その125

キルトログ、ゲルスバ野営陣に戦闘隊長を追う

 早朝、私たちはサンドリアを出立した。ロンフォールには濃い朝霧がかかっている。この森にも様々な表情があるが、ふと振り返り、もやの中かがり火を灯す城門を眺めやると、サンドリア出身の冒険者たちが、この光景の中に見出すだろう郷愁が、何だか私の胸にも迫ってくる思いがした。


 ロンフォールからゲルスバは目と鼻の先である。目的地が近くなると、途端にバリケードと旗の数が多くなる。二重丸の印を見たApricotは、このマークはいったい何だろうと言う。彼女はウィンダス出身であるが、自国の他にはジュノにしか行ったことがなくて、オークの陣地に踏み込むことも初めてなのである。印の意味など考えたことがない私は返答に窮した。ヤグードのそれはまだ特殊な形であったが、流石に二重丸ほど単純になると、それが何のシンボルであるかなどは見当もつかない。

 めいめい意見を出しながら、私たちは野営陣に踏み込む。ここに6番目の仲間が待っている筈である。

「バットギットは、築陣術に長けてるんですよね」

 そうLeeshaが言う。続けてLibrossが、きゃつは体力と腕力には乏しいが、策に長じたずるい奴だ、と付け加える。標的の話をしているうち、端正だが精悍な面つきのエルヴァーンに出くわす。彼がRagnarokの友人Jack(ジャック)だ。メンバー唯一のナイトで、銀色に輝く鎖かたびらを身に纏っており、いかにも頼もしい。

 6人揃った我々は奥地を目指した。先導するのはLeeshaである。私が彼女と出会ったのはこの場所であった(ついでを言うと、Librossに声をかけられたのは西ロンフォールである)。私がここに来るのは2度目に過ぎないが、こうやって道を辿っていくと、もう随分前になる筈の前回の冒険が逐一思い出されて懐かしくなる。オークどもは私たちに恐れをなし、全く襲って来ようともせず、思い出し笑いをする暇はいくらでもあったのである。

 Apricotにとっては珍しい風景だろうと言うので、ぜひオークの珍兵器の一つである戦車を見て貰いたかったが、残念ながら道中の洞窟にはそれらしい影が無かった。なに、任務を終えて戻るまでに一体くらいは発見できるだろう。


妙に仲のいいオークたち。
左がバットギット

 長い吊り橋――思い出深い吊り橋!――を渡り、バリケードの間を抜けると、そこがハルヴァーの言う高台の集落である。問題の戦闘隊長はすぐに見つかった。どうやら部下の一人と思しきオーキシュ・メスメライザーと、仲良く肩を組むようにして、陣地をうろついている(注1)。その姿が滑稽なので思わず笑ってしまった。

 バットギットは腕っぷしはそう強くないと言うが、「ウォーチーフ」などというからには、それなりの戦闘能力を誇る筈である。だが我々を目にしても、積極的に襲い掛かってこないところを見ると、実力の差は歴然と言わねばなるまい。あんまりすぐにとどめを差してはと、私たちは攻撃を渋り、周囲の景色を眺めていた。Jackなんぞは暇を持て余して、手近なオーク連中を叩き切ったりしている。

 Apricotが崖から下を眺めて感嘆の声を漏らした。それが景色のせいか、高さのせいかはよく判らなかったが、私はゲルスバの築城法が、理に適っていることを彼女に説明した。

 一般的に野城は山上に築かれる。敵を上から見下ろし、陣地の動きを監察するとともに、心理的圧力を加えるのは、兵法の基礎中の基礎である。唯一の問題は補給路だが、確かな井戸がひとつあれば籠城戦に耐え得る。眼下に流れる川の流れを見れば、ゲルスバの水源が豊富なのは一目瞭然である。

 この知恵は、バットギットのような小賢しいオークによるものなのか。それとも誰かの……。

 我々は奴らに襲い掛かった。戦闘は一瞬で終わった。私は後悔した……これほど呆気ないものと知っていたなら、クリルラの用件でも聞いてくればよかったものを。


 帰路、私たちは戦車を探した。どうせなら珍しいのを、ということで、ごく稀に現れる、手強いネームド・モンスターが出没する場所を、Leeshaに案内して貰った(注2)

オーク戦車、出撃!
水路を進む。
Apricotは水面の下

 ゲルスバでネームド・モンスターに遭遇する確率は大変に低いそうで、我々もこれを見つけることは出来なかったが、Apricotに見せたいものを見せることは出来た。オーク戦車の珍しい造形をひとしきり観察した後、我々はあっさりと決着をつけた。我々にとって難儀だったのは、戦闘よりも、その場所への行き来だった。ガルカの私であっても、心臓のすぐ下辺りが喫水線となるので、みんな鎧を濡らさずに済むことは出来なかった。とりわけタルタルのApricotは、どんなに背伸びをしても、顔が水面から下になったので、呼吸を我慢するのにずいぶん苦労したことだろう(注3)


 私たちは街へ戻った。領事へ報告をしたら、彼女はにっこりと笑って、今度から私とApricotを、冒険者として承認するよう宰相に伝えておく、と言った。それはつまり、今までは風来坊としてすら認知されてなかったことを意味する。

 あな恐ろしや、サンドリア政府。

注1
 二匹はポリゴンが一部重なった状態でしたが、モーションキャプチャーが共通していたらしく、同じ経路を動き回っていたので、見かけ肩を組んだような状態のまま、離れることがなかったのでした。

注2
 オ−ク戦車のNMは、24時間に一度しかポップせず、出現率が極めて低くなっています。

注3
 キャラクターが呼吸できないような状況でも、ゲーム的な制約は何もありません。完全に水面下に沈んでしまうのは小柄なタルタルくらいですが、水の中から景色を眺められるのは、同種族のプレイヤーに与えられたささやかな特権かもしれません。


(03.04.12)
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