その119 キルトログ、引き続き、ロランベリー耕地を抜ける
長雨の降り続くパシュハウ沼を初夏とするなら、ロランベリーはまるっきり春の印象で、暖かい日差しが心地よく、一見のどかな農地のように思える。むろん実際は違う。ヴァナ・ディールは、プロマシアの悪意とアルタナの親心に溢れた世界であって、心休まるのは塀の内側だけである。もしじめじめした沼地を抜け、小春日和に気分を良くしていても、ここまで侵攻してきたクゥダフたちや、水気もないのにうろついているオチューたち――モルボルの親せき――を目の当たりにすれば、出かかっていた鼻歌も瞬時に凍りつくことだろう。 我々は南から進入したのだが、街道は弓なりに右に曲がって、北東の橋のたもとへ抜けている。途中右側に畑が見える。そもそもエリアの名の由来は、ロランベリーという赤い甘い果実の名産地であることによる。その名前と形状からして、どうやらブドウの一種であるようだ。残念ながら私はまだ食べたことがないのだが。
耕地には明らかに人の手が入っているのだが、熟練の冒険者ですら尻込みするような危険領域で、いったい誰が世話を行っているのだろうかと、一時期冒険者の間で不思議がられていた(ちなみに、今でも不思議がられている)。この近辺に生息するグゥーブーは、グゥーブー・ファーマーというのだが、まさか奴らが鋤鍬(すきくわ)を持つとは思えない。単に名付け親がちょっとした洒落っ気の持ち主だったのだろう。おそらく真相は単純で、とんでもない命知らずが、金銭欲で育てているに違いないのである。ジュノやバストゥークを見ればよくわかるが、人間というのは、金銭が絡めば驚くほど愚かにも、勇敢にもなれる生き物なのだ。 ところで、ロランベリー耕地のように温暖な地域は他に思いつかない。一番印象が近いのはサルタバルタである。魔法で本来の姿から遠ざかってしまったが、おそらく事故が起こる前は、こことよく似た気候だったろう。両地帯はともにフルーツの名産地である。例えばサルタバルタでは、サルタオレンジという、タルタルの頭ほどもある巨大な柑橘系の果物が採れる(同地に行ったとき、幹ばかり太い不恰好な巨木を見つけたら、見上げてみるといい)。この果物を搾ったオレンジジュースは栄養満点で、右脳をすっきりさせ、魔法能力を自然に回復させる力がある。ヴァナ・ディールのフルーツジュースは、およそ以上のような理由で、魔道士たちに重宝されているのだ(注1)。 閑話休題。 このような温暖な気候は、何もロランベリーにばかり理想的なわけではないと見えて、街道をはずれ、丘の方へ上がっていくと、みずみずしい果実を鈴なりにした潅木を、他に何本も見ることが出来る。その色やかたちも様々で、リーチを思わせる桃色の実もあれば、まるっきり石炭のように黒い実もある。手押し車や篭が散乱しており、人間たちがちゃっかり採取しているのは明らかだ。おそらく誰か野心的な農業経営者が、この地のよく育つ果物を見て、ロランベリーの人工栽培を思いついたものだろう(地図には、ブルルやディクトモントなど、畑の所有者名らしい固有名詞が記入されている)。
いやらしいモンスターたちの姿を除けば、この一帯は実に美しく、移り変わる景色を眺めるだけでも楽しい。同じ通り抜けるのでも、バタリアやソロムグのような埃っぽさがないぶん、気分は大いによろしい。まあ、学術的な興味からすれば(少なくとも私に関しては)どのような地域でも余り優劣は生じないのであるが。 我々はチョコボを下りて、無事にジュノに繋がる大橋を渡った。 注1 果物系のジュースは、効果時間のあいだ、MPを回復させる働きがあります(一番効果が高いのはメロンジュース)。また、飲み物は食べ物とは別に摂取することが出来るので、重ねて食すことも可能です。 (03.03.20)
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