その123

キルトログ、謎のヒューム女性「ライオン」に会う


 5人いる私の仲間のうち、二人はLeeshaとLibrossであるが、もう三人はサンドリアに直接出向いている筈であった。私は彼らに、ウィンダス大使館で待っていてくれるように伝える。

 仲間のうちの一人はRagnarokである。彼とは既にダングルフの枯れ谷で出会った。Ragnarokはバストゥーク人であるが、ついこの間ミッションを終了させて、いちはやくランク3に昇進していた(注1)。たとえ冒険者の出身であっても、この階級になると一目置かれるようになり、各国要人と面を合わせる機会もたびたび訪れる。私の請け負った試練は、一介の風来坊が、国際人の端くれと認められる大きなチャンスなのだ。

 領事館に入った私は、Ragnarokと挨拶を交わした。汗を拭うのもそこそこに領事に話を聞くことにする。私の仲間は三人とも外国人であるから、本来この場所におらずともよいのである。無駄に待たせるのは忍びない。

 領事に謁見する前に、私は受付嬢に来訪の旨を伝えた。そのとき視界の端に、ヒューム女性がひとり、奥の部屋から進み出て来るのがうつった。


 この女、名はライオンという。何者かは知らない。彼女は自ら身分を明かさなかったし、少し立ち話をしただけなので、正体を推し測る材料にも乏しかった。ただ役人臭は乏しいように感じたので、おそらく政府の人間ではないと思われる。かといって、単なる冒険者にしては、妙に達観した意見を述べていた気がするけれど。

 ライオンは軽装だった。胸当てに腰まわりだけの短いスカート。シーフか狩人が好むような格好だ。人目を引くのは赤い髪で、柔らかく膨らんだそれは、吹き上がる泉のように頭を覆い、肩に流れていた。私はたてがみを連想した。サンドリア王国……通称「眠れる獅子」……ライオン。私はくすくすと笑った。辻褄が合うのは結構だが、雌の獅子にたてがみは不要だ。それともライオンというのは、男まさりを意味する彼女のニックネームなのだろうか。

 謎の女は、私に近づきながら、独り言のように語り始めた。落ち着いた話しぶりを聞けば、彼女が――獅子であろうとなかろうと――理知的であることははっきりと感じ取れる。その内容も興味深いものであった。彼女はいったい何者だろう、と絶えずいぶかしみながらも、私は言葉に耳を傾けた。そうするだけの価値がある内容だったから。
 

 勢力を着々と伸ばしている獣人オーク……奴らは遂にゲルスバにまで侵出した。次の目標はサンドリア本国で、ほどなく前線基地から本格的な侵攻が開始されるだろう。

 ところで、オーク本来の性質からすると、この成果は出来過ぎと言える。奴らは好戦的であるし、確かに腕っぷしは強い。だが利口ではない。こざかしい魔法を使う連中も中にはいるが、オークは基本的にみんな猪武者である。それは軍隊としては致命的である。長い目で見れば、人間さまの知恵の前に敗走するだろうことは明らかである。

 だが実際そうはなっていない。奴らの武器は日増しに高度化し、今では飛び道具や卑劣な罠を意のままに操っている。

 何故か。

 オークが賢くなったのだ、という発想は可能である。突然変異的に強力なリーダーが現れれば、鼠ですら恐ろしく狡猾となる。だが、ライオンはそう単純には考えていないようだ。どうも何者かが、裏で糸を引いているのではないか、と言う。サンドリア王国に……あるいは人類に、脅威をもたらそうとする何者か。

 そいつがオークに知恵を与えた。兵法、戦車、投石機。

 だが、いったい誰が?

 私が首を捻る傍ら、ライオンは領事館を出て行ってしまった。何だかセミ・ラフィーナのような女性だ。そう感じたのは、実際の印象以上に、二人と会った状況が似ていたからかもしれない。

領事カサロロ

 奥の部屋では、ひとりのタルタル女性が、領事の話を熱心に聞いていた。彼女は私の仲間の一人である。名をApricot(アプリコット)という。今ここにいることからも判るように、彼女もウィンダス出身で、私と同じように天の塔から密命を受け、大陸をはるばる渡ってきたのだ。

 私はApricotの傍らで耳を傾けた。領事の話は、ライオンの語ったことと寸分違わなかった。特に驚くにはあたらない。彼女は領事の部屋から出てきたのだし、本国から使者――私たち――を待つうち、二人でその話題について語っていたとしても何の不思議もない。単にライオンの正体が余計に謎めくだけである……一国の領事と、世界の裏事情に関して話し合えるその資格に関して。

 領事がライオンの言葉に加えたことはたった一つである。「ミッションの管轄はサンドリアなので、ドラギーユ城にいる、宰相のハルヴァー氏からお話を聞いて下さい」

 そういうわけで私たちは、サンドリア王国の中枢、ドラギーユ城に場所を移すことになったのである。


(03.04.03)
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