紙テープでも持っていたら、きっとためらわず隣人の方へ毎回投げ贈ったことだろう。

 いったいLeeshaは、私の古い友だちであるDeniss同様、明るい娘さんである。その感情表現はけっこう個性的だ。少なくとも私は、冒頭のような言葉で、自らを売り込んでくる人を知らないし、詩人の歌に毎度黄色い声をあげる人にも、まだ会ったことがない。

 そのわれらがLeeshaだが、今回の戦いで一番割りに合わなかったのは彼女だろう。何せ、Leeshaだけが敵にやられたのだから……2回も。

「自分の体力を回復させないせいですかねえ」

 チョコボに乗って戻ってきて、彼女は笑った。他の人が死ななければ、私はいい、とは彼女の弁だけれども、その天晴な心がけはともかくとして、鍛錬は6人が生還して初めて成功と言うのである。パーティで死人が出ることは、前衛と後衛のいずれであろうと、それぞれの未熟さが証明されるも同然なのだ。

 私たちはみんな彼女を心配していた。まして私は前からの友だちである。だから彼女には自分を大切にして欲しいし、彼女を大切にしようという仲間の意志にもぜひ答えて欲しいのである。


こときれたLeeshaが横たわる……

 狩りの終りに、ジュノへ駆け戻る途中、Cartaが野良オークに襲われるという事件があった。我々は最後の連携を駆使してこれを振り切り、全員が重軽何がしかの傷を負いながらも、何とかヘブンズ・ブリッジを通って門の中へ逃げ込んだのであった。
 

 パーティが解散しても、私とLeeshaだけが、ホームポイントの傍に残っていた。もう少しで26レベルでしょう、と彼女が言った。お見通しである。もう数回の鍛錬でまた実力があがる、私もまたそういうところまで来ていたのである。

 Leeshaは、よかったら手伝うけど、と申し出てくれたのだけれど、私は書きものもあるし(そう、この文章だ)、疲れたから部屋へ引き取って休む、と答えた。

 すると彼女はがさごそと片手斧を取り出して言うのだった。

「間違って買ったんですー」

 タイガーハンターである。虎を麻痺させる特殊効果を持つ斧で、むろん本来の破壊力も強大だ。26レベルから使える、私にとって実にありがたい武器である。

 私は素直に礼を言い、彼女の贈り物を喜んで受け取った。


【追記】

 上で述べている奇声の件だが、本人が言うには、詩人に対する声援ではなくて、パライズ(敵を麻痺させる呪文)を唱えるときの掛け声であるらしい。だが、それにしても……

(03.02.13)
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